プロローグ
ある国家から一隻の偽装された船がが出港した目的地と目的は一体・・・。
プロローグ
そこはいつも静かな夜の筈だ。
初夏独特の動くたびに汗が噴出しそうになる熱さと肌にまとわり付くような湿り気のある生温い、ゆったりとした風というより空気が流れるているような微風が吹く。
本来ならば、青々とした葉の茂った木々が山を覆い茂る山並が見えるはずなのだが、第二次世界大戦以降の戦争で万単位という驚異的な餓死者数が毎年続出しているため、この国の国民は木の皮を剥いで、または木自体を切って食べるほどの危機的な食糧事情になってしまった社会主義国家。
木という木、草という草が無くなって地面の肌色の山肌があらわになってしまった山麓。
ここは朝鮮民衆主義人民共和国・・・通称北朝鮮の中国とロシアの国境に程近く、日本海側にある北朝鮮北部にある寂れた港町。
だが、この港はただの港ではなかった。
そこに停泊している船は見る限りその船は黒く長くて太い胴体で流線型の形をした潜水艦が数隻停泊している。
潜水艦の横にはグレーの鋭い角度の舳先を持ち、船前方の甲板に2メートル程ある円柱状の三連並んだ砲門と艦橋の天井には、空を向いて伸びている無数の細い棒状のアンテナと船の周囲を警戒する為の板状の回転式のレーダーを一つ装備した軍艦数隻が碇を下ろして停泊している。
ここはいわゆる軍艦が停泊する軍港だ。
その軍港の軍艦の中に不自然に紛れ込んだ漁船が二隻混ざって碇を下ろして停泊してる。
その漁船は少々変わった物を装備していた。それは漁船の船尾についていた。
船尾には、扉があってその扉は両側が外側に開く観音開きと呼ばれる扉がついている。
大きさは全長約30メートル幅約4,6メートルの標準的な大きさの遠洋漁業の漁船くらいの大きさの船だが、外見は漁船に似ているが良く見るとその漁船は漁船に似ても似つかない形をしている。
色は二隻とも白い艦橋に青い船体で軍艦と同様に艦橋の天井には、無数の棒状のアンテナと板状のレーダーを一つ装備している。
二隻の偽漁船が碇泊している。
通常この軍港は静かな山間にある軍港なのだが、今日は様子が違った。
その軍港の特に、偽漁船の人の出入りが激しい。
何やら、茶色の大きな帽子に茶色の上下の軍服を着た多くの軍人が頻繁に偽漁船に出入りしてなにやら出港準備しているようだ。
二隻の偽漁船は何処かへ向けて出港するようだ。
今日の海の状態は風は強くなく、波はとても穏やかだ。
しかも今は夕方から夜になるかならないかぐらいの曖昧な時間帯だ。
海のはるか先の地平線は鮮やかなオレンジ色に染まった太陽が僅かに頭を出している。
秘密裏に出港するにはまさに打ってつけの状況だ。
三十分ほどして所々小さな穴の開いたボロボロの見ようによれば、二,三十万はしそうな高価なビンテージジーンズにも見える薄汚れたジーンズと薄汚れた様々な色の薄手の長袖のTシャツを着た十人が、偽漁船の停泊している古びた木製の桟橋の一角で制服を着た軍人に混ざって出港の作業していた。
その十人の格好は船員の様に見せているのだが、その十人はどう見ても漁船の船員ではない様に見える。
その証拠に全員の眼は餓えた獣の様に眼つきは鋭く、身体は戦車の様に骨格はがっしりとしていて頑丈そうな身体だ。
身長も有に170センチ前後で揃っている。だが、全員の肉付きは余り良くなく、最低限の筋肉の体つきだ。
この辺が毎年万単位で餓死者を出すこの国の食料事情の劣悪さが浮き彫りになっている証拠でもある。
全員の肌の色は日焼けなのだろうか色黒で戦車の様に頑丈そうな身体に長身の全員の頬がこけた獣の様に鋭い眼つきの男達十人が黙々と偽の漁船に乗り込む。
その偽漁船は夜の闇にまぎれて波を切り裂きながら、静かにそして足早に日本海に向けて出港した。
数時間後、北朝鮮の国境を抜けて今は、日本の領海内にいる。
どうやら韓国には用事は無いようだ。
周りはすでに完全な夜の闇に包まれていて、真っ暗だ。
平衡感覚を失いそうなほどの闇夜に支配され包まれた、偽漁船は明かりも着けずに闇夜にまぎれてただ、ひたすら韓国領海を突き進む。
偽漁船の中を見てみると波を切り裂くザザザという船体の音と連続した重低音の船のエンジン音以外とても静かだ。
偽漁船には、確かに十人乗っているはずなのだがとても静かだ。
乗組員は一つの部屋に集まっているが、誰も話をしようとしないし、眼も合わせようとしない全員眼を閉じて腕を組んでただジッと黙って無言で床に座っている。
この部屋も明かりを消していて、部屋の内部も暗闇に包まれて真っ暗だ。
乗組員は皆、偽漁船に乗っていないかのように静かで気配を完全に消している。
偽漁船は次第に嵐の様に上下左右に荒れ狂う日本海独特の荒波に船が激しく揺れ初めてている。
荒れ狂う船体に文句一つ言わずに荒れ狂う船の揺れに身を任せてただ黙って座っている。
ここまで静かだと返って清々しく気持ちがいいのだが、それと同時に言いようの無い重苦しい雰囲気で剣の切っ先を向け合うようで恐ろしく不気味だ。
この偽漁船は荒波と夜の暗闇の中を停船して漁具の準備もせずにひたすら淡々と夜の海を航海する。
偽漁船の行き先は今の進路を変えずにそのままの進路を辿っていけば、あと一日もすれば日本の何処かの日本海側の港なり、浜に到着する。
この三日後、長年続いていた日本の問題が第三国のアメリカを強制的に巻き込んで、世界規模の重大な事件の歯車が急速に回り始まる。