貴女に『参りました』と云わせたい!
「はい、詰んだ」
「また負けちゃったー。もう一回、もう一回だけ!」
「ダーメ。日も暮れてきたし、今日のところは終わり」
「京子のケチ」
「駄々こねても駄目なものは駄目」
「明日こそは勝つよ‼︎」
「いくら頑張っても、この角行京子様には勝てなくってよっ。それじゃあ、お先ー」
「もー、絶対の絶対に勝ってやる!」
◆
負けた。今日も負けた。
京子は強い。そりゃあ、親が棋士で本人も有段者の京子に、初心者の私が足下にも及ばないことくらいわかってるけど。
でも、いつか必ず勝ってみせる。勝って「ずっと貴女のことが好きでした」って伝えるんだ。
◆
私たちが出会ったのは、高校の入学式から何日か経った頃。私は、部活見学をしようと思って放課後の部活棟を歩いていた。
特に特技があるわけでもなくて、趣味も無かったけど、部活に入って、そんな自分を変えようと思っていた。
ふと、とある教室の前で女の子が扉に手を掛けて、その中に入ろうとしているのが見えた。
全身に衝撃が走った。
初めての感覚だったけど、それが『一目惚れ』なのだとすぐにわかった。
何か言わなきゃと思って、考えなしに声をかけてしまった。
「あ、あの!」
「……?あなたも、ここを見学しに来たの?」
「え?えっと……」
上の方を見ると、『将棋部』と書かれている札があった。
「は、はい。ちょっと興味があって」
「そ。なら、一緒に行きましょ」
「はい!」
もともと将棋に興味なんて無かったけど、その人と話す機会が少しでも増えるなら、と思って軽い気持ちで入ってみた。
でもいざ始めてみると、将棋はずっと奥が深くて、面白いものだって気づいた。
そのうち将棋部を通じて京子とも仲良くなって、今に至る。
それにしても、ほかにも戦い甲斐のある人なんてたくさんいるのに、こんな弱い私と毎日対局してくれるのは、なんで?
◆
次の日
「はい、詰んだ」
「また負けちゃったー。もう一回、もう一回だけ!」
「ダーメ。日も暮れてきたし、今日のところは終わり」
「京子のケチ」
「駄々こねても駄目なものは駄目」
「明日こそは勝つよ‼︎」
「いくら頑張っても、この角行京子様には勝てなくってよっ。それじゃあ、お先ー」
「もー、絶対の絶対に勝ってやる!」
◆
そのまた次の日
「はい、詰んだ」
「また負けちゃったー。もう一回、もう一回だけ!」
「ダーメ。日も暮れてきたし、今日のところは終わり」
「京子のケチ」
「駄々こねても駄目なものは駄目」
「明日こそは勝つよ‼︎」
「いくら頑張っても、この角行京子様には勝てなくってよっ。それじゃあ、お先ー」
「もー、絶対の絶対に勝ってやる!」
◆
そのまたさらに次の日
「はい、詰んだ」
「また負けちゃったー。もう一回、もう一回だけ!」
「ダーメ。日も暮れてきたし、今日のところは終わり」
「京子のケチ」
「駄々こねても駄目なものは駄目」
「明日こそは勝つよ‼︎」
「いくら頑張っても、この角行京子様には勝てなくってよっ。それじゃあ、お先ー」
「もー、絶対の絶対に勝ってやる!」
来る日も来る日も、私は勝てなかった。
どれだけ勉強しても、やっぱり勝てなかった。
◆
そのまたさらにさらに次の日
「はい、詰んだ」
「また負けちゃったー」
「毎回毎回飽きもせずに角行の駒ばかり狙おうとするからいけないのよ」
「だって角行を取ったってことは、角行の心を取ったってことになるもん」
「何か言った?」
「……なんでもないよ」
小声で聞こえないように言ったつもりが。もしかして聞こえちゃってたかな。
◆
そして、やっぱり今日も。
でもそんな風に毎日一緒にいられる時間が、楽しくて、愛おしくて、けれどどこか満足できなくて。
このままの関係の方が誰も傷つかなくて、みんな幸せなんじゃないかと諦めそうになった日もあった。
でも、その『みんな』の中に『わたし』は入っていなくて。
これからも、私は負け続けると思う。
でも、いつか絶対に、貴女の王将を奪ってみせる。
どうも、壊れ始めたラジオです。
ノリと勢いだけで書いたので、多少つじつまが合わない箇所があるかもしれませんが、その辺は見なかったことにしましょう。
それでは。




