第7話:不安
ハヤブサに会いたかったです。もう1ヵ月も会うことができないままでした。
ハヤブサは私を避けていたし、私もハヤブサに拒絶されるのが恐かったからです。弱い自分が嫌で嫌でたまりませんでした。
「いってきます。」母にそう言って、私は出掛けました。母もだいたいの事情は知っていて…私を気遣ってくれました。
母には私が飛べるようになったことは言っていません。私はどうせ飛ぶつもりはなかったし……いまさら飛ぶことなんてできませんでした。
その日、私は海岸沿いを歩いていました。あれからもう何回も…これから何回でも私はここにくるたびに思い出す。
自分の無力さ。ハヤブサ。飛ぶことの…楽しさを。そしてハヤブサへの思いを。
私は遠い水平線を見つめていました。行こうと思えばハヤブサの故郷に行ける。ハヤブサは故郷に戻れない。……やっぱり飛べない方がよかったんだよ。
自然と涙が溢れてきました。一人泣いていると誰かの足音が近づいてきました。泣いているところなんて見られたくありませんでした。
そこにいるのはハヤブサだとわかっていました。ハヤブサが回復してから、毎日ここにくるのは知っていました。だから私もここにきたんです。
泣きたいのはその人のほうで…振り向けばきっと彼も泣いている。苦笑しながら
「何泣いてんだよ。」と言うんだ。
「ハヤブサ?」私は振り向かずに言った。……答えはありませんでした。
「ハヤブサ。」もう一度呼んでハヤブサの方をむきました。…彼は泣いていなかった。苦笑もしていなかったし、
「何泣いてんだよ。」とも言わなかった。
あれから初めてハヤブサの目をこんなに近くで見ました。ハヤブサの目は暗く沈んでいた。私をうつしていなかった。…以前のハヤブサではなかったんです。
店主さんが言っていた意味を改めて思い知らされました。……ハヤブサをこんな風に変えてしまったのは私なんだ。また、涙が溢れてきました。
とまらなくて、困って。ハヤブサは私が泣いていても何にもしなかった。どうしてしまったんだろう。どうなってしまうのだろう。
不安だった。このままじゃ私も自分を保てないと思いました。ハヤブサのようになってしまうと思いました。ただ、ただ不安だった。
不安だったから、ハヤブサを抱き締めました。ハヤブサはどんな顔をしているんだろう。何を考えているんだろう。私を許してくれるのだろうか。
わからない。わからないよ、ハヤブサ。…教えてよ。