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力試し

読んで下さる皆様ありがとう御座います


 1


 月光の中を、紅葉が舞い踊る世界で、対峙する二人の目線が交わり辺りの空気の質を変える。風が吹き落ち葉が、和也の右目を隠す。朧は、左に回り込み遮られた斬撃をする。

 和也は、切っ先が制空圏に入った瞬間、一歩進み、朧の右腕に手添えて和也の創り出した流れに乗せて捌く。そして、和也は、始めと同じ様に、朧と対峙した。

 それに対して朧は、和也からの攻撃に注意しながら、体勢を立て直して、間合いを取り構える。

和也は、構えを取る朧の動きを洞察する事に徹する。朧に対して不動を徹底し後の先を捉え躱し、あるいは、捌く事に専念する。そして朧に、語り掛ける。


「朧殿、私を殺す積もりで掛かって来なさい。我等の近い将来人に刃を、向ける事になる。その時でも、今の様な朧殿なら、無残に命尽きる事になるでしょう。それにこの天原和也、伊達に前大戦を、乗り切ってはいあない。私との闘いを持って平穏な暮らしと決別していただく。」


和也は、言葉を続ける。


「心優しいのは良い事だが、我等が真に相対するは、邪なる物。即ち、それらは、人や、妖魔に取り付き、陰陽大極の均衡(きんこう)を崩す物。陽の勾玉が、失われた今、人に取り付いた邪を、払う術を私達は持っていないのです。」


朧は、和也の言葉に衝撃を受けながらも構えを崩さず間合いを保ち、質問する。


「人の姿で、私達に襲い掛かってくるのですか。」


朧の問いに和也はこう答える。


「貴方を、打ち取る為だけなら、人の姿が良いのでしょうが、妖魔に変生させた方が、力が強く成る事も事実です。貴方が、殺気を持った人間に攻撃できるか試すとしましょうか。」


和也は、殺気で、朧を威圧し始める。和也は、殺気を纏い朧の間合いに近づいて行く。

 朧は、呼吸を整えて全てを覚悟して和也に斬り込む。和也は、攻撃を躱しながら踏み込んでいく。朧の攻撃は捌かれ時にはいなされる。

そして、刀を振り上げた瞬間に和也は、朧との間合いを詰め三日月の柄頭を指で押さえる。そして、和也は、朧に話し掛ける。


「さすがは、京子殿。弟子への仕込みは良い物だ。しかし、斬撃の速さはあるが軌道が単純で読み易い。実戦では虚実が必要だ。龍覇天朧流(りゅうはてんろうりゅう)の独特な虚実の闘い方を学んでいるはずだ。それを忘れているか、気付かないでいるのだ。良く思い出してみろ、そして、もう一度掛かって来なさい。」


 朧は、呼吸を整えながら目を瞑り師の言葉を思い出す。実戦で学んだ事や、昔の話を聞いた事などを思い出し開眼する。そして、特殊な歩法(ほほう)を使い始める。

今までと違う間合いの詰め方をして斬撃を仕掛けて来る。和也は、今までと違い構えを取り斬撃の虚実関係なく全てを刀の(しのぎ)に掌や手の甲等で捌き始める。

 全ての攻撃が終わった時朧は、間合いを取り呼吸を整える。その姿を見ながら和也は声を掛ける。


「確か、その歩法は朧でしたかね。十年でそこまで体得するとはさすがですね。気からを籠めた斬撃ならば、私の薄皮位なら斬り裂く事が出来るでしょう。少し力の籠め方を御教えしましょう。腹部に力を入れ打たれる時発勁(はつけい)の呼吸を使い防御しな。」


 和也は、朧に近づき、手に闘気を籠め、朧の腹部に、手を添えると攻撃を、撃ち放つ、言われたとおりにした朧は、衝撃に耐えながらも、後退させられる。


「気の使い方は感じる事が出来たと思うけれどもそれを、練習するのは、また別の機会にしよう。次は、竜人の姿で掛かって来なさい。」


 和也と、朧の間で流れる空気の流れは、周囲の景観とは全く違う物となっていた。


 2


 朧は、意識を丹田に集中させる力を籠める。そうすると、朧の体から光が発せられる。その光が強く成り、体を覆い隠し更に光を大きくしていく。    


 そして、覆い隠していた光を割り破り竜人の姿を現す。その時、和也は、朧に声を掛ける。

「今のままでは、竜人になる前に、殺されてしまいますよ。そこまで、転身に時間が掛かる事は無いはずですよ。直ぐに短縮は出来ると思いますが、それまでは転身中周りの気配を感じる事を忘れない様にして下さい。では、始めましょうか。」


 和也は、構えを取り正中線を乱さず、安定した姿勢で歩み始める。朧もそれに合わし攻撃を仕掛ける。朧の拳が放たれる前に、和也は後ろに回り込み背中へ軽く攻撃する。

 和也は、姿勢を崩さず歩を進め、朧が対峙するまでに制空圏内へ入り込む。朧が構えを取る前に、和也の拳が彼女の腹部を捉える。そしてそのまま朧は吹き跳ぶ。

和也は、起き上がろうとする朧に声を掛ける。


「転身する事は、一長一短ですよ。長所は、種族特有の強みが顕著にでます。短所は、武器が使えなくなる事、体が強化され武器より、拳の方が強く成る事です。例外として転身する事により使えるようになる術が有る事ですか。」


 朧はその言葉に反応して両拳を胸の前でぶつけ合う。そして、両手を上下に広げ時計回りに半周させる。その軌道に十二個の光の玉を作り出す。

朧は、和也に対して間合いを詰めに行く。十二個の光の玉は朧の周囲を自由に飛び回る。

 和也は、先程と同じ様に、歩み近付き朧の(すき)を付いて攻撃する。その攻撃に対して一つの球体が邪魔をして、別の一つが和也を襲う。それに対し和也は、素早く攻撃の手を引き朧との間合いを取る。

和也は、朧に笑いながら語り掛ける。


「攻防一体の戦術。敵に対する危機感知の力素晴らしい。だがその術はまだ、未完成だ。私が今より破って差し上げよう。」


朧の表情を、見て更に語る。


「次の一撃で終わりにしよう。この天原和也が、君に教えてあげ様、この技を体得したまえ。いざ、参る。」


 和也は、特殊な呼吸法と流麗な動きが止まり構えへと成る。その瞬間和也の前にもう一人の和也が現れる。そして、現れた者は、先程の和也と同じ歩法で近付いて行く。

 朧を守る球体が当たっても霞の様に手ごたえが無い、幾つもの球体が攻撃するが、結果は同じであった。その攻撃が当たる瞬間も、朧の前に現れるが、これまでと同じであった。

 朧の体に拳の感触があった瞬間転身していた体が戻り、光の玉が消えて朧が倒れ始める。朧の体を和也が、抱き留めその場に寝かせる。

 和也は懐から手拭いを出し湖で濡らして汚れた朧の顔を優しく拭いこう思うのでした。


『未熟ながらにも戦いを乗り越える力量は、有る様だな。』


 秋の月夜と紅葉が織り成す世界の時の流れを楽しみ次代を担うであろう若輩を見つける事が泉竜には嬉しかったので御座います。


 3


 月夜から朝日が昇っても朧は、疲れもあってか、目を、覚まさなかったので御座います。和也は、朝日に染まる空と紅葉と湖が美しく見える場所に移動していました。和也は、後ろを振り向かず今目覚めた朧に声を掛ける。


「御目覚めですか。旅の疲れも有った様ですが、疲れは取れましたか。」


和也が後ろを振り向くと、朧が話し掛けてくる。


「自分の未熟さを痛感させられました。」


 朧の言葉に和也は一つの単語を言葉にする。


朧幻拳(ろうげんけん)


「え。」


朧の、戸惑いに答える様に語り始める。


「先程使った最後の技名です。朧殿ならば、体得出来るでしょう。次の村に迷宮区が有ります。そこで、鍛錬がてら攻略してみましょう。迷宮区に用が有るのも確かですし。それに、協会にも鍛練場が有りますしね。」


困ったように朧は答える。


「嬉しいのですが、私は、迷宮区に入った事が無いのです。」


「では、探求者協会への登録もまだですか。」


「はい、師匠が、まだ実戦はまだ早いと言っていましたし。ここら辺の妖魔なら、対処出来ると思いましたから。」


和也は、呆れながら語る。


「京子は、どうして出発前に、迷宮区に行けと言わなかったのだ。」


「どんな道順を通ろうと私は必ず彼に出会う。と言われたのです。だから、大丈夫かと思ったのです。」


「そう思っていたから、私と出会ったのだろうね。もしくは、次の迷宮区で会ってと思うけど、その場合は、他人に迷惑を、掛けただろうね。怒るに怒れんな。それでは、朧殿、行くとするか。」


 徐に立ち上がり、山道へと足を、運ぶのでした。その道中で、色々な風景を見入りながら歩を進める和也に朧は、有る事を尋ねる。


「和也殿は、なぜ景色を見る余裕が有るのですか。」


「我が師曰く、余裕が無い時こそ、余裕だと確認できる面をしろ。昔は、余裕があるふりで景色を見ていたが今は、楽しんで見ている。酒の肴にも困らないし。朧殿も作ったらどうだ。」


にこやかな顔をして、和也は、答える。

それからも、たわいない話を二人は続ける。自分の事や、和也の師匠の事、京子の事を話す。そして、今日は、何事も無く田千穂村へと歩みを進めるのでした。


 4


 田千穂村、竜都と、大和の国境(くにざかい)の村になります。この村には、迷宮区が有るので、探求者協会が配置されていました。確認されている迷宮区は、攻略された迷宮は全て百層から成っていました。

村に入った和也は、朧に声を掛ける。


「まずは、朝餉にしようか。腹に、何か入れないと、力も出ないだろ。その後は、武器でも見に行くか。」


「武器なら三日月が有りますが。」


「朧殿が、学びし武芸は剣術や、闘術だけに在らず。戦況に応じて武器を変え戦法を変える事により生き延びる確率を上げる。昔言われた十八般を極めよと言っているわけでない。うん。良い香りがする。この店にしよう。」


和也は言い終えると一軒の店へと入って行く。朧もそれに付いて行く。

 店に入ると、給仕の少女に席へ案内される。和也たちは、案内された席に着くと御品書に目をとおす。和也がふと、辺りを見渡すと、多数の人間が朧へと目線が集まっている事に気付く。

 朧の立居姿とは、若衆髷(わかしゅうわげ)にゆいあげ、引き締まった肉体を動き易く仕立て上げられた巫女装束につつみ、白足袋に(あか)()の草履といういでたちであった。鼻筋の通っていて、凛とした顔立ちが辺りの目線を集める理由であろう。

 それ故に、和也が困るのである。目線を集めれば、噂を呼び厄介事にまき込まれるからである。


『平穏な日々よ、去らば。まあ、両協会でも、上位に入れば絡まれる事は少なくなるだろうがそれは先の話だな。』


「和也殿、どうかないましたか。私は、これにしようと思うのですが。」


すらりとした指で御品書きを指し示す。


「ああ、好きな物を頼むと良い。」


そう言うと給仕の少女を呼び止める。


「注文良いかな。私は、茸蕎麦を、彼女はこれを頼む。」


 聞き受けた少女は、板場へと走り込む。そして、入って来る客を席に案内して注文を聞いては、板場に走り込み、他の客に食べ物を運ぶ。大人にも負けない働きぶりである。

そして、和也の席にも食べ物を運んでくる。


「御待たせしました。どうぞゆっくりしていって下さい。」


 二人とも、料理の味を楽しみながら、ゆっくりとした時間を楽しむ。食事を終らせ少しの時間を過ごした後席を離れ会計を済ませる。その時和也が、その人に声を掛ける。


「あの子は、女将さんの子かい。良く働く良い子だね。」


「ええ、あの子は私ども夫婦の子供でして、良く働くし、良く弟達の面倒も見てくれるし、文句の付けどころの無い良い子ですよ。」


「これで、その子達に何か買ってあげて下さい。」


和也は、懐紙で包んだ心付けを渡す。和也は、外で待つ朧の下へ去って行く。


「御待たせしました。それでは、武器屋へ行きましょう。」


 二人は、武器屋へ歩を進めて行く。その後を追う様に二人の人影が店より出てくる。一人は別の所へと走り行き、もう一人は和也達の後をつけてくる。朧は、その存在に気付いていない。だが、和也は、二人の行動に気付きこう思う。


『面倒事が発生しました。行き成りですか、勘弁して下さい。九分九厘私に厄介事が傾れ込んできますね。』


そして二人は、変なお供を連れて武器屋へと向かうのでした。

その道のりは、穏やかな物となるのでした。それはまるで、嵐の前の静けさの如くでした。


 5


 二人は一軒の武器屋の前に立っていた。万武器在り〼(ます)と看板が掛かった店で、辺りが寂れていて朧は二の足を踏んでいた。

だが、和也は気にせず店に入ろうとする。しかし、それを止める様に朧が声を掛ける。


「この御店に入るのですか。協会内にも武具屋が有ると聞いているのですが。」


和也は、迷いなく朧の質問に答える。


「入るよ。協会内の武具屋は、基本的に初心者向けでな、玄人好みの武器と成ると専門店しか選ばないのだ。私の第六感がここだと言っているのです。」


 武器屋の中へ朧を連れて入って行く。中は、こざっぱりしていて、店内が明るく感じ、武器の品揃えも良くここになぜ客が居ないのか解らないぐらいだった。

そんな朧に店主の老婆からの声が掛かる。


「ここは、協会でも、有段者御用達の店だからじゃよ。御嬢ちゃん。本来なら販売はしないのじゃが、今回は特別に販売して進ぜよう。」


「なら、選ばせて貰おう。この杖を一本それと、あれを貰おう。」


和也は、遠慮なく欲しい物を選び最後にそう言って壁に有る一本の杖を指差す。

老婆は、笑いながら答える。


「構わんよ。御前さんがそれを扱えるなら御代は要らないよ。」


「良いのか。それなら遠慮なく貰って行くぞ。」


そう言うと和也は、杖の手を差出こう語り始める。


「我は汝を求め、故に我が手に導かれ汝の名を我に伝えよ。」


 杖は、自分の居場所を見つけた様に和也の下へ導かれる様に手中に収められる。

 老婆は驚きながらその姿を見守るしかなかった。そんな事も気にせず和也はその杖の名前を口ずさむ。


「そうか、御前は封魔杖(ふうまじょう)と言うのか。やはり、あの爺さんが、作ったのか。爺さんの作品は、やはり手に馴染む。」


そう言いながら軽く上下に振るう。その声に老婆は思わず声を掛ける。


神前(こうざき)九重(このえ)を知っとるのかね。」


「九重の爺さんなら良く知っているよ。私も、今注文出しているからね。他の誰かが注文しても、受け付けてくれないだろうね。」


「九重さんは、そんなに有名な方なのですか。」


朧の声に老婆が答える。


「武器作製においてこの人ありと言われたお方じゃ。今現代、武器の作成を断って要るのは、お主の注文が有ったからか。」


「材料が足らないのと想像が、完成しないと言っておられましたからね。封魔杖と杖一本、二本にしましょう。合計は御幾等になりますか。」


「始めに言った様に、そいつは、お主に譲ろう。杖二本の値段だけ置いて行け。」


 和也は、言われた代金に少し上乗せしてお金を払う。老婆は、何も言わずに受け取り和也達に声を掛ける。


「毎度あり。又来なさいね。」


 和也は、三本の杖を持って武器屋を後にする。外に出た時和也は、先程までいた気配を感じる事は無かった。

和也は、頭を悩ませるのでした。


『厄介事は、協会へ持ち越しですかね。今回の事は、闇の意思で無い事だけが、不幸中の幸いですかね。早く協会の段位を上げる事を目標にしましょうかね。』


和也の思い虚しく、厄介事に飛び込んで行く事に成るのです。それはまた次回の御話になります。


 秋晴れの中を涼しく丁度いい風が二人の頬を撫でて行くのでした。そして、何処からか聞こえる子供たちの楽しげな声が和也の心を和らげていくのも確かな事で御座いました。


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