第6話:ハヤブサの翼
もうハヤブサのことしか考えられなかったです。ただハヤブサを助けることだけでいっぱいでした。
自分ではハヤブサのもとへかけよっているつもりでした。気が付いたらハヤブサが目の前にいました。ハヤブサをつかんで必死に海岸まで運びました。
ハヤブサは海に落ちませんでした。落ちる前に私が捕まえたからです。海の上で。
私は必死になっていたから気がつかなかったけれど私は確かに空を飛んでいました。ハヤブサがここにいるのがその証拠です。
「ハヤブサ!」何度耳元で叫んでみても、ハヤブサは返事をしませんでした。ハヤブサの背中からはとめどなく血が流れていて、私は直視できなかったです。
その背中をかくしたくて私は自分がきていた上着で押さえました。すぐに上着は赤く染まりました。
それからものの数分しかたっていないときに、遠くから私とハヤブサを呼ぶ声が聞こえてきました。店主さんだ!きっとハヤブサの帰りが遅いから様子を見にきたんです。ハヤブサと私の様子がおかしいとわかった店主さんは急いで駆け付けてくれました。私は簡単に事情を説明しました。
動揺していた私はきっとうまく説明できなかったんだと思います。店主さんは困った顔をしたあとすぐにハヤブサを自分の店に運んでいきました。
ここまで私はあまりのショックで正直あんまり覚えていません。……というよりも自分のことを上から冷静にながめている、もう一人の自分がいました。
実際の私は心の中がずっと不安だった。ハヤブサはこれからどうなるのだろう。私たちはどうなるのだろう。
ハヤブサはもう飛べないのに、私は飛べるようになってしまったんだ。しかもハヤブサが翼を失ったときに助けることもできなかった私が!
ハヤブサは私のことを恨んでいるかもしれない。私のことなんか気にしないで逃げていれば、ハヤブサは天使狩りに捕まらなかっただろう。
……こんなことになるんだったら、飛べないままのほうがずっとよかったよ。
その日は店主さんに言われて、そのまま家に帰りました。それから、落ち着くまでハヤブサには会わないように言われました。
飛ぶことがすべてのようなハヤブサだから、何をしだすかわからない。と言われました。
落ち着いたら連絡するから。それが最後の言葉でした。それから2週間店主さんからは連絡がこなかった。
やっときたかと思ったら、会わないほうがいいと言われました。店主さんなりの思いやりでした。ハヤブサはきっと私が知っているハヤブサではなくなってしまったのだと悟りました。
ハヤブサも私には会いたくないと言ったそうです。その本当の理由はわからないけれど、私は納得がいきませんでした。