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ハヤブサ  作者: 松本 和
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第5話:天使狩り

ハヤブサは私が飛べないと知ってから、やたらと私に気を使うようになりました。

早く帰らないと危ないだとか。そっちには危ないから行くなだとか。…心配して家までついてくる日がほとんどです。

迎えにきたりする日もありました。…大切にされているのかな?とは思ったけれど、私は少し窮屈だと感じていました。


という訳で、久しぶりにハヤブサの働いている店に行きました。

今日もいい天気だなぁ。上を見上げたときに視界の隅に何か影が映りました。

その影は、私に見つからないように隠れたようでもありました。


「あら。久しぶりねぇ。元気にしてた?」ボーっと上を見上げ続けていると、名前を呼ばれました。

私はビックリしました。ハヤブサ以外に私に話しかけてくる人なんて本当に稀にしかいないからです。

「あ。サミさん。」母の友達だった。「アリエルどうしてる?最近会ってないからなぁ。」

アリエルとは私のお母さんの名前です。「元気にしてますよ。今度うちに遊びに来てくださいよ。」

サミさんは私のことを落ちこぼれだとは思っていません。そういうのは割り切る性格なんです。


しばらくサミさんと話をしました。その間も私の頭からはさっきの影が離れませんでした。

それどころか今度はずっと視線を感じていました。どこからか…。しかもそれは何人もの視線のようでした。

気味が悪い。何か嫌な予感がする。早くハヤブサのところに行かなくちゃ。


私はサミさんに別れを告げて、足早にハヤブサのもとに向かいました。

私の後ろを誰かがついてきている。…怖い!!!店が見えてからの最後の100mは走りました。

店に駆け込みハヤブサの姿を探しました。ハヤブサ!どこ!?


私が駆け込んできたのに驚いていた店主さんが「ハヤブサは今配達中だけど。」と言いました。

「どこに?」店主さんは私が敬語ではないことにも驚きながら「あいつの島。もう帰って来る頃だと思うけど。」

「あ、あのっ!海岸…通りますか?」さっきまで走っていた私は息が切れていました。

「ああぁー。いつも通り行ってるんなら通るんじゃないかな?」自信はなさそうでしたが、会えるかもしれないなら…。

「ありがとうございます。」そういって店を飛び出しました。

「まぁーた、仕事サボられちゃうよ。…クビにしよっかなぁ。」店主さんは店の奥の方に進みながら呟きました。


海岸に向かっている間、ずっと私は胸騒ぎを感じていました。それが私にとってなのか、ハヤブサに対してなのかもわかりませんでした。

海岸に着いて、10分ほどハヤブサが現れるのを待っていました。その間も視線を感じていたので、辺りを見回してみましたが誰も見当たりませんでした。


ジャリッ…。砂浜を歩く音がしたので私は後ろに振り向きました。視界の端に少し捉えることができたその人影は、まっすぐ水平線の方に向かっていきました。

あっ!と思ったときにはもう遅かったんです。その人影はいつの間にか見えるところまできていたハヤブサのところへ向かっていったのです。


「ハヤブサ!」その人影に気づいたハヤブサはすぐに方向転換をして、逃げようとしました。よし。大丈夫!と思ったときでした。

ハヤブサは私の方を見たまま動きを止めました。「危ない!!」ハヤブサの口がそう動いたのに気がつく前に、私は背後から捕まえられてしまいました。

私は自分が捕まえられたことよりも、ハヤブサがどうなったかの方が気になりました。

ハヤブサは私とほぼ同じタイミングで、追ってきた天使によって両手を後ろに引き上げられていました。


たった一瞬のうちにあまりにたくさんのことが起こったので、私は動揺するばかりでした。私のせいでハヤブサは捕まってしまったんだ。

ハヤブサを捕まえている天使が言いました。

「天使狩りだ。お前速く飛べるって有名なやつだろ?案外あっけなかったな。」

その時にはハヤブサの周りに3人も天使がいました。

その中の1人がハヤブサの翼を後ろでひとつにまとめました。

ハヤブサは逃れようと必死に体を揺らしましたが、抜け出せる気配は微塵も感じませんでした。私はハヤブサを助けること何かの前にハヤブサの傍に行くことさえ出来ませんでした。私はなんて無力なんだろう。ハヤブサはいつも私のことを守っていてくれたのに、私はこんな時に何にも出来ないんだ!


悔しくて、悲しくて涙が止まることなく流れ出してきました。その時、ハヤブサの叫び声が聞こえました。

「やめろ!放せ〜…!!」

見上げるとハヤブサは一人の天使に翼を両翼まとめて捕まれ、すぐ触れるところまでノコギリが押し寄せられていました。

「ハヤブサ〜!!」やめて!お願いだから!…天使狩りで襲われた天使はみんな翼を失っている。あのノコギリで翼を切られてしまうんだ!…そんなの嫌だ!ハヤブサが飛べなくなるなんて、嫌だ!


私の願いは虚しく、天使狩りは続けられました。私も押さえ付けられているのを必死に振りほどこうとしたけれど、力のない私には無理なことでした。

ついにノコギリはその鋭い刃を容赦なくハヤブサの翼に突き立てました。ハヤブサの翼から大量の血が流れだしました。

「うっ……ぐぁ…ぁ!!」

ハヤブサの叫びにならない声が聞こえました。


怖かった。私の大好きなハヤブサの翼が切り取られているところなんてとてもじゃないけれど見ていられなかった。


しばらくして、ずっと聞こえていたハヤブサの悲痛な叫びが聞こえなくなりました。怯えながらも目を開けると、そこには変わり果てた姿のハヤブサがいました。

ハヤブサにはもう翼がありませんでした。ハヤブサはもう飛べなくなってしまったんだ。

天使狩りはハヤブサからもぎとった翼は手にしたまま、ハヤブサを手放しました。

もちろんハヤブサはそのままいけば海に落ちて助からなかりませんでした。

天使狩りはハヤブサを手放した後はすぐに姿を消しましたし、ハヤブサはあまりのショックに気を失っていました。

しかし、ハヤブサは海に落ちませんでした…。

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