執行猶予三日目 エプソード:羽根突き
食事もそこそこに済ませ、日も昇り始めた。
「そろそろ、正月遊びでもやりますか。」
「そうですね。ひさしぶりに腕がなります。ほら、小町も起きなさい。」
子猫のようにすやすや寝ている。
「起きそうにねえっスけどね、小町さん。」
「お酒を飲ませたのが間違いでした。起きたらたっぷりお説教ですね。」
「まあ、オレたちだけでやりましょうよ、羽突き。」
「そうですね。羽子板探してきます。」
小町さんには悪いがしばらく眠ってもらった。紅魔館の図書館で眠り草というのがあることを知ったばかりでタイミングがよかった。睡眠ガスのようなものではないが、食べさせれば自然な眠りにつくというらしい。酒の効力もあったから実験大成功かどうかはわからないがこれで自分は映姫様と二人っきりだぜ、YEAH!
「茨戸、遅いですよ!早く、早く!」
「はーい(クッソー超カワイイなあ、この閻魔)。」
寒空の中、上司と二人、羽突きをする。こんなに嬉しい日は初めてだ。ところで自分は羽根つきというのはやったことがない。難しいのだろうか。
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”羽根つきッ!それは日本人が発明した、ウルトラスーパーエキサイティングなゲームであるッ!”
ルール 羽を羽子板で打ち返していき 先に落とした側の敗北となる
敗者は勝者により顔に墨を塗られる 悪いことではない
打ち返せなかった者がマヌケなのである
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「いいですか?茨戸、いきますよ。」
「いつでもどうぞ。オレの動体視力を甘く見ないでくださいよ。」
「そうですか、じゃあ遠慮無く!」
映姫様が手首のスナップをかけスマッシュを(注:羽根つきはテニスではない)放った。放たれた羽はドライブをしつつ(注2:羽はテニスボールではない)自分の足元に音もなく落ちた。
「茨戸、動体視力がなんでしたっけ?」
「さすが、映姫様(クッソ~、手首に目を奪われていなければ対応できたかもしんねーな、今の)。」
映姫様の実力を少し侮っていたが、ここで負けを認める程ではない。母さんはテニスの国際大会で本戦まで勝ち抜いたほどの実力をもっている。父さんは由緒正しき日本人。その間に生まれたこの自分は羽根つきをするにふさわしい血を体に流しているのだ。負けるはずはない。
「さあ、茨戸、私が何をするかわかりますね?」
「はい、顔に墨ぐらいどうってこたぁないですけどね。」
「じゃ、遠慮無く。」
墨を塗られるぐらいどうってことはない。映姫様が自分の顔に墨を塗るために顔を近づけて来る方が自分にとってマズい。
「さて、試合を続けましょうか。」
羽根突きを試合と言うか、この上司。しかしこの茨戸秀、手加減はしない。接待ゴルフなんて感じの勝負には絶対にしない。
「今度はオレからですよ。」
これはあくまでゲームだが利用できる力は全て使い勝利してみせる。さっきのスマッシュで映姫様の大体の力量はわかった。最初から本領を発揮したのを後悔させてやろう。
「(さっき、羽を拾うふりをして草を抜き、羽に付着させた。これで生命の動きが見える。たとえ、羽が目に見えない速さでも、軌道は手に取るようにわかる。どんなことでも閻魔にバレなきゃ罪には問われねぇのよ、映姫様。)」
カーンコーンと羽を打つ音が響く。羽根突きの勝利基準は知らないが、より多く顔に墨を塗った方が強いということだろう。ん、待てよ。そう考えると自分が映姫様の顔に墨を塗るのか?それはそれで気まずい。映姫様の肌を汚したくはない。おしろいならまだしも、カラスのような色で墨を妻(未定)をそめてはならない。
「(映姫様のこのスウィングはッ!まるで、スポーツカーがほんの1cm真横を通ったような、モーターがフルパワーでギャルギャル音を立てて回転するときに風を切るような音だッ!。)」
時折、映姫様の笑顔がかいま見える。何を考えているのだろうか。
「(この男、思ったより筋がいい。先ほどの羽が野球のフォークボールのような動きをするスマッシュといい、いいでしょう、この四季映姫、全力でこの羽根突き戦い抜いてみせます!)」
まだ、羽根突きを始めてからほんの二分ほどしか経っていない。しかし、この試合の決着はその半分の時間もかからないだろう。
「うおりゃああああっ!そろそろ厳しくなってきたんじゃあ無いですか?映姫様。」
「ハッ!あなたこそ、体が限界なのでは?」
動揺を誘ってみたが裁きを下すものというのは、意志が強い。自我とか決断力とかが飛び抜けて優れいている。やはり、映姫様に閻魔は天職なようだ。
しかし、ここに来てやはりあなたは女だ。この勝負を楽しもうとしている。そこにスキができるのだ。勝つことを考えている自分とは勝とうとする動機のレベルが違うのだ。
「うっしゃああああ!どうだ!打ち上げたぞ!」
羽は晴れ渡る大空を舞い、徐々にスピードを増し落ちてくる。
「あそこまで打ち上げるとは。やはりあなたは筋がいい。しかし、これしきのことで私が負けると思いましたか。」
羽は板に打たれ、真っ直ぐ自分の方向に向かってきた。
「かかったな!オレは「すでに」前に出ていたッ!ここから、股抜きするなんてのは新聞をビリビリに破くみてえ簡単なのよッ!この至近距離で放たれる羽をどう打ち返す?勝った!トドメ!」
”茨戸が羽を打とうとしたその瞬間、映姫さえも負けを認めた。ここまで頑張ったからいいかな。そう思った。しかしッ!茨戸自身も想定外だったッ!墨が目に滴り落ち視界を奪われたのであるッ!”
「な、何ィーッ!目が!そんなまさか!」
羽子板は空を裂き、羽は足下に音もなく落ちた。
「あ、えっと...私の勝ち......ですね!」
「はい、そう...ですね...。」
結局、負けてしまった。あそこまで勝ちを宣言した自分が恥ずかしい。
「茨戸、私は勝ちましたけど、最後のが決まっていれば、自分は負けていました。こんなに全力で戦ったのは久しぶりで楽しかったです。ありがとうございました。」
「そうっスか?楽しんでもらえたのならオレも嬉しいッスよ。ハハハハ。」
ありがとうございました...か。その声を聞けただけでもこの新年会に来たかいがあったと思う。
「そろそろ、家に入りますか。」
「小町さん起きてっかなー。」
家に入ると、映姫様がお茶を出してくれた。
「ねえ。茨戸...。」
「なんでしょうか。」
緑茶を飲みながら答える。
「その...来年もまた新年会やりましょう...か。」
「そうっスね。でも映姫様、来年のことを言うとほら、鬼が笑いますよ。」
「誰がうまいことを言えといったんですか。」
2人で笑っていると、小町さんが起きた。
「んん~。楽しそうだね。なんかありました?」
「ええ、とっても楽しかったですよ。とってもね。」
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楽しい時間はあっという間に過ぎていき、夕方になった。
「四季様、じゃあ、アタイはこの辺で。」
小町さんは能力を使えば一瞬で帰れる。自分はそうはいかないが。
「そういえば、映姫様。来年も新年会やるって言ってましたよね。」
「言いましたが、どうかしたんですか。」
「つまり、来年も部下として置いてくれるってことっスよね?」
焦るように映姫様が、
「そ、それとこれとは話が違います。でも......私はあなたを首にしたくはないです。」
「安心してください。クビになるようなことしませんから。それじゃ、帰ります。」
帰ろうとすると、後ろから名前を呼ばれた。
「茨戸ー、また羽根突きやりましょうねー。」
「はーい、練習しときますよー。」
映姫様に手を振りながら帰った。その時見た空はまるで、彼岸花の花びらのような色だった。
秀「正月SP終わりましたがいかがでしたでしょうか。映姫様。」
映姫「本編の真面目な茨戸とのギャップがひどいですね。」
秀「本編が真面目すぎるだけっスよ。」
映姫「それで、次の特別編の企画は何ですか?」
秀「バレンタインだそうです。しかし、その日は私立高校の受験4日前です。」
映姫「予約掲載があるではないですか。出しなさい。」
秀「よ、予約掲載ぃ~?作者の未来がかかっているんですよ~?」
映姫「関係ないです。出しなさい。」
秀「出すのはさきに本編を一区切りさせてから、となると思います。」
映姫「前から思っていたのですが、この小説を楽しみに待っている人なんているんですかね。作者の自己満足で書いてるような小説に。」
秀「え?いるの?いるんですか?いや、いない、いない、いない、いない!」
映姫「もしいたら、いたらの話ですよ。作者への感想を書いてあげたり、ブックマークとかしてあげてください。そうすると、投稿速度が早くなる・か・も。」