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お焚き上げ

作者: 大橋零人

 べつに私は信心深いとは思っていないけど、お正月には必ず神社に参拝してきた。昔は家族と一緒に。今では私一人で。

 今年も近所の小さな神社に来ていた。此処ならそんなに並ばなくても済むし、甘酒も貰える。

 お母さんも「地元の神様が一番大切なんだよ」と言っていたし、遠くの大きな神社に行くよりずっと良いと思う。


 去年までと全く代わり映えのない私。

 違うのは右手に少し大きめな紙袋を持っていたこと。その中には去年までのお守りが詰め込んであった。全てこの神社で買ったお守りだ。

 昔は両親が買ってくれた。今では自分で買っている。

 ああ、そうだ。お守りを「買う」とか言っちゃいけないんだった。

 子供の頃、お母さんに注意されたことがあったな。


 両親は一年毎にお守りを神社に納めて新しいものを頂いていた。

 でも、私は自分のお守りをずっと持ち続けていた。実際に持ち歩いていたのは新しいものだったけど、それ以前のお守りも家に保管していた。

 昔、それを見たお母さんが言った。

「お守りはあなたを守るために災厄を吸い込んでいるから、毎年 神様にお礼を言ってお返ししなくてはいけないのよ」

「でも、燃やされちゃうんでしょ? なんか かわいそうだよ」

「かわいそう? お守りが?」

「……うん」

「佐緒里は優しい子だね」

 お母さんは笑顔で私の頭を撫でてくれた。

「でも、かわいそうじゃないんだよ」

「なんで?」

「お守りは役目を果たしたんだから」


 それでも私はお守りを燃やせなかった。お母さんがいなくなってからも、ずっと。

 今年になって気が変わった理由は自分でもよく分からない。去年の大晦日の晩にお母さんの夢を見たからかな。内容はほとんど覚えていないのだけれど。

 古いお守りを溜め込んでいても何一つ良いことなど無い。それは知っていたから、躊躇する気持ちは全く起きなかった。



 境内の一角に設けられた受付に行くと、紙袋に入った大量のお守りを受け取った男の人がチラリと私の顔を見た。ちょっと嫌な感じだったけど、問題なく納められた。

 炎の中にお守りが投げ込まれる。

 私はその様子を少し離れた所から眺めていた。



 ふと気がつくと、私の近くにいた人達が悲鳴のような声を上げていた。

(なに?)

 グルリと周囲を見渡して異常が無いことを確認した私は、最後に原因を見つけた。



 私の身体が燃えていたのだ。



 不思議と恐怖は無かった。

 その青白い炎には熱さを感じなかったから。

 炎はあっという間に私の全身を包んで、周りの雑音も聞こえなくなった。


 気づかないうちに火の粉が飛んできたなんてことは考えられない。

 これは事故じゃない。私は燃やされたんだ。


(なんで?)


 避けられない死を目前にした私の頭の中には疑問しか無かった。

 お守りを燃やしたから? それなら他の人だってしているじゃない。

 今までお守りを返さなかったから? だったら、返しに来た日に燃やすなんてヒドイよ。


 私のお守りはすでに原形を失って炎の中に消えていた。


 私も同じように消えていく。




 ああ……





 そうか……





 分かった。






 簡単なことだった。







 この世での私の役目は……









 もう 終わっていたんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] お守りとしての役割が主人公にはあったということでしょうか。それとも、単純に死を表現するためですか。 どちらにしてもなかなか、怖いですね…死んだ理由が気になります…
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