第1話
いきなりだけど、不定期更新だよ。
フェールマンド家の長女、マーガレット・フェールマンドとして生まれた私が、全てを理解したのは私が15歳だったときのある朝だ。全て――そう、私が世界を救った7英雄の一人“草の語り手”ソウマの生まれ変わりだと。
私がおかしな夢――前世の記憶を見始めたのは、13歳くらいの時だと思う。ある日から、私は私の前世が書かれた物語を読むように、ちょっとずつ、ちょっとずつ私の前世の夢を見ていた。
最初の方は、普段夢を見ない私にしては珍しく、朝になってもくっきり覚えている、それも続いて同じ夢をみるな、位の感覚だった。
夢の中の私は、ソウマとして15歳でこの世に「存在し始めた」。奇妙なことだが、確かに夢の中の私の人生は15歳から始まっていた。理由はよく分からない。たしかに夢の中の私、つまり前世の私は荒野に一人でいたところから始まる。
そこから先は本当に色々あった。前世の私は、後に7英雄と呼ばれるようになる6人に出会い、そうして世界の危機を救って行った。それが約150年前の出来事だ。
そう、私の世界は150年前、滅亡の危機を迎えた。――らしい。
ある日、世界中で5つの火山が同時に噴火した。これによって、1週間で人口が半分に減り、新たな大きな島ができ、そして世界の温度が急激に下がった。ここら辺の知識は7英雄にもたらされたものらしいが、火山の噴火により舞い上がった火山灰が太陽からの光を遮ることで、気温が下がるらしい。その結果、世界中で農作物が取れなくなった。
だが、大噴火がもたらした影響は、そんなものではなかった。噴火から丁度1年後、噴火時に新たにできていた島から、後に【魔族】といわれる種族が侵攻を開始した。
実は魔族は、噴火と同時にその島に存在し始めていた……らしいが、真実は良く分かっていない。私の夢の中でも分からなかった。ただ、噴火と同時にその島――【魔界】に存在していた魔族がなんらかの理由で、人間の国々に侵攻を始めた。
この侵攻により、すでに食糧不足と噴火被害の復興のためにすでに疲弊していた人間の国々は、相当の苦戦を強いられた。魔族対人間の大戦争は、人間を、そして魔族をもどんどん疲弊させていった。
そこで現れたのが7英雄だ。戦争5年目に彗星のごとく現れた前世の私含む7人組は、その圧倒的な力と技術力で、どちらの勢力に加担するというわけでもなく、戦争を終結させた。
もちろん下手したらそれは私の妄想なのかもしれないけれど、それでも私が10歳の時から毎日見てきたリアルな夢は、その事実を告げていた。それに、私が知らなかった7英雄に関する情報までもが、私の夢の中に出てきた。授業で7英雄について教えてもらったときは、その夢の中で手に入れた記憶ばかりで驚いたものだ。
そしてなぜか私はこうして、生まれ変わっていた。私が生まれ変わった理由はよく分かってなかったが、今朝見た夢――おそらく、私の前世の記憶を締めくくる最後の夢は、私がどうやら世界を救った「ご褒美」として生まれ変わらさせて貰ったらしい。……どうして女になったのかは分からないけれど、きっと偶々だろう。うん。
かくして、おそらく今日を持って、私には前世の記憶が完全に戻ったわけだが、別に私に変化は無い。
確かに「記憶」は私の性格とかそういったものを形作るのかもしれない。けれど、あくまで私のそれは前世の記憶で、今の私の記憶じゃあない。言うなら、物語の登場人物を見ていたようなものだ。
だから私の性格にはとくに変化は無い。私は私だ。それに、最後の夢によると、どうやら今世はボーナスステージらしい。幸いな事に、私は恵まれている。きれいで優しい母、厳格だが優しい父、恰好よくて優しい兄、可愛い妹、聡明な頭脳、丈夫な体、そして優秀な家柄。
そういえば、不思議と言えば不思議な事に、私の家は“草の語り手”ソウマと全く関係がない。いや、それだけなら別段不思議ではないんだけれど、むしろ他の7英雄、“兵法師”と呼ばれるリーに縁があるのだから不思議だ。なんでも、彼女が生涯愛した夫の家系らしい。私の夢によると彼は実にいい人だった。
それに私の住む国も、ソウマが興した国――ハーヴェストではなく、リーが興した国――タクティカだ。
あぁ、そう。今世界は7英雄がそれぞれ興した7つの国と、【魔界】の8つに分かれている。そして、あくまで夢の中でだが当時を知る私にとって非常に残念なことだが、【魔界】を除く7つの人間の国は、今緊張状態にある。【魔界】はなんていうか、特別だ。あそこは、強大な力を持つ【魔族】が納める領地だ。誰もうかつに手を出せないし、もし戦争がはじまろうものならば、7英雄の力で発展した人間であろうと、苦戦を強いられることは必至だ。それに、【魔族】を守るため、7英雄の力によって、【魔界】も強烈に発展している。正直束になっても勝てないのだ。
「マギー!いつまでそろそろ起きなさい!」
「あっはーい!」
考え事をしていたら、相当時間がたっていたようで、私の母が私を呼ぶ声が聞こえる。私は返事をすると、今日も一日頑張るかと伸びをして、学校の制服に着替え出すのだった。
私は、朝食をもきゅもきゅ食べながら考えることにした。なんせ考えなきゃいけないことが、多すぎる気がする。どうでもいいけど、もきゅもきゅって語呂良いよね。
まず、整理しよう。整理することは大事だ。
私の前世は、この世界で7英雄と呼ばれる人間の1人、“草の語り手”ソウマだった。そして私は、女神様にご褒美ということで、新たな人生を歩ませていただいている。なぜ性別が変わっているのかは分からないけれど。
そして不思議なことに、今の私は「ソウマ」と全く関わりが無い。というかどちらかというと、別の7英雄「リー」の方が関わり深い。どうしてだろうか。
……あれ?もしかして他に考える事ってない?
「どうした、マギー。食事の手が止まっているみたいだけれど」
「ううん。大丈夫だよお兄ちゃん。ちょっと考え事してただけ」
どうやらボーっとしていたみたいで、兄のルークに心配されてしまった。
「兄貴は心配しすぎだよ。お姉ちゃんがいつもみたいに、ちょっとぼけーっとしてただけじゃん」
「マイはちょっと酷くない!?」
そしてちょっと口が悪いのが、私の妹のマイ。ちょっと口は悪いけど、可愛い。13歳で、ちょっと大人ぶってるところが、また可愛い。
「3人とも早く食べちゃいなさい」
優しく私たちを促したのは、我らがお母様ベル。3×歳だというのに、若さを保ってていて綺麗だ。……あれ?なにか今大いなる力を感じた気がするぞ。
私たち家族は、この4人とお父様のダグラスの5人家族だ。お父様は今日も朝早くお仕事のようで、出かけてしまった。家柄はなかなかに上等だけど、貴族とかではない。というか、この国は貴族がそんなに力を持っていない。
考えを戻そう。というか、考えるまでもないかも。前世がだれだろうと、私は私だ。なんだ、結論は出てるじゃないか。
私は晴れ晴れとした気持ちで朝食を食べ終え、ごちそうさまをするのだった。
一番最初の構想段階では、主人公はもうちょっと前世に引きずられる予定だったんだけどなぁ