3話 表の友情
「もう朝よ、いつまで寝てんの?」
手慣れたように母親はカーテンを両手で開け、窓を開ける。
暗がりの部屋に朝日が差し込むと、眩しい光はまるでレーザー攻撃を浴びせるように僕の目を容赦なく直撃させた。
「わかった、わかった。今起きるから」
暖かいぬくもりのあるベッドを惜しみながら朝食の待つリビングに移動した。
いつもと変わらぬ朝を家族で迎え、制服に身を包み、片手にバッグをぶら下げ登校した。
時刻は8時25分。
授業が始まる5分前になったことを告げる予鈴が鳴り響く。
僕はそれを見計らって2つ右に座っている竜司に声をかけた。
「おはよう、今日は久しぶりに昼休み、屋上に行かない?」
「ーーーオーケイ、それじゃ昼休みな」
了承の返事を得て、静かに自分の席へと戻った。
竜司は中学時代からの付き合いでいつも一緒にいた親友だ。
こいつには自分が嘘を見抜けると言ったことはこれまでになかったが、恐ろしく勘のいいやつで、もしかしたら気づいているのではないかと疑っている人物の1人でもある。
今のところ、何も起きていないことを考えるとまだ誰も密告していない可能性は高いと言えるが、すぐにでも言われる危険性がある以上安心してもいられない。
そんな心の状態だったせいか、昼休みまでの化学、数学、英語、保健、どの授業も全く頭に入って来なかった。
待ちにまった昼休みがきて、竜司は僕にアイコンタクトをした。
これから例の場所にいく合図だろう。
遅れて教室を後にし、屋上へと向かった。
「なんかあったのか?」
眼光を光らせ、竜司は切り出す。
「ああ。いや・・・」
何からいえばいいか、言葉に詰まる。
「なーんてな、多分だけど、お前の話したいことって、昨日の、あ、の、ニュースなんじゃないか?」
「お見事。まさにその通りだよ、あのニュースのーーー」
「俺はもっと具体的なことまでわかるぜ、謡。ここに来たのはお前がTRUERであることを他人に言わないでくれ、って頼みに来たんだろ?」
心臓が縮み上がる。
身体中の血管も収縮し、悪寒が走った。
なんて勘の良さだ。
それだけじゃない。
コイツは僕に何も言わせないで、トラップを仕掛けてやがる。
完全に鎌かけだ、これは。
加えて、僕の反応を見ることで、本当にTRUERかどうかを探りにきてるのは間違いない。
その根拠として、今のところコイツは質問、し、か、していないのだ。
それはつまるところ、TRUERの最大の弱点。
嘘をついているかどうか、判断できない。
TRUERは嘘を見抜くことに長けているが、それが質問であれば話は別。
言ってみれば、こちらは質疑応答の応答の場面でのみ力を発揮できる。
したがって、こちらの利点は完全に無力化されたと言っていい。
だからと言って、岩のようにおし黙るわけにもいかない。
それこそ、やつの思う壺だ、あいつの質問を肯定することになる。
「面白い冗談だ。僕がTRUER? そんなに1億円に飢えてるのか? 竜司」
竜司は密告しても大丈夫な人物か、こちらの反応を見ている、のだと思う。その真意をYESかNOか、判断できるフレーズを引き出せば、僕の勝ち。確実に TRUERだと確信できる反応を見せたら、竜司の勝ちだ。
『慎重に言葉を交わすキャッチボール』が続く。
「やっぱり、謡。お前はそうやって、はぐらかすよな。 俺はそんなに信用ならないか?」
「信用で言えば、お前は僕の中では一番信用できる男だよ。 だから、ここではっきり言うが僕は嘘を見破れるような力はないよ」
その後も激しい疑心暗鬼の質問がぶつかり合い、なかなかお互いの本音が見えない時間が続いた。
「なるほどな。最後にもう一度だけ聞くがお前はTRUERじゃないのか?」
「もしTRUERだと言ったらどうする?」
今まで否定してきた僕だったが笑みを浮かべて、突然反対のことを言い竜司の動揺を誘う。
「どうもしなーーーいや何でもない。もう授業が始まる」
最後に言葉を濁し、彼は去っていった。
僕の頭の中のセンサーは彼の途中だった言葉を見逃すことなく反応していた。