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入る部活は自分で決めるものじゃない?

―ピピピピピピ

俺はアラームを止めてスマホを見る。

五時三十分


「うわあ、アラームの時間一時間ミスったあ」


…どれもこれも悪いことはあいつらのせいだ!!!


先週の入学式で俺は冬真と秋介という面倒な男二人に出会ってしまった。

特に最悪なのは秋介の方だ。

あいつが教科書配布中に俺にちょっかいをかけてきたせいで先生に怒られることになったし、ホームルームが終わったあとに大声で俺の名前を叫んだせいでクラスの中で悪目立ちした。

あのあとクラスの陽キャっぽい女子に「そこの男子たち仲良さそうに喋ってるとこごめんだけど、クラスライン作りたいからライン交換して〜」と笑いながら気まずそうに声をかけられた。本来ならば女子の連絡先を手に入れることができて喜ぶ場面のはずなのに、彼女の中で秋介と冬真と俺は同じ穴のムジナ認定されている事がわかって最悪の気分だ。


―ピロン


こんな時間にラインの通知が来た。非常識な人間は俺の周りに一人しかいないはずなのできっと秋介からのラインなのだろう。


「もう開くのもめんどくせえ、関わりたくねえ」


俺はスマホの通知を切って画面を布団に伏せる。


入学して三日しか経っていないというのに俺の中でクラスラインは黒歴史の宝庫になってしまった。


…先週から続くクラスラインは最悪だったな。


クラスライン創始者の女子の『柊くんと永野くんってどういう関係?笑』という一言から地獄は始まった。

『初日から先生に怒られるとかふたりともやばかったよね笑』

『ふたりって中学一緒なのー?』

『ちがうちがう。うち永野と中学一緒だったけど柊くんいなかった〜』

『初対面であれ?死ぬw仲良すぎwww』


俺と永野が口を出す隙もなくクラスの女子達が会話を広げていく光景は地獄そのものだった。だからといってそこで俺が『秋介とは一切何の関係にもございません。仲良くないです。』とか言える雰囲気でもない。というか俺が盛り上がっている女子に対して言葉を発せられるわけがない。怖すぎる。


…でも俺が言葉を発さなかったせいでそのあとの地獄が生まれたんだよな。

そう、女子たちの勝手な会話が可愛く見えるほどの地獄がその後には待ち構えていた。

冬真の登場だ。

『はるきと仲いいのおれだから!いっちゃんさいしょに話したし』というメッセージを見た瞬間に俺は「そういう話ししてねえ!!!!」と冬真を殴り殺したくなった。あとひらがなばっかのメッセージほど鬱陶しいものはない。男のぶりっ子はやっぱり許せないと決意した瞬間でもある。

冬真の暴走は止まらず最終はクラスラインから秋介を追い出すことで鎮火したのだが…。


その後も地獄で秋介からはずっと個チャで『はよクラスライン入れろ』と『仮入部あるから体操服忘れんなよ』などの連絡が来た。俺がオッケーのスタンプを押してクラスラインに入れ直してやったのにも関わらずしばらくのあいだスタ連の通知が鳴り止まなかったのだ。本当に鬱陶しい。そんな暇があるならクラスラインの騒動の弁解をしろ、と言ったのだが『別によくね?めんどくさいし事実だし』で終わった。マジでキモい。

それに加えて冬真からも『てにすぶいこーね』のラインがきた。まあこっちは俺が軽くお断りの返信をしたらすぐに鳴り止んだので楽だったのだが…


「まじで今日の学校が鬱すぎる。今日から仮入部期間だしぃ…泣きてえ」


俺はやることもないのでさっき来たおそらく秋介からのラインを見ることにした。


…うわあ

俺が途中から通知を切っていたので気づかなかったが『おは』という短文のあとに数回電話がかかってきていたみたいだ。まあ何の用がなくても電話をするというノリは男子校の頃もあったので別に特に思うところはない。ただ、俺達がほぼ初対面だということを忘れないでいてほしい。

俺も短く『おは』と返す。すぐに既読がついて『体操服忘れんなよ』と送られてきた。俺はグッドマークのスタンプを押してスマホを閉じる。

ベッドに仰向けになって倒れるといつの間にか眠ってしまっていた。



「んーまぶしい…。……今何時だ!?」


二度寝をしていたみたいだ。俺はぱっとスマホを手にとって時刻を見る。

七時四十分


「やっばあと十五分で出なきゃじゃん!?」


俺は急いで自分の部屋から出てリビングへと向かう。

母さんも父さんも…姉貴ももう家にはいないみたいだ。シンと静まり返っているリビングの隣りにあるキッチンから俺は昨日の夜に作ったサンドイッチを取り出して食べる。


俺の家から夢舞星までは徒歩二十分、自転車で十分といったところだが今は俺の自転車が姉貴に奪われているので使えない。朝のホームルームが始まる八時三十分に学校に居るためには最終で八時に家を出る必要がある。

…飯食って、顔洗って、寝癖直して、服着替える…それ以外のことする時間はないよな。筋トレの時間諦めます…二度寝なんかすんじゃなかった。


俺はサンドイッチを口の中に押し込み急いで洗面台に向かう。俺は顔を洗うついでに髪も濡らしきってしまう。寝癖直しを丁寧にする時間はなさそうなので水で寝癖を直すしかない。


洗面台での用事を終えて俺は学ランに着替える。学ランのホックを十個近く止めるのは毎回すごくストレスだ。うまく行かなかったときに服を引きちぎりたい衝動に駆られる。


俺は学生カバンを手にして家から急いで出る。八時五分、よし予定通りだ。


「いってきまーす」


家の鍵をして走り出す。ここが俺の足の速さの見せ所!長距離ランナー舐めんなよ!

俺の家から学校までは三千メートルもない。学ランが少々走りにくいが、十分以内には学校へたどり着けるだろう。

俺は走り出す。自転車で優雅に登校している同じ学校の女子生徒を追い越す。このスピードなら遅刻は絶対しない。


「春輝ー!」


あと千メートルくらいまで来たところで急に後方から名前を呼ばれた。

俺は嫌な予感がしたのでガン無視して走り出す。ここで足を止めて遅刻したら先生に二度目の説教を食らわされることになるのだ。嫌すぎる。

学校の校門が見えてきた。校門に立っている生徒会役員と先生方に挨拶をするために俺は走るのをやめて歩き出す。


「「「「おはようございまーす」」」」

「お、おはようございます」


生徒会役員の声が大きすぎて、俺は少し怯みながら挨拶を返す。にこにこして立っている彼女たちは今日も美男美女だ。美しい。


「おはようございまーす!!!!」


…うおーめっちゃ声でかいやつ居る〜

後ろから可愛らしい男の子が生徒会役員に挨拶をする声が聞こえる。朝から元気なのはとてもいいことだ。良いことだが…


「春輝ー!!おはよー!!!」

「…おはよ、冬真」


その元気を俺が受け取り切れるというわけではない。正直煩いくらいだ。


「春輝体操服持ってきたー?仮入部楽しみ〜!!」

「持ってきたけど…今日はめんどくさいから秋介といっしょにバスケ部行くぞ?」

「えーー!僕のほうが先に春輝と仲良くなったのに…。春輝はあんなやつを選ぶんだね…」

「選ぶとかじゃね―から。あいつめんどくさいじゃ…ぐふっ」


森のような場所を抜けたあたりで、急に背中に痛みが走った。めっちゃ殴られた。こんなことをするのは一人しかいない…。

後ろを振り返るとそこにいたのは俺の予想通り秋介だった。


「よ、おはよ」

「おはよ、じゃねえわ!朝っぱらからなんなんだよお前ら…」

「朝からうるさいよ春輝。おはよ〜永野。僕も仮入部ついてって良い〜?」

「別にいいけど…おまえ、その身長でバスケできんの?」

「は?絶対僕のほうが運動神経良いからね?」

「それは嘘だろ、チビ」

「死ね!」


…俺をはさんで喧嘩しないでほし〜

俺は真っ赤になった冬真の頬をつつきながら秋介に気になっていたことを質問する。


「秋介さ、俺が仮入部一緒に行っても結局は一人で入部しなくちゃだろ?俺行く意味ある?」

「んー、気分。別にどっちでも良いけど来い。」

「えぇ…。俺だってなんかお前にバスケやりたい理由とかあったら協力してやらんこともないと思ったのに…」

「だって気分だし」


せめて何かしらの理由があれば俺も秋介に協力してやろうと思ったのだが、ただの気分と言われてしまい肩を落とす。ただの気分で振り回されるこっちの身にもなってみてもらいたいものだ。

…あ、中靴の中に桜の花びら入ってる。なんか嬉しい。

俺は下駄箱で靴を履き替えて、南館にある教室へ向かう。


「あーでも…」


秋介が歩みを止めて遠くを見つめながら口ごもりだした。やはり気分だけでなく、秋介にもバスケがしたい理由があるのだろうか。ここまで来たらちょっと気になってしまう。俺は秋介が理由を話す気分になるように強く祈る。


「ねえー、春輝ほっぺいたい。」

「ごめんごめん力入れすぎた」

「…そこでほっぺから手離すんじゃなくて、力弱めるだけなのなんなの?」


冬真は不服そうだがかわいいし憎たらしいので俺は引き続きほっぺをつつく。


「…俺そこそこモテるからバスケやったらもっとモテるかなーって。あと普通にバスケ好きだし。」


意を決した顔で口を開いた秋介から出てきた言葉が想像以上にしょうもなかった。

俺はいつかコイツを殺すと思う。


「あっそ。まあもう今日はしゃあなしバスケ部の仮入部行くけどさ、今日だけだからな?明日からは陸部行くから」

「え!テニス部の仮入部は!?」

「あー…」


…正直五日間しかない体験入部のうちの二日を興味ない部活に使いたくないんだけどなあ。

俺はそんなことを思いながら地団駄を踏む冬真の頬を少し強くつつく。弾力があって気持ちいい。


「春輝も永野も、火曜日はテニス部だからね!!その次は陸上でいいから」

「えー、別に俺テニス興味ない…」

「うるさい!春輝は強制!永野は?」

「んー別にいいけど」

「じゃあ決定!」


冬真が満足そうなので俺はこれ以上文句を言わないことにする。仕方ない、陸上部には残りの三日間だけお邪魔することにしよう…。本音を言えば仮入部期間に少しでも友だちを増やしたかったのだが、その願いは叶わないみたいだ。

俺達はやたらと静かな教室の扉を開ける。


「…ホームルーム、始まってますよ。」


教室の前に立って静かに怒っている先生の口から発せられた言葉の意味を理解するのには少し時間がかかった。俺は静かに自分の腕時計を見る。八時三十二分。

おかしい、おかしいおかしい。俺達は校門をくぐる時点でまだ生徒会の挨拶運動は終わっていなかったし、後ろにゆったりと歩いている女子生徒がいたのだ。つまり遅刻をした原因は学校に入ってからの出来事の中にある。学校に入ってから………あいつらとしょうもない話をしていたせいだ。

…ほらやっぱり!!あいつらと居たからだ!!碌なことがない!!!!


顔を真赤にしている冬真と悪びれる様子が一切ない秋介といっしょに小さく「ごめんなさい」と謝り、俺らは自分の席につく。

秋介が机の上に置いた学生カバンに頭をおいて眠そうな声で話しかけてくる。


「…はぁ、朝のホームルームとかだるくね?俺中学の時こんなんなかったんだけど」

「お前は放課後以外で俺に話しかけてくんな」

「えー」


先生からの注意はなかったものの秋介が隣りにいるせいでずっと睨まれている気がしてならないのだ。というか実際睨まれている。怖い。


「今日から通常通りの授業が始まります。…朝から遅れてきた人たちだけでなくその他の人たちも、中学生気分は捨てて高校生らしく一日を過ごすように。はい、もうあと十分で授業が始まるので朝のホームルームを終わります。」


先生はそれだけ言ってすぐに教室を出ていってしまった。八時三十五分。あの人は話が短い有能系教師のようだ。

俺は次こそ誰にも怒られないように、次の授業の用意を始める。高校生活初めての授業は国語だ。教科書、ノート、ファイル、タブレット。必要なものはすべて持ってきている、全く問題ない。これ以上先生に怒られるのはごめんだ。


「ねえねえ柊くん」


俺が教科書たちを机の上に並べていたら前の方から可愛い女の子が俺を呼んでいる声がした。アオイさんだ。


「…どうしたの?」


俺は女子にきもがられないように爽やかさを意識しながらアオイさんに返事をする。


「ふふふっ、クラスライン柊くんも永野くんも喋ってなかったからさ。実際は二人……三人?どういう関係なのかなーって」

「……あー…ただの友達、かな」

「へー友達って思ってたんだ」


貴重な女子との会話に何故か秋介が口を挟んできた。鬱陶しいが女子と二人だけで話すのが少し恥ずかしくなってきた頃だったのでちょっとありがたい。

…てかめっちゃ絡まれてるこっちが勝手に友達って思ってただけってこと?友達じゃない人間にあんなダル絡みすんの?怖いわ逆に。


「永野くんあれで友達じゃないは無理あるよ。初日にケンカして、今日は仲良く一緒に登校してきてたし」

「じゃあ友達でいいや。」

「じゃあってなんだよ…」


秋介が学生カバンを机の横にかけて肘をつきながらあくびをする。今日も今日とて寝癖がついている。だけど自分で「モテる」と言う男の言葉は間違っておらず、寝癖がついていてもイケメンだ。腹が立つ。


「…永野くんたちバスケ部入るんでしょ〜?私もバスケ部入る予定なんだ〜女バス!」


アオイさんが俺達三人の中に流れた気まずい沈黙を振り払うように新たな話題を口にする。ありがとう、そしてごめんなさい。俺はその話題を一瞬で終わらせる言葉を発します。


「俺はバスケ部じゃなくて陸部入るんだ。バスケ入るのは秋介だけ。冬真もテニス部入るらしいし」

「えー、気まず〜…。あんなにおっきな声でバスケ部の仮入部の話ししてたからバスケ部入るもんだと思ってたよ〜」

「俺は意地でも柊をバスケ部に入れるけどな」

「やめてくれ!」


俺が秋介に懇願していたときにちょうど国語の教師が教室に入ってきた。


「はい、それじゃあ国語の授業を始めていきます。起立…」



「ふぅー、やぁっと四限目まで終わったあ!!」


俺は伸びをして半日分の疲れを和らげる。国語、物理、数学、体育という初日から移動教室多めの時間割だったので、休み時間に冬真や秋介から変な絡まれ方をすることがなかった。移動教室では座る場所が変わるので秋介とも離れることができた。ありがたい。

俺は財布を手に取り昼飯を調達するために購買へと向かう。購買は西館にあるので少し遠い。朝早く起きたのだから弁当でも作ればよかったと後悔する。


「はーるーきー!購買?」

「うん、購買行くとこ。お前も?」

「うん!俺中学の時購買なかったから楽しみだったんだよね〜!!」


なるほど、やたらコイツのテンションが高いわけだ。俺は中学時代一応私立の男子校だったので普段から購買を使っていた。でも公立の中学校には購買がないのだろう。確かに俺も中学で初めて購買を使ったときは少しテンションが上がった気がする。


「春輝購買で何買う?」

「えーなんだろ、適当にパンとか?あんま何置いてるかわかんないし」

「えー!学校案内パンフレットちゃんと読んでないのー!?購買のメニュー表載ってたよー!!」

「へーそんなん載ってたんだ〜。俺地図以外のページちゃんと見てねえわ」

「おもんないやつ〜。僕はね、焼肉弁当とシュークリーム買う!」

「お前、見た目によらずガッツリ食うんだな」

「成長期だから!俺の兄ちゃんは身長180超えてるもん〜」

「お前のその可愛らしい顔で身長180あるのが想像できない。」

「イケメンになるからね〜将来は」


…可愛らしい顔ってのを否定しないあたり、かわいいをちゃんと自覚してるんだな。腹立つ。

俺はいつも通り冬真の頬をつつきながら歩く。

階段を下りテニスコートの横にある通路に出た。冬真がまぶしいものを見るような目でテニスコートを見ている。コイツも好きなスポーツ…テニスがやりたくてこの学校に入ったのだろうか。普段の可愛らしい顔からは想像出来ない冬真の真剣な顔になんだか腹が立ち俺は指に力を込める。


「…痛いんですけど〜」


冬真が頬をぷくーと膨らませてこちらを睨む。コイツは単純で面白い。


「ごめんごめん。テニスやりたいのかな〜って思って。」


冬真が目を見開く。まるで「なんでバレたの!?」とでも言いたげな顔だ。あんなに表情を変えていてなんでバレないと思ったのだろうか。不思議でならない。


「…正解。早くテニスやりたいなって考えてた。」

「じゃあ今日別に俺等についてこなくても良いんだぞ?俺はなぜか秋介に振り回されてるけど、お前まで巻き込むつもりはないし」

「あー別にそれは大丈夫。テニスやりたい気持ちもいっぱいあるけど、友達と居たい気持ちのほうがいっぱいあるから。」

「ほーん、可愛い奴め」

「…痛いって言ってんの〜!力これ以上強くすんな!!」


再び可愛らしい表情を取り戻した冬真をみてほっとする。でも冬真がいじけ始めたせいで会話が終わってしまったので、俺は新たな話題を提供する。


「お前の兄ちゃんもテニスやってたりすんの?」

「?あー、中学の時は一緒にやってたよ。でも今は忙しいからやめちゃった。」

「中学一緒?ってことは年近いんだ?」

「……兄ちゃんが誰かバレるから言いたくない」

「え、なんで。仲悪い?」

「めっちゃ仲いいから!…だからこそ、兄ちゃんに俺の友達ってバレたら春輝めんどくさいことになるよ?」

「えなにそれ。これ以上めんどくさいことは勘弁して。」

「じゃあもう兄ちゃんの話し終わりね〜…_」


冬真が笑顔のまま急に固まって動かなくなった。俺は「おーい」と冬真の目の前で手を振るが、冬真からは何の反応も返ってこない。え、死んだ?

冬真が何を考えて固まったのかわからなかったので、俺は腰をかがめて冬真の視線の先を見る。そこにあったのは購買に並ぶ生徒の列だった。

…購買に人多すぎてショック死?こいつってそんなに購買好きだったんだ…。もっと早足で購買行ってやればよかった。


「おーい冬真。購買に並ぶ人が多すぎて買いたいもの買えるか不安なのはわかるけどさ、今動かないと更に人並ぶぞ〜?」

「?うぇ、あ…うん…?」


ずっと固まっていた冬真が言葉を発することが出来たのは進歩だが、全然人間の言葉を喋っていないので意図が全く汲み取れない。俺はまだ固まったままの冬真を仕方なく右脇に抱えて歩き出す。通常通りの冬真なら足をバタバタさせて「やめろ!」とでも言うと思うが、歩きだしてしばらく立ってもびくともしないので普通に不安になる。


「冬真ー?大丈夫かー?あとちょっとで着くからなー!」

「うぅ、やめ…」


お、すこしずつ自我を取り戻してきたみたいだ。良かった良かった。

俺は少し小走りして購買の列に並ぶ。少し周りの視線が痛いが、冬真を外に放置して購買に行くほうが俺的には胸が痛むのでこれは仕方のないことだ。


「うわーー!!!!」

「!?急に動くなよ!」


俺がちょうど購買の列に並んだ時、冬真が俺の腕からするりと抜け出して自立した。怪我をしなかったから良かったが、心臓に悪いので急に動き出さないでほしい。


「ちょっと!目立つようなことしないでよね!?」

「えぇ、お前が急に動かなくなったのが悪いんじゃん…。」

「それは…そうだけどさ!!もー!よかったぁ、バレてなくてぇ…」


冬真の顔がめちゃくちゃ赤くなっている。これは恥ずかしいのか怒っているのかどっちだろうか。


「てかなんでお前急に固まりだしたんだよ。」

「ちょっとショッキングな光景を目にしたの。特に何にもないから」


やはりこいつは購買ガチ勢だったようだ。俺は可愛そうな冬真の頭を撫でる。


「おーい、冬真ー!」

「ひゃっ!?」


購買の列の前の方から爽やかイケメンの声が聞こえ、冬真が俺の後ろに隠れる。冬真の知り合い…冬真の兄ちゃんだろうか?

…あー、兄ちゃん見つけたから固まってたのか?でも見つけただけでそんなに…???


「よ、冬真。」


俺の目の前に現れたのは両手に大量のシュークリームと弁当を抱えた生徒会会計の松坂くんだった。


…松坂くんと冬真じゃ名字違うし兄ちゃんじゃないのか?それとも複雑なおうちなのか?触れづらすぎる!!


俺は恐る恐る冬真の方を見る。冬真の顔がさっきの五倍くらい赤くなっている。やっぱり兄ちゃんなのだろうか?俺には分かりかねる。


「ぁぅ…兄ちゃん…なんでバレたの…?」

「なんでって。ははっ、お前がテニスコートに居る時に目あったじゃんか」

「…やっぱりぃ…?」


やっぱり松坂くんは冬真の兄ちゃんらしい。冬真が松坂くんと話しながら恥ずかしそうにしている。気まずい。相手が先輩なので軽率に会話に入ることも出来ないし、複雑な家庭の事情に突っ込むことも出来ない。

俺が気まずそうにしているのに気づいたのか松坂くんが話しかけてくれた。


「冬真のお友達?ども〜入学式で見たからわかるかな?松坂夏太でーす」

「ど、どうも。柊春輝です…」

「てかこんなとこで立ち話も何だし、列抜けなよ。俺冬真が食べるかなーって思って弁当もシュークリームもいっぱい買ったし。春輝くんの分もあるよ〜」

「ほんとに!?ありがとー兄ちゃん!」

「ありがとうございます…」


…これ俺が受け取って良い弁当なのか?金払ったとしても本来は冬真のためなんだろうしなんか申し訳ねえ。

俺は松坂くん…松坂先輩から唐揚げ弁当とシュークリームを一個ずつ受け取る。冬真には焼肉弁当とシュークリームを三個ほど渡していた。さすが兄弟?ちゃんと弟の食べたいものまで把握しているようだ。にしてもシュークリーム三個は多いと思う。


「先輩ありがとうございます、千円で足りますか?」

「良い良い〜あげるよそれ。冬真のお友達記念ね」

「え、でも悪いですよ…」

「春輝、これ以上長引かせたらめんどくさいことになるから!早く受け取る!!」

「え!?それじゃあありがたくいただきます?」

「うんうん、どいたま〜」

「はぁ、兄ちゃん強引すぎ…」


そうやって文句を言う冬真の顔がさっきテニスコートを眺めていた冬真の顔と重なる。いつもの可愛い顔とは違う、真面目でまぶしいものを見るような顔。口にはシュークリームを加えているし、長い睫毛のせいで瞳から感情を読み取ることが出来ない。わかるのはいつもの何倍も顔が赤いことだけだ。なんだかとても嬉しそうで、なのになぜか悲しそうに見えた。

冬真は一度目を伏せて意を決したような顔で口を開く。


「…てかさ、兄ちゃんも友達と一緒に購買来てたでしょ?俺と春輝は一緒に帰るから友達待ちなよ。」

「えー?別に大丈夫だけど…」

「じゃあね!ほら!春輝いくよ!!」

「え?ちょ、引っ張んなって!?先輩失礼します!!」


突然すぎる出来事に俺は驚くことしか出来なかった。俺は冬真に腕を引っ張られて教室まで向かわされる。


教室までの移動中、俺がどれだけ声をかけても冬真が返事をすることはなかった。

部活の話メインで書こうと思ったのにそこまでたどり着かなかった〜〜〜〜。書きたいことが多すぎる。萌の自給自足なんです。勢いで書いてるから誤字はご勘弁。

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