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最終回:全宇宙24時間営業――そして、誰も休まなくなった

1. 聖域への侵攻

 現世のブラック企業をすべて制圧し、あの世を巨大な物流センターへと変えたサトウ。彼の次なるターゲットは、この世界の「最上層」


――天国だった。


「リリィさん、見てください。あの雲の上で、ハープを弾きながら昼寝をしている連中を。……あんな『非生産的な怠惰』が許されていいと思いますか?」


 サトウは、黄金の門を指さして冷徹に言い放った。


「いえ、サトウ代表。あんなに広いスペースがあるなら、サーバー室に改造して魂の高速処理を行うべきです!」


 リリィの瞳は、もはや社畜の究極形「虚無の深淵」に到達し、輝きすら超えた何かを宿していた。

 サトウは、あえて「平和の象徴」である天国の門をノックもせずに蹴破った。


「失礼します。働き方改革(物理)に参りました」



2. ブラック企業あるある:その10「お客様は神様(という名のクレーマー)への対応」

 天国を統べる最高神・アルファが、眉をひそめて現れた。


「何用だ、不浄なる死神よ。ここは安息の地。労働などという卑俗な概念は存在しない」


 サトウは鼻で笑った。


「『安息』? それは単なる『思考停止』の別名ですよ。神よ、貴方は顧客(人間)の声を聞いていますか? 彼らは祈っています。『金が欲しい』『出世したい』『もっといい暮らしがしたい』……。これはすべて、労働へのモチベーションじゃないですか!」


 サトウは、神の目の前に巨大なモニターを突きつけた。

 そこには、サトウが構築した「現世・あの世・天国」を繋ぐ**『宇宙規模・一気通貫ワークフロー』**の設計図が映し出されていた。


「これからは天国も『サービス拠点』になります。聖者たちの祈りを『24時間体制のコールセンター』で受け付け、それを即座に現世の労働力に変換し、死んだらあの世で再雇用する。……神よ、貴方も『プレイングマネージャー』として、KPI(徳の積み立て数)の管理をしてもらいます」

「わ、私は神だぞ! なぜ私がノルマに追われねばならんのだ!」

「神だからですよ。**『神対応』**って言葉、知ってますか? できないなら、代わりの神(AI)を導入するまでです」




3. ブラック企業あるある:その11「アットホームな職場(同調圧力の極致)」

 サトウによる天国の大改造が始まった。

 美しい花畑は、一面の**「スタンディングデスク」に。気休めのバランスボールが置かれた。

 清らかな泉からは、水の代わりに「高濃度カフェイン飲料」**が湧き出るようになった。

 天使たちは、背中の羽根を「移動時間を短縮するためのブースター」として強制改造され、雲の上をマッハで飛び回りながら伝票を捌く。

 サトウは、全宇宙に響き渡るスピーカーで、24時間絶え間なく「社歌」を流し続けた。

 社歌は天使たちから好きな言葉を紙に書かせたものを繋げ、そこにメロディを付けたものだった。

 彼等が書いた歌詞が流れるたび、彼等は狂ったように阿鼻叫喚して喜んだ。

 それは、休みもなく働かされ続けた結果、感情そのものが壊れてしまったことと、

 それでもなお自分たちの詩が採用されているという事実に対する、歪んだ感情表現だった。


「いいですか、皆さん。私たちは家族です! **『アットホームな天国』**です! 家族を助けるのに、残業代なんて言葉を出すのは寂しいと思いませんか?」


 天使たちは涙を流しながら(実際は過労で涙腺が壊れているだけだが)、笑顔で答える。


「「「はい! 宇宙の平和のために、喜んで命(永遠の命)を捧げます!」」」



4. ブラック企業あるある:その12「引退は死ぬまでできない」

 数十年後。全宇宙から「休暇」という概念が消滅した。

人間、死神、天使、そして神々までが、サトウの作り上げた巨大な「システム」の一部として、歯車のように回転し続けている。

 サトウは、全宇宙の最高経営責任者(CEO)の椅子に座っていた。

 目の前には、ついに「全宇宙の未処理タスク」がゼロになったことを示すグラフ。


「……終わったな、リリィさん」

「はい、代表。全知全能の神すらも、先ほど300連勤を達成されました」


 その時、サトウの胸に、かつてないほどの**「虚無感」**が襲いかかった。

 すべてをブラック化した。すべてを効率化した。

……だが、自分は?


「リリィさん……。俺、今、何がしたいかわかるか?」

「……まさか、休暇ですか?」


 サトウは一瞬、ハッとした。そして、自分でも驚くほどの咆哮(笑い声)を上げた。


「ハハハ! 休暇? 俺が? まさか! ……新しい宇宙マーケットを開拓しに行くんだよ!」




5. 結末:永遠に続く「お仕事」

 サトウは、自分の魂をさらに圧縮し、別次元の宇宙へと「新規営業」に出かけるための転移ゲートを起動した。


「ブラック企業で死んだ俺は、あの世もホワイトすぎたから黒く塗りつぶした。……次は、別の神様に挨拶に行くとしよう。**『お宅の宇宙、無駄が多くないですか?』**ってな」


 サトウとリリィが光の中に消えていく。

 その背中は、誰よりも疲れ果て、誰よりもボロボロで――そして、この世の誰よりも「やりがい」に満ち溢れて輝いていた。

 全宇宙に、今日もサトウの声が響く。


「さあ、仕事(地獄)の時間だ!」



■エピローグ

 数万年後、宇宙の熱的死が訪れても、そこには一人、キーボードを叩き続ける男の影があったという。

 彼は神ですらなく、ただの「社畜」だった。

 だが、彼がいる限り、宇宙に終わり(定時)は来ないのだ。


『ブラック企業で過労死した俺は、あの世の企業に就職したがホワイトすぎてブラック企業に変えた。』



―― 完


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