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序 破滅の予言

 

 

 二度目の真実の涙を流す時、人はこの世界に再び生まれてくる、無垢なる魂を取り戻して。

 

 

 

 少女の訪れの意味が彼にはわからなかった。

 この場所にいるはずのない彼女が、いつからだろうか、少年がふと気づいた時には、そこに存在していた。

 そして何よりも、その華奢な体は薄く白みがかった硝子のように透け、真後ろにある風景を遮らないでいるのだ。

 少女は目を閉じて(うずくま)るように座っている。白茶けた石畳の舗道を挟んだ少年とは反対側の道端(みちばた)である。深くうつむいて拝むように掌を合わせた姿は、道行く人に施しの情を願う物乞いのさまだった。実際、この年下の少女が、そういった人々に多くあるような盲目であることを彼は知っていた。

 彼女の後背には分厚い掩蔽壁(えんぺいかへき)の内側が、その小さな体に()しかかるように(そび)えている。戦機人(せんきじん)が乗り越えられないように高さも十分にあり、まるで左右に小山が連なるように続いていた。

 この古い要害は、破壊力を増し始めていた往時の砲撃に耐えられるよう頑丈に設計され、旧市街を取り巻くように建っていた。市が強大国の皇都として大きく発展する前の名残である。少年と少女の座る街路もその内側にある。

 そして本来の役割を果たさなくなって百年以上は経っていたが、今となって再び、軍事施設として機能させねばならない局面を迎えようとしていた。

 市には拠点防衛のために軍兵たちが大勢いる。この場所も傭兵たち外国人部隊が配置されている小さな広場のすぐ横にあり、時折それらの兵士たちが通りかかる。彼らは頭に軍帽や鉄帽を被り、いかつい軍靴を履いて肩に歩兵銃を担いでこそいるものの、手持ち無沙汰に揺曳(ようえい)としているだけだった。

 ただ、練り歩く彼らには暢気(のんき)さの欠片もない。どこか殺伐としていて、それでいて投げやりな雰囲気を持ち、どうかすると歪んだ笑いを口元に貼り付けてあからさまに暴力的になる。彼らの無茶な徴発(ちょうはつ)に抗議して、歩兵銃の台尻で殴り倒された一般市民は一人や二人ではきかないはずだ。女性は皆が家に閉じこもっていた。

 少年にとって傭兵たちは外国人部隊の同僚であるが、そういった有様が彼の目には度し難く映ってもいた。表面上は彼らと接する態度を無難に取り繕っているものの、内心では唾棄すべきものとして軽蔑さえしている。むろんそれを気取られないように、少年は視線を合わせることさえ避けるようにしている。

 その傭兵たちは、道端に座り込む少女の傍らをただ通り過ぎていく。誰一人として、このみすぼらしい服を着た少女に見向きもしなかった。少年には半透明な姿で彼女が見えているのだが、どうやら傭兵たちの目にはまったく映っていないらしい。つまるところ、ここに現われた少女の姿は少年の目だけに映る現象だったのである。

 少女は頬の線の柔らかさに幼さを多分に残しながらも、その顔立ちは繊細に整っていた。長じれば雪の結晶のように清楚かつ精緻な美しさを見せるに違いない、そういう予感に満ちている。生命の躍動感があれば可憐といっても差しつかえなかっただろう。だが半透明さを差し引いても、けして健康的な見目ではなく、どこか病的な、あるいは死に近しい雰囲気を彼女は持っていた。

 だからなのか、少女の姿は(ひど)(はかな)げである。

 援兵壁の実在感に比べれば、小さな体は夜明けの海に漂う朝霧のように、(わず)かばかりの間に消えてしまいそうにも見えた。

『……ミホメなのか?』

 少年は少女の名を意識する。同時に背中を(あず)ける建物の壁から思わず身を浮かせ、その自分の動作に彼は(あわ)てた。彼女――ミホメの注意を引くかもしれない、そう思ったのだ。

 恐怖の感覚が少年の体を走りぬける。しかし、もともとミホメが自分を訪ねる為に現れたのならば、関わらないで済むはずが無いだろうと、すぐに気づいた。他に彼女がこの場所に存在する理由はないはずである。

 それでも彼は、こちらを見るなと念じずにはいられなかった。だが俯いていた少女の顔が上げられると、彼女の見えないはずの眼に自身が(とら)えられたと感じた。

 途端、少年の見ている少女と風景の在り方が入れ替わる。掩蔽壁の石組が色あせた写真のように力を失い、視界を横切る守備兵の存在感は水面に映った影を思わせる希薄さになる。それとは逆に(せん)(えい)(おもむき)だった少女の姿が、わずかの間に肌に生気を(よみがえ)らせていった。

 少年は驚いて身体を動かそうとするが、その自由が利かない。急に体が動かせなくなっていた。まるで夢の中にいるようである。

 

 サラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさんサラさん

 

 少女の声らしき音が少年の名を繰り返しながら唸っている。それは微風に乗って届いてくる、遠来で奏でられる楽の音のような響きにも聞こえた。そうかと思えば不意に瓶底(びんぞこ)(ささや)いた声の質感で耳元にある。それを交互に繰り返しながら彼の周囲をあちらこちらと踊っている。

 息苦しいような(わずら)わしさをおぼえ、サウラオミ・サラは少女の声を振り払らいたいと思った。

 

 サラさん心を閉ざしちゃだめ わたしの声が聞こえなくなる 大事な話しがあるんです わたしの声に心を集中して

 

 ミホメの言葉にはっきりとした意味が表れた。するとサラの意識はそれに引き寄せられてしまう。

「今からわたしが言う事を良く聞いて」

 少女の声が、彼のすぐ目の前で語るかのように明瞭で実際と変わらない響きになっていた。

 そう感じた瞬間、サラの目前の手の届きそうな所に、ミホメが座っていた。

「あっ」

 少年は思わず驚きの声を漏らす。だが、その自分に苛らついたように少女を押しとどめようとする。

「待て! いったいどういう事だ」

「どういう事?」

「いったいどうやってここに来た……おまえ……死んでしまったのか?」

 サラはもともと東方人で、霊魂のそういった不思議な働きをなんとなくだが信じていた。人は死ぬと生前の姿を模した霊魂となり、此岸(しがん)に未練があるとしばらくのあいだ現世をさまようという。幼い我が子に死した親が会いに来る話など、東方では良く聞かれることである。

 しかし、少女が否定した。

「わたしは生きてます。でも実際にはそこにいないんです。その人のことを思えばわたしはどんなに離れていても、その人の所へ行くことができるんです。サラさんもわたしのそういった力、知ってるでしょう?」

 サラは意味がよく分からずに戸惑(とまど)うのだが、少女はその様子に頓着(とんちゃく)せずに話の先を急ぐ。

「その場所は暗く大きな災いに覆われます。サラさんには、今すぐにそこから離れて欲しいんです」

「離れる? 災い? 脱出しろっていうことなのか?」

幻視(げんし)したんです。パラカン帝国の巨大な影がアハト・バジャスタン市に覆いかぶさり、地獄(ニャイリ)の輝きで街を滅ぼして……」

「地獄の輝き?」

「はい。ものすごくたくさんの人々が、その輝きに焼かれ、今日その場所で死ぬことになります。サラさんすぐにその場所から離れてください。その場所に居ると恐ろしい事がサラさんの身に降りかかるかもしれない」

 少女がその不思議な能力で起こしたとされる出来事を、サラも数例ほど聞きおよんではいる。実際、目の前に本当の体ではない姿で彼女は現れているのだ。どうやらミホメの言う通りに何かが起こるのかもしれない、そう少年は思った。

 サラは眉をしかめ、少し嫌そうに(うなず)く。

「わかった……仕方ない、この街から離れる。どっちにしたって前の戦いの惨敗でイスタール軍は完全に駄目になってる。こんな所で帝国と戦ったって先は見えているんだ」

 アハト・バジャスタン市の陥落は必至であった。この事は軍の末端であるサラにしても感じ取っている。何しろ編成された市の防衛軍団が、相次いだ脱走で軍の体をなしていないのだ。もはや誰の目にも組織だった戦闘など不可能だと映っていた。

 少年は独り言のように言葉を続ける。

「誰が逃げたところで、今さらそんなこと誰も気にしやしない。今さら俺がここに居る理由なんて無い」

 当然、サラが組み込まれていた外国人部隊など、後年にテロス・ポンテ会戦と呼ばれる一大決戦の敗北の後、その潰走のさなかに真っ先に多くの人員が隊から離脱している。陸戦における主役ともいえる戦機人(せんきじん)、あるいは少し前までの言い方では装神甲(そうしんこう)と呼ばれる金属で出来た巨人型の戦闘機械などは、少年の所有する一領(いちりょう)のみとなり、部隊は機能しなくさえなっている。

 混乱は前線だけではない。戦争指導部などのイスタール軍全体も大きな混乱の内にある。サラの聞いた話では、皇王も軍本幕(ぐんほんばく)もすでにアハト・バジャスタン市から逃げ出し、西の古都パナス市に移っているという。

 しかも、残された防衛軍団を指揮する司令は、尉官(いかん)から将官に大抜擢された平民出の若造だった。皇室崇尊と愛国心だけは狂信的に強い男であると軍部では評判だったが、国軍大学校を次席で出たというものの実戦で戦闘指揮の経験はなく、その手腕はまるで期待できないという風聞であった。他の主だった防衛軍団幹部は、いざとなれば司令を拘禁(こうきん)してパラカン帝国軍に降伏するつもりであるともいわれている。

 当然の帰結としてアハト・バジャスタン防衛軍団の士気は最低である。綱紀(こうき)など緩むどころの話ではない。どこから調達したのか大酒を飲んでは高歌放吟し、住民の消えた家屋に夜な夜な押し入って個人徴発を繰り返しているくらいだ。

 結果、時が経つごとに軍団の混乱は加速し、抜けの目立つ指揮系統は、もはや誰にもどうなっているか判らないでいた。備蓄した食糧の各部隊への配給さえ、ままならない状態なのである。徴発という名の略奪も起ころうというものだ。

 旧来からの守備隊はまだしも、新しく組み込まれた部隊は脱走が相次ぎ、もともと兵員の離脱が目立った傭兵たち外国人部隊にいたっては、過半数が逐電しているのが現状である。

 むろん軍法では銃殺をもって適用される脱走の罰則規定も、他国でいう憲兵の役割も兼ねる督戦法兵の退去した今、まったくの有名無実である。残った者にしても、帝国軍が間近に迫るか未払いの給金が支払われしだい、確実に脱走するだろう。

 サウラオミ・サラも帝国軍の到来を日がな一日やることもなく、漫然とただ待っているだけだった。戦闘になったらひと暴れして、できるだけ多く帝国製の戦機人を破壊し、少年は脱出するつもりである。

「ミホメ、ひとつ聞いていいか。その破滅はもうどうにもならないのか? バジャスタンがどうなろうが俺の知ったことじゃないが」

 少女は彼に名を呼ばれると一瞬嬉しそうな表情になったが、それは(てのひら)の上の淡雪(あわゆき)のようにすぐに消えてしまい、変わって盲目の瞳には悲嘆と恐怖の色が表れた。

「もう、どうすることも出来ない。今日、そこで信じられないくらい沢山の人達が、死んじゃうんです……本当に……本当に沢山の人が……」

 サラの頭に虐殺という単語が浮かぶ。少年の顔は自然と険しくなったのだが、言葉を続ける少女に言をさし挟むことはなかった。

「どうにか出来るなら、どうにかしたいけど。でも、もう手遅れなんです。帝国の巨大な影は巣からすでに飛び立ちました。十日も前です」

「十日前? ……テロス・ポンテ平原での戦闘の二日後か……」

 ちょうどその頃、サラは衝撃的な噂を耳にしたことを思い出していた。先の会戦における壊走でも逃散しなかったイスタールの敗残軍兵は、同国軍参謀本部の命令で市の郊外に集結させられていた。残存兵力からのアハト・バジャスタン市防衛戦力の抽出とその編成の為である。噂は、その時の事だった。

 開戦後、外交関係を失っていた為に直接乗り込んできたパラカン帝国の降伏勧告の公使を、イスタールは随伴者を含めて一人残らず処刑し、その首を帝国軍に送りつけたらしい。そういう話しが野営地の中で彼ら傭兵の間を駆け巡ったことがあったのだ。しかも、第三国の斡旋もなしに東方人ごときが無礼であるという、もっともらしい理由のおまけつきだった。

「わたし……気づかなかったんです。ごめんなさい……今やっと予兆を感じて……今からだと破滅の輝きの未来は確かなものになってしまっていて……サラさんに知らせるのが、今は何とかできる精一杯のことなんです」

「ミホメが謝るようなことじゃない」

「でも……本当にごめんなさい。だから、サラさんもどうか祈ってください、そこで死ななくてはならない沢山の人達のために」

 帝国の影というものが、どうやら何か具体的なものを指すということにサラは気を引かれていたが、それを尋ねる間も無くミホメが言葉を続けていく。

「早くアハト・バジャスタンを離れてください。破滅の輝きに焼かれる前に、急いで」

「……ああ、わかった。すぐに離れる」

「必ず、約束です、サラさん」

「クシャス市に向かおう。ここからなら北にイスタールを出るより近い。ミド漠土(ばくど)を抜けていこう」

「必ず、約束してください。わたしたちヒルコ船もクシャス市へ向かいます。パラカン帝国のヒルコ狩りにあう前に沿海州のヒルコの子達を連れて行きます。そこでわたし達といったん合流しましょう。島のこともあります」

「わかった」

 少女はまだ何か言い足りなさそうにしていたが、それでは今度会う時までと言った後、合わせていた掌を離す。すると見る間に身体が透き通っていき、わずかな内にサラの目の前から完全に消えてしまった。

 途端、彼の周囲の世界が実体の存在感を取り戻す。サラは自分の体から、不思議な感覚が抜けてしまったのが分かると、午後の日差しに建物の影となった通りの一角から腰を上げた。

 ◆◆◆

 その日、日没の間際に市の真上で輝いた光は、久遠(くおん)の都といわれたアハト・バジャスタンに恐ろしい破滅をもたらした。

 パラカン帝国軍の超大型飛空艇の落とした新型爆弾は、未曾有(みぞう)の威力を有していたのだった。その絶大な破壊力は、五十万人を超える人口を持つといわれる世界最大の都市を、ただの一撃で十全(じゅうぜん)に噛み砕く力を見せつけた。

 爆光は眩耀(げんよう)として日輪が地に落ちたかのようだと言われ、それにともなう爆轟波は堅牢な建築物をも一瞬で損壊せしめたという。

 また、その時の凄まじい熱量で発生した上昇気流は、同じく瞬時に発生した大量の水蒸気を茸状(きのこじょう)の大きな塊としながら、猛烈な勢いで遥か上空にまで押し上げた。その奇怪な雲塊は百リコ・メルト離れたカヴァ市でも目撃されたほどである。

 日が地平に没してしばらく経つが、市のあちらこちらで発生した火災は衰えることを知らなかった。

 地を呑み喰らう巨獣のごとき火災煙は都市を押しつぶす勢いでのたうち、その隙間からかいま見える市街地は断末魔に身もだえしている。背の高い建物は軒並み倒壊して街路をいたるところで(ふさ)ぎ、空に昇る炎の柱のような火災旋(かさいせん)が瓦礫の都市の上で大小何百も踊り狂っていた。

 その様は、まさに来世に向かえないほどの極悪人が落ちるとされる東方人のいう大焔火獄(ティイェンカラク)の風景であり、いったいどのような(とが)を持って堕ちるに値するのか、獄天門にあるという赤鉄の天秤に載る罪徳の分銅の重さを疑いたくなる。

 やがて大気に漂う塵埃(じんあい)を大量に含んでいるために、黒く見える雨が市に降りだす。その雨滴によって火災は下火となり、都市の(むくろ)を暗天の下に(さら)し出した。

 市の中心部にあった壮麗な皇宮もいかめしい軍本幕舎も、輝きの真下だったためか原型を留めていない。市行政庁舎、皇室造幣局舎棟、中央電信局舎、貴族や高官の大邸宅、大商社の社屋建築、レブンスーシ廃兵廟、大皇国博物館、バグドスナ戦勝記念凱旋門、皇国中央大学校舎、天蓋付き大市場、みな爆炎の中に崩れ落ちていた。今は溶融した残骸が、ところどころで熾火(おきび)のように暗い赤に光っているだけだ。爆心地に居て命のあった者がいるとは、とうてい思えない惨状である。

 破壊の度合いは、爆心地から同心円状に外側に行くほど軽くなっていく。しかし、それに反比例して、逆に外側に行けば行くほど爆発後の火災が酷くなり、黒い雨に抗って煙を上げ続けている。

 そして、この外側の最初の爆発の影響を受けていないようにも見える街路の辺りである。そこはまさに大焔火獄のごとき猛火に包まれていた。

 劫火はすでに、そこにあった全ての生命を奪っていた。火炎と煙の中には無残な有様の死体が(おびただ)しくある。彼らは瀕死の状態で爆発の中心の方から逃れてきて、ここに到って旧市街を取り囲む古の掩蔽壁に阻まれ、その内側の(へり)で火勢に力尽きたのであった。筆舌に尽くしがたい有様であったと、後に脱出に成功した数少ない生存者は語っている。

 この地獄の情景を空から見下ろすものがいた。アハト・バジャスタン市に新型爆弾を投下した当の飛空艇である。果たしてこの空飛ぶ建造物を従来からと同じように飛空艇と呼んでよいものだろうか、そういった疑問を見るものに感じさせる威容だ。

 全長が三百メルトにも及ぶ、翼さえ持たない巨大な飛空艇が空に浮かぶ様子は、見るものに畏怖(いふ)を抱かせずにはいられないだろう。帝国軍も飛空艇とは呼ばず、飛空要塞との呼称を使用していた。

 また、テロス・ポンテ平原での会戦に先立つ一大戦闘である、大要塞都市ソルネンクスを中核としたゲベ・ヴォリ防衛線を巡る戦闘で始めて実戦投入されたのだが、そこで遠距離からの主砲による艦砲射撃で次々に特火点や掩蔽壁を破壊し、イスタール軍に大いに恐れられてもいる。

 パラカン帝国遠征総軍、指揮統合旗艦艇、飛空要塞一番艦フルカミュは火災が下火になると、再び低い高度でアハト・バジャスタン市の上空に現れ、数多くの照明光弾を次々に落としていった。その落下傘に吊り下げられた光の玉が、風にゆらゆらと揺れながら地上の惨劇を照らし出している。

 凄まじい有様は神に祈ることさえ忘れさせたという。

 この日、皇都の東端を流れるラムナニエール川は約百年前の護岸後、はじめて川岸を越えて市内に水を流れ込ませる。水を求めてそこで末期(まつご)を迎えた人々の死体が、皇王(アシャー)大橋の橋げたの所で(せき)となり、折からの雨で増水した川を(あふ)れさせたためである。


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