8話 のどかな青春
追っ手がいないことを確認した謡はポケットへと手を伸ばして、メールを送る。
「こっちはもう大丈夫。いつもの河原で合流しよう」
慣れた手つきで10秒とかからず打ち終えると、送信をクリック。
すると、その2秒後に「了解」と書かれたメールが謡のケータイに届き、そのあまりの速さに苦笑する。
「相変わらず、返信速いな」
漆黒の空を見上げ、ひとりごちる謡。
涼しげな風を浴びながら、待ち合わせの場所へと急ぐ。
小川の心地良い音を聞き続けて、30分。
ずっと走ってきたのか、ワンピースを着ていることも忘れ、膝に手をついて息を整えた今回の「救世主さん」は寝そべる謡に、慌てた様子で近づくと。
「それでーーーーーなんでこんなことになったのよ、バカ」
到着して数秒後に聞こえたのは突然の罵声。
どれくらいのアングリーレベルかを確認するため、慎重に彼女の青い瞳を覗くと、怒りの色が色濃く見え、完全に怒らせてしまったと悟った謡は苦笑いをするしかなかった。
「どれだけ心配したかわかってるの?あんな目の前で捕まりそうなところ見せといて、一体どういうつもりよ」
彼女の怒りの弾丸はあと何発込められているのか、想像したくもなかった謡はとりあえず言い訳を試みる。
「いや、だってTRUERだってバレちゃったみたいだし、ああするしかなかったんだよ。他にどんな手があったというんだね?」
少しふざけて誤魔化そうとした謡は、まさに火に油を注ぐ結果を招いた。
「どんな手があったというんだね?じゃ、ないわよ。あーーーもう捕まっちゃえばよかったのよ。それで後悔すればよかっただわ」
シナモン色のセミロングを揺らし、両手を腰に当てて、本当は思ってもいないことを怒り任せにいってしまう綾瀬薫。
「ごめん、ごめん。言ってみただけだよ。とりあえず、今回の件は全部僕が悪かったよ。助かったよ、カオル」
薫は目を合わすのが恥ずかしかったのか、明後日の方向を見ながら、照れていた。
「そんな、お礼を言っても機嫌は直んないわよ」
プイッとしている彼女は正直に言って可愛かった。
もちろん、そんな恥ずかしいことを口にできるわけもなく、話を今日の収穫へとシフトさせた。