第37話 東の魔王3
二人はともに左足を前へ踏み出し、右の攻撃が強打となるオーソドックスな構えをとった。
東の魔王は頭のターバンと長衣で実寸よりも大きくは見えたが、それを差し引けば、ゼンとほぼ同等の体型で、身長は170cm台後半、体重は70kg弱といったところだろう。
ゼンは「トンットンッ」と足を踏み鳴らし、ステップを刻み始める。
そして、東の魔王と目線を合わし、鋭く踏み込み、大腿部を狙って右ローキックを放った。
視線で上段への攻撃を意識させたフェイントからの下段攻撃。
しかし東の魔王は目線を外さないまま、左足を素早く上げてゼンの蹴りをスネで受け止めた。
そのまま、上げた足で前へ踏み込み、蹴り返しの右ミドルキックを繰り出した。
ゼンはその蹴りを後ろに下がり、間合いを取ることで回避した。
構えを崩さないまま言う。
「お前も、あっち側から来た人間だろう。こっち側の技にこんなのは無い。」
「なにが楽しくてこんな下らないことをやっている。」
東の魔王も構えたまま、言葉を吐き捨てるように返す。
「下らねぇことってなんだよ!? どれの事だ!? 今やってるこの殴り合いの事か!?」
「なんか魔物使ってなんかやったり、人を殺したりしてるんだろ。」
「やってるかもな! それがどうしたっ!? 説教でもして、俺に改心を迫るつもりかぁ!?」
「お前がどれくらいのバカか気になっただけだよ! バカ野郎!」
ゼンは言い終わると同時に、左前蹴りを敢行する。
東の魔王が蹴り足を腕で払いにきたところで足を引いて戻す。
敵の腕が下がったまま、顔面のガードが空いた。
「オラァッ!」
ゼンはそこを狙い、右ストレートを打つ。
が、好機と見るに力んでしまい、腕の振りがわずかに大きくなってしまった。
東の魔王はまたしても頭部を少し下げ、迫る拳をくぐり抜けた。
ゼンは、下がった敵の頭部を狙い、下から突き上げる膝蹴りを放つ。
しかし、これも不発に終わる。
両手で体を押され、間合いを取られてしまった。
「今のは、まあまあ良かったぜ。」
そう言いながら、東の魔王は頭に巻かれたターバンを解き始めた。
頭を覆っていた布が取り払われると、陽光を受けた彫刻のように端正な顔があらわになった。
陽に灼けた肌。彫りの深い顔立ち。その口元には、獲物を前にした獣のような笑みが浮かんでいた。
整いすぎた容貌が、かえって異質な凶暴さを際立たせていた。
「イバイだ。イバイ・サラザール。それが俺の名前だ。」
「お前の名前なんて知りたくも無い。」
「そう言うなよ。同郷みたいなもんだろ。」
「ところで、あんたの名前はなんて言うんだ?」
「……お前をぶっ飛ばした後なら教えてやるよ!」
ゼンは、一気に間合いを詰めて速い左ジャブを突いた。
硬い拳が見事に顔面を捉える。
間髪を入れず、腰の回転を乗せた二発目の重い左を突く。
だが今度は、伸ばしたゼンの腕の上から、イバイが電光石火の右手を被せてきた。
――ゴッ!!
死角からの鮮やかなクロスカウンターとなり、ゼンは強烈な右の拳を顔面に再び被弾してしまう。
意識を寸断され、尻から地面へと倒れ込んだ。
イバイは冷めた顔で、倒れたゼンを見下ろしながら呟いた。
「見込み違いだったかぁ。さっさと殺すか。」




