第9話:仲直り
「私にとっては、ハヤブサがすべてなんだよ…。」
それを聞くと、ハヤブサの表情が固まりました。まったく予想していなかったのだと思います。
「飛べなくったっていいし、みんなからバカにされたっていい!…ただハヤブサに隣にいてほしかったの!…それだけでいいの。
ほかには何にもいらないの。たとえハヤブサがそうじゃないとしても、私はそれでもいいの。」
涙がとまらなくて手で拭いました。ハヤブサはまだ固まったまま何も言おうとしませんでした。
「だから、ハヤブサの気持ちはわからないけど。だけどもうハヤブサには関わらないようにするよ。
私にとっては、ハヤブサの幸せが一番だから。」
私がすべてを言いおわってもハヤブサは反応なしだったので、私は振り替えって歩きだしました。
伝えたいことは伝えた。それでもハヤブサといられなくなったときには、きっちりあきらめる。そう決めていた。
そうできるように、ずっとハヤブサと離れ離れになるときのことを思い浮べていた。こんな感じかな?つらいだろうな?…なんてね。
なのに、……つらすぎるよ。こんなの私が思い浮べていたのと違いすぎる。一人の人と別れるだけ、ただそれだけなのに。もう二度と立ち直れないんじゃないか……なんていう錯覚に陥ってしまう。
そうかこれが恋なんだ。何にもわかっていなかったんだな。あのときは、確かに私とハヤブサは繋がっているように感じていたのに。
その次の日でした。ハヤブサが私と話がしたい言いにきたのは。2人きりで話をするために海岸まで歩いていきました。その間ハヤブサは一言も話しませんでした。
海岸につくとハヤブサは私のほうを真っすぐと見据えて言いました。
「俺さえいればいいって行ってたけど…それって本気?なんでも捨てられるの?俺と一緒にいるためなら。」
…なんで本気じゃないだなんて思うんだろう。私は本気で言っていたのに。
「俺が翼切られてるときには黙ってみてたくせに!」
……ひどい!ハヤブサはもっと私のことを理解してくれていると思っていたのに!
本当に何にもわかっていなかったんだ!
こんなの……バカみたい!信じてももらえない。こんな関係なんてバカみたい。
私は自分の背中に腕を回しました。そして翼をつかんでおもいっきりひっぱりました。…こんな翼、なくなってしまえばいい!
もともとはこの翼があるからいけないんだ!
そうすれば、ハヤブサと一緒で飛べない私ならハヤブサも一緒にいてくれるかもしれない。一緒にいたい。私の気持ちをわかってほしい。
背中に激痛が走りました。血がつたっているのが感じられました。私の突然の行動にあっけにとられていたハヤブサは、あわてて私の手首をつかみました。
「お前何してんだよ!……やめろよ!」
「ハヤブサじゃん!私のこと信じられないんでしょ?…私は翼なんてなくてもいいの。ハヤブサといられれば。」
「こんなことしてほしいわけじゃないんだよ!お前が頷けばそれでよかったんだよ!」
「でもハヤブサは私のこと信じてなかったんでしょ?だからあんなこと言ったんでしょ!?」
「だから…もういいって!わかったから!」
ハヤブサは力ずくで私の手を翼から引き離して、そのまま私を力いっぱい抱き締めました。
「疑ったりして悪かった。でも信じてくれ。…俺は確かな返事がほしかっただけなんだ。」
「俺にとっては飛ぶことがすべてだった。それはウソじゃない。…俺があんなこと言ったのは、一応お前のためなんだそ。
お前は飛べるようになった。…もう落ちこぼれなんて言われなくてよくなったんだ。それなのに、お前はきっと俺のことを想って2度と飛ばないんだと思って。
俺はお前の枷にはなりたくなかったんだ。」ハヤブサの声は震えていました。そしてきっと私の声はハヤブサ以上に震えていました。
「……そんなの全然うれしくなんてないんだからね。あんなこともう2度と言わないで。」
「うん。約束する。」
そう言ってやさしく私の頭を撫でてくれました。
…よかった。あのときにはもう私とハヤブサはおわったと思いました。でもそうじゃなかった。私とハヤブサは確かに繋がっていたんだ。
それから、私とハヤブサは毎日のように2人で並んで浅瀬を歩きます。手を繋いで。夕日でも眺めながら。
たわいもない話をして。今、2人一緒にいられることに心から感謝をしながら…。
もっとうまく話をすすめていきたかったです。