記憶の無い青年
今年も始まった。
熱い日差しの下、会場に集まった老若男女が歓声を上げる。
ステージに立った青年たちは各々始まりのブザーを待つ。
大局を動かさんと目を見張る「ポーン」
数秒後の激突に備えて構える「ナイト」
そびえたつ防衛線は「ルーク」
戦場を見渡し策を練る「ビショップ」
そのすべてに縛られない強さを持つ「クイーン」
君臨する「キング」
それら6人によって構成されたチームが戦い勝敗を決めるゲーム。
それが「ワールド・レイン」
統治歴0170年
ある夏の日
強い日差しとうるさい蝉の声
俺は気付くとここにいた。
名前は王野井 厳
どうしたことか、自分の名前や年齢はわかるのだがなぜここにいてここがどこなのか。
自分の置かれている状況が全く分からない。
何か夢を見ていたような気がするが、だとしても見知らぬ公園に立っている状況が把握できない。
この街は何処か見覚えがあるようで胸が少し苦しくなるような懐かしさを感じた。
「やあ!君が王野井君だね!時間ぴったりだ。あえてうれしいよ!」
突然声をかけられた。振り返るとそこには目鼻立ちのくっきりした青い目の青年がいた。
オレンジの髪にメガネ、それと変わったブレスレット。
いや、腕時計か?なんにせよ普通のものではないようだ。
「初めまして!僕はルイ!ルイ・ルーカスだよ。よろしく。」
そういって握手を求めてきた。
俺は差し出された手に応じて握手をしながら質問した。
「どうして俺のことを知ってるんだ?」
「それだよ。」
そういってルイは俺の胸元を指さす。
「ドックタグ!メールに書いてたじゃないか。それが目印だって!」
メール?なんのことだかわからないが話を合わせて情報を探ることにしよう。
「あ、あぁ。そういえばそうだったな。うっかりしてたぜ。」
「意外と抜けてるんだね。ま、そういうところもなくっちゃね!」
気付かなかったな。ドックタグなんてつけた覚えはない。いったいどうなってんだ。
「早速だけど仲間のところへ案内するね。みんな揃って君を待ってる。」
「あぁ。よろしく頼むぜ。」
そういってルイの後ろについてしばらく歩いた。
やはりこの町並みは見覚えがあるようだ。なぜかはわからないが遠くに見える大きなスタジアムもその向こうの電波塔も見慣れた景色のように思えた。
そんなことを考えながら何気無く手首に触れて驚いた。
ルイがつけていた不思議な腕時計が自分の右の手首にもついていた。
なんだこれは。ワールド・レイン?
すると、喫茶店の前でルイが止まった。
「ここだよ。ここのマスターが僕らのために2階の部屋を貸してくれてるんだ。」
そういって店内に入り奥の階段を上がっていく。
すれ違うことのできないほど幅の狭い螺旋階段をゆっくり登る。
最後の段を登り終えると短い廊下に扉が3つあった。
「右がトイレ。左が倉庫。奥が僕らの部屋だよ。」
そういってルイは俺を先に行かせた。
ドアノブに手をかけ、ドアを静かにあけた。
そこには4人の青年がいて内二人がチェスを。一人がトレーニング。一人がヘッドホンをしてパソコンをしていた。
「みんな。ただいま。お客さんだよ!」
するとヘッドホン以外はこっちを見た。
「ルイ!いつもおせーんだよ、おめーは!」
トレーニングをしていた男が唸る。
「あはは。ごめんね。彼はいつもあの調子なんだ。」
「俺は藤 侑よろしく。こいつは佐久間だ。」
「佐久間 神太郎です。よろしくお願いします。」
チェスをやっていた二人組があいさつをしてきた。
「俺は戸塚 ゲキ(とづか げき)だ。一度でおぼえろ。」
トレーニング君は口調が荒いらしい。
「そしてヘッドホンをしている彼が稲田 光だよ。」
「よろしく。」
光はひょいと手を挙げて横目であいさつをした。
全員の自己紹介が終わったところで俺は一番気になっていたことを聞いた。
「これは何の集まりなんだ?」
「あ?」ゲキが唸る。
「たしかに僕たち強そうではないよね。あはは。」
「おい、ルイ!さすがにこんな嫌味を言われる筋合いはないな。」
侑は少し不愉快だという表情をしてつづけた。
「手合せをしよう。それなら納得してくれるかな。」
そういうとみんな立ち上がりぞろぞろと階段を下りていった。
「君なかなかはっきりものを言うんだね。ちょっと驚いたよ。カフェの裏に公園があるんだ。そこで練習がてら手合わせしよう。」
そういうとルイも階段を降りて行った。




