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入学式はこんなに忙しくない

この作品にはBL表現や女尊男卑的な発言があります。苦手な方はご遠慮ください。

あとお試し投稿なので誤字とかはめちゃくちゃあると思います。

 桜舞う季節

 今日は俺の高校の入学式だ。

 俺は今日晴れて名門私立夢舞星(ゆめまいぼし)高校に入学する。

 もともと俺は母親が勧めてきた中学校を受験しており、都内の男子校に通っていた。


 …そう、男子校にだ。


「…やっと、小学校以来の共学ッ!!!」


 俺は静かに拳を握り、喜びを噛みしめる。


「どうしたのはるちゃん。ちょっと顔キモいよ?」

「…なんでもないよ母さん。」


 キモいも何も無い。だって見てみろよ!俺とおんなじ学生カバンを持った女子生徒が!女子生徒がいるんだぞ!!

 周りを見渡す。学ランの男どもだけでなく、白を基調として水色のラインがよく映えるセーラー服を着ている女子生徒がたくさんいる。

 今の時代にブレザー型でなく学ラン・セーラー服の学校は珍しいが、それが良い。セーラー服の女子が天使のように見える。

 俺は別に女好きとかそういう訳では決して無いが、3年間も動物園のようなところに隔離されていたのだから少しくらいは喜んでもいいと思う。


 …女子が可愛いのはもちろんだけど、男子も品があって美しい―。俺感動!!


 世の中には男子校が動物園、臭い、煩いなどの偏見がはびこっている。

 その偏見は全く間違っていない。

 ほぼ裸の状態で教室や廊下をうろつくサッカー部なんて入学して一ヶ月も経たないうちにただの風景になっていたし、デリカシーのない下ネタだらけの会話は当たり前。見た目・匂い・言葉遣いに気を使ってるヤツなんてほぼいない。

 品性があるのは彼女持ちの人間だけだったが、ひと学年に五人もいなかった。

 ちなみに俺に彼女はいなかったが、年の離れた姉がいるためある程度清潔感はある…はずだ。


 正直動物園な男が多いといった理由で高校受験のない賢い学校を手放すのにはためらいがあった。

 しかしそんなためらいを亡き者にするほど素晴らしいものが夢舞星にはある。

 夢舞星には四百メートルのタータンが、整備された外周が、砲丸投げをできる設備も、棒高跳びができる設備もある。

 そう夢舞星は陸上、特に駅伝強豪校として有名なのだ。

 俺は幼少期から陸上のクラブチームに入っておりそこそこの成績を残してきたが、中学受験と同時に陸上をやめてしまった。中学に無事合格してからは陸上を再開したが、あの動物園には陸上部なんてものがなくクラブチームからしか大会に出場することが出来なかったのだ。


 受験勉強を頑張って最高な環境で陸上をできる学校に通うか、楽をして一生動物園にいるか、どちらが良いなんて考えればすぐに分かる。考えた結果こうして俺は夢舞星に入学することにした。


 …中学の時はクラブチームが始まるまでの間ずっと学校の外周走ってたんだよな〜懐かし。…まあ中二のときに生徒指導の先生にめっちゃ怒られてからはやめたんだけどね。ちゃんと家に帰って着替えて近くの公園の外周走ってました。


 そう思うとこれからは外周走っても怒られない速い奴らといっぱい走れる最高な環境にいることができるなんて嬉しすぎる。


 幸せな感情に包まれながら歩いていると、いつの間にか夢舞星の校門前まで来ていた。

 校門横にある桜の木たちがゆさゆさ揺れている。俺の入学を祝福してくれているように見えてなんだか涙が出てきそうだ。


 校門を通り学校の中に入る。学校に入って直ぐに目に入るのは整備された森のような場所だ。一番校門側に生えているのは桜の木だが、確かそこから時計回りに夏・秋・冬に花を咲かせたり身をつけたりする植物が植えられている。さすが共学の私立としかいえない。男子校に花とか植物とかがあっても動物園化が進むだけで意味がないからな。


 桜の木の前に何人かの女子生徒が立ってスマホで写真を撮っている。地元や塾が一緒なのだろう。可憐に笑う彼女たちは正直桜の花びらよりも美しい。

 …俺塾行ってないし、私立中学出身だから知り合い居ないんだよなあ。

 少し寂しいがここでの出会いに期待することにする。


「はるちゃんも写真取る?入学式だし記念に一枚、ね?」

「えぇ、いいよ俺一人だし。高校生になって写真とかいらないでしょ」

「いいじゃないか春輝。俺が撮ってやるよ、母さんと行ってきな」


 恥ずかしいから嫌なんだけどなあ…。


「わかったよ。ほら行こ母さん」

「ちょっと待って〜。この前お姉ちゃんに教えてもらったアプリで撮るから!えっと…どれかしら」

「なんでも良いよ。早く」

「あ!あった〜はいお父さんこれ!」

「おう!撮るぞ〜!」


 俺と母さんは森に植えてある桜の前に立つ。父さんが「ピースピース!」と大声で言っている。正直この年にもなって親の隣でピースして写真を取るのは恥ずかしいのだが、父さんが大声で叫んでいることのほうが恥ずかしいので俺は仕方なくピースをする。


「はいチーズ!」

 ―カシャッ


 写真が取れたので俺は颯爽と木の前から退散する。マジで恥ずかしい。他の人達が友達と撮ってる中俺だけ母親となの恥ずかしい。


「いい感じに撮れたぞ〜!」

「見せて見せて〜!」


 …子供の入学式にイチャイチャしないでくんないかなあ。

 俺は父さんが撮ってくれた写真を確認しようと母さんのスマホを覗き込む。


「…なんでうさ耳生えてんの?」

「お姉ちゃんが教えてくれたの〜かわいいわよね〜」

「姉貴…余計なことしやがって」

「おいおい二人共、早く体育館に行くぞ。」

「そうね〜いきましょ」


 今日撮った写真が姉貴の手元に渡っていじられるんだろうなという嫌な予感を心の奥にしまって俺は歩き出す。

 森を抜けて体育館前にあるテニスコートが目に入る。ちなみに夢舞星はテニス部も優秀な成績を残しているのだ。確か去年は県大会トップエイトに入っていたはず。

 きれいに整備されたテニスコートを抜けると新入生とその保護者が並んでいる列が見えた。俺達はその列に並ぶ。生徒証の確認をされているみたいなので俺は生徒証を準備する。

 順番が来て係の人に生徒証を差し出す。


「はい、柊さんですね。確認しました。会場の椅子に前から詰めて座ってください。」


 入学式が終わるまでは親とさよならできないみたいだ。体育館の真ん中くらいの席に俺達は座る。


 ◇


「…というわけでね、ご入学おめでとうございます」


 体育館に拍手が鳴り響く。

 校長が額の脂汗を拭きながら職員用の椅子へと着席する。

 校長先生の話は長くて面白くないという偏見があるがこれは間違いだ。この人の話は聞き取りづらかったが興味深かった。飽きることなく最後まで聞けたので俺はにっこりだ。


「次は在校生代表、生徒会役員紹介及び生徒会長答辞です。」


 夢舞星の生徒会長とは一体どんな人が出てくるのだろう。男子校時代の生徒会長は内申点目当てであまり目立つ人じゃなかったので、名門私立の生徒会長がどんな人なのかワクワクする。


「新入生の皆さんこんにちは。夢舞星高校生徒会長の田中優佳です。」


 生徒会長が黒くきれいで長い髪をなびかせながら挨拶をする。可愛い子はどんな服でも似合うというのは本当のようで普通ならダサい、セーラー服スカート長めがよく似合っている。 ザ・清楚系って感じでかわいい。


「今日、この夢舞星高校に新たな仲間を迎え入れることができとても嬉しいです。この学校を目指した皆さんなら知っていると思いますが、この学校は勉強も部活も本気で取り組む生徒ばかりです。皆さんもそういった方々だと思っています。」


 生徒会長がゆっくり会場内を見回しながら言う。

 この学校は陸上、テニスが主に大きな成績をあげているが、他の部活もそれに及ばないだけで一般的に見たらいい成績を持っている。

 …生徒会長、俺がんばりますよ。陸上でテッペン取りますね!!!


「そこで必要となってくるのが皆さん一人一人の限界を越えようとする力、そして周りとの助け合いです。どんな時でも乗り越えることのできる力と、支え合えるかけがえのない仲間を作り、一生に一度しかない青春を謳歌してください。」


 助け合える猿じゃなくて人間の友達ができるように俺努力します!あとできれば彼女も欲しい!青春謳歌したい!!

 会長は答辞を終えたのか一瞬目を閉じて深く息を吸う。その後舞台の下に顔を向け少ししてからもう一度マイクのスイッチが入れられた。


「そしてここからは私の青春を支えてくださっている生徒会役員のメンバーから一言ずつ挨拶をしてもらいます。それでは副会長から」


 会長の言葉に続いて次々と生徒会役員が壇上に上がる。

 …ん?四人しかいないのか?生徒会にしては少なくないか。そんなことないのかな?

 副会長の女の子がツインテールを揺らしながら、舞台上のマイクをがっと掴んで自己紹介を始めた。


「副会長の佐藤雪(さとうゆき)です!好きなものは可愛いものでーす!私達が卒業するまでの一年間よろしくお願いします!それじゃあ次は会計!」


 …生徒会長は普通の感じだな〜って思ってたけど、ほかが個性強いタイプかあ〜予想外〜。

 会計のイケメン君は少し顔をしかめたあと恥ずかしそうに佐藤さんから渡されたマイクを手に取った。


「会計の松坂夏至(まつざかなつと)です。好きなものは…自分です?一年間よろしくお願いします」


 佐藤さんの好きなもの発表は完全にアドリブだったっぽい。松坂くんがめちゃくちゃかわいそうだが、とっさに出てきた好きなものが自分なやつは多分通常運転でもヤバそうだ。

 書記の爽やか系男子が松坂くんからマイクを奪うように取る。


「書記の高橋健太(たかはしけんた)です。好きなものはサッカーです!みんなサッカー部来てね〜。一年間よろしく!」


 高橋くんはアドリブを完全に自分のものにしてしまっている。さすがサッカー少年だ。

 生徒会メンバー全員の自己紹介が終わって後ろで待機していた会長が高橋くんからマイクを受け取って前に出てくる。


 …生徒会のメンバーの顔面が強い

 四人が壇上にきれいに並ぶと圧倒感がエグい。

 会長はおとなしそうな顔に長い黒髪ストレートが清楚な感じで綺麗だし、佐藤さんはかわいい顔に天パのツインテールがよく似合っているかわいい、松坂くんはキリッとしていてスタイルが良くて好きなものが自分なのも納得がいくほどイケメン、高橋くんもザ・サッカー少年な感じの爽やかイケメンだ。


「…少し困ったところもある人たちですが、私の楽しい学校生活は彼らに支えられています。皆さんもこれからの三年間を楽しく過ごせる、大切な友人を見つけていってくださいね。これで生徒会長の答辞、生徒会役員紹介を終わります。」


 生徒会長が副会長の肩に片手を置きながら降壇する。そこはかとなく副会長の顔が青ざめているような気がしたが気のせいだろう。


「次は、一年生の担任発表、そしてクラス発表です。」


 …ついにこの時間(とき)がやってきた。

 可愛い女子に囲まれたいとか欲張りなことは言いません!むさ苦しい男に囲まれるようなクラスでなければ、本当にッ!!


 俺は手を合わせて目を閉じ神、仏、その他にも祈れそうなところに祈ってみる。


 一組、二組とクラスが発表されていく。俺の名はまだ呼ばれない。

 …残すは三組。


「それでは次は三組です。」


 心臓がバクバクしているのがわかる。受験のときでもこんなに緊張しなかった気がするのは気のせいだろう。


「…さん、原田蒼さん、柊春輝さん」


 …!!俺の名前だ


 前後はアオイさんと、ナギさんだった。どっちも中性的!!男か女かわかんない!!


 まあ、正直言って前後の人間はあまり関係ない。なぜなら前後の人間が教室で隣の席になるわけではないからな。

 ひとクラスが四十人だから、机の列が六列くらいあるとして俺の隣は俺から七ずつ離れてる人間か?

 そんな事を考えながら俺は残りのクラスメイト発表に耳を傾けた。


「…これにて一年生の担任発表、クラス発表を終えました。」


 …俺クラスメイトにばっか気取られて、担任知らないんだけど。


 せっかくだし一目見ようと思ったが、俺の担任はもうすでに職員用の席へ戻っているらしく、それらしい姿は確認できなかった。


「これで入学式を終わります。一年生の皆さんはこのあと十一時までに各自の教室の自分の席に着席していること。ここで一旦解散となります。」


 その言葉を始めとして、会場内にいる人々が動き出す。


「ねえ、はるちゃん?十一時まであと三十分もあるけどどうするの?あなたこの学校にお友達いないし…」

「…母さん、その言い方だと俺悲しい子みたいじゃん。入学式なんだから友達いなくて当たり前だろ」

「春輝、学校内でも探検してきたらどうだ?どうせ今から教室に向かっても、話す友達がいないだろう?」

「父さんっ!!!」


 俺は小さく深い溜め息をついた。


「じゃあ俺、学校を見て回るよ。帰りの時間はスマホで連絡するから。」


 学生カバンとトートバッグを持って立ち上がる。


「わかったわ。お友達、つくるのよ?」


 …さあて、どこから見て回るかね


 学校を見ると言っても正直オープンキャンパスで一通り回ったので行くところがない。


「オーキャンで行かなかったとこといえば、陸上部の部室くらいか?」


 オーキャンの部活見学では四百メートルタータンのところをみんなで軽く走ってみましょう〜みたいな感じだったから、部室の場所については詳しく知らない。

 学校案内の地図見ながら俺は陸上部の部室がある方向へと進む。


 北館の二階、最東端。北館は基本的に移動教室で使われる実験室や音楽室などの教室が多く、正直「なんでここに陸上部の部室があるの?」という感じだ。


 ちなみに俺らが普段使う教室は南館の二階。三階四階と階が上がるごとに学年が上がっていく。

 南館から北館へは渡り廊下を渡るだけで移動することができるので、授業が終わって廊下を渡るだけで行ける陸上部の部室は正直神立地である。

 確か他の部活の部室は体育館の近くにある離れの西館にある。本館に部室があるのは陸上部だけなのだ。なぜ陸上部だけ北館に部室があるのか本当に謎でしかない


「ここが陸上部の部室か」


 隣の教室にはなんの標識もない。というか北関の二階には陸上部以外によく使われていそうな教室がない。第一準備室、第二準備室…みたいなのばっかりで陸上部の扱いへの謎が深まるばかりである。


 陸上部の部室は流石に鍵がかかっていたが、窓が広いので外からでも部室内の様子がよく分かる。


「…広」


 普通の教室二個分。いや、ワンチャン三個分ある。

 もともとパソコン室なのだろうか?広いスクリーンに移動式のホワイトボードと黒板がそれぞれ2個ずつある。


 女子陸と男子陸は部室が一緒なようで、教室の真ん中あたりに仕切りに使うカーテンがついている。


「…思ってたより部員が多そうだな」


 部員が多いというのは高め合う仲間が多いということだが、その分大会に出れない確率も上がる。

 …頑張らないとだな。

 ひと通り部室を見終わったので俺は時計を見る。


 十時五十三分


 こっからだと教室までは三分もかからない。だからといって入学初日にギリギリで教室へ行くのはどうかと思うので、今ぐらいの時間から向かうのがちょうどいいだろう。


 俺は陸上部の部室をあとにして自分のクラスの教室へと向かう。


「ん?」


 南館の西側に小さな人影が見えた。

 今日は一年生以外の生徒は生徒会以外に来ていないはずだ。


「ぅう…ここ、どこぉ…」


 すすり泣くような男の子の声が聞こえてくる。高校生にしては声が高い。

 …え?幽霊?

 今この学校には生徒会役員と新入生しかいないはずだ。自由時間とはいえ陸上部の部室以外特になにもない北館の二階に人がいるのはおかしい。いるとしても陸上部が目当ての人間くらいだろう。

 特に何にも使われていない北館は電気がついていない。日の光が北東からさしている今の時間帯は特に西側が暗く見える。

 小さな人影がどんどん俺に近づいてくる。


「あっ!人!!」


 小さな人影が俺を見つけたみたいでどんどんと近づいてくる。

 …まって怖い怖い怖い怖い

 小さな人影が渡り廊下の前らへんまで来たときに、ようやく顔が見えた。

 可愛らしい顔をした男の子で制服は男子のものだが高校生男子とは思えないくらい小さく、駆け寄ってくる姿には「ぴょこぴょこ」といった擬音が聞こえてくる。


 小さな人影くんは息を切らしながら、上目遣いで俺を見て言った。


「…はぁ、はぁ。あの、先輩!ぼく一年生で!三組で、教室…わかんなくて!」


 俺を先輩と勘違いしているのか。コイツ、生徒会役員の紹介聞いてなかったな?


 まあたしかに俺は高一にしては背が高い。去年測ったときで175センチあった。今は180センチを超えていてもおかしくないくらいだ。


「大丈夫、俺も一年。…んで三組だ。一緒に教室に行こう。」


 その言葉を聞いた瞬間に小さな人影くんの表情が「ぱぁ!」っと晴れる。


「ありがとう!…ございます。えーっと名前」

「どういたしまして。俺は柊春輝。お前は?」

「ありがとう春輝!俺は乾冬真(いぬいとうま)!」

「よろしく、乾。」


 乾は萌え袖をぴょこぴょこ振りながら俺に楽しそうに話しかけてくる。


 …正直萌え袖系男子は苦手だ。


 なぜなら自分の利害のみを意識して行動していそうだから。つまりただのド偏見。あとなんかモテそうで嫌い。


「乾じゃなくて、冬真って呼んでよ。ぼくは春輝って呼んだし」

「それはお前が勝手に呼んだけだけどな…。よろしく、冬真。」

「うん!」


 笑顔がかわいい。男子校の男みたいにむさ苦しい感じがしないのは、萌え袖系男子の良いところかもしれない。


「春輝は何してたの?あそこらへんなんもなかったし」

「あー。陸部の部室見てた」

「え、そういう趣味?変態じゃん」


 冬真が声を大きくしてからかうように言ってくる。

 …萌え袖系男子でも男は男なんだな。なんでもピンクな話になってしまう


「違うな?俺が入んの、陸上部。」

「ははは、キレんなって!」


 冬真がめちゃくちゃ笑い出した。顔が真っ赤になってる。


「冬真顔赤すぎだろ」

「もーー。そういう体質なの」


 冬真が頬に手を置く。なんか小動物っぽくて可愛い。


「冬真は?なんであそこで迷子になってたわけ?」

「それはね…って!頭に手置くな!」


 おっと、このノリは共学では通じないらしい。俺は冬真にごめんと謝って手を除ける。


「北館と西館と体育館の間らへんにテニスコートってあるじゃん?」

「うん」

「最初はテニスコート見に行ったんだけど帰ろうって思ったときにまず、西館と北館どっちがどっちかわかんなくなって。」

「うん?」

「北館と間違えて西館に入っちゃったんだよね。それにはすぐ気づいたんだけど…」

「うん」

「西館からの出方がわかんなくなって、いつの間にか体育館にいて。あっ、体育館と西館はくっついてるからね。体育館からはテニスコートが見えたからすぐ脱出できたよ!」

「おう」

「テニスコートに戻ってきてから、さっき入ったところが西館ってことは逆側が北館か〜ってなって北館に入ったんだよ。でも、オーキャンでは北館なんてほぼ通らなかったじゃん?渡り廊下の位置がわかんなくて彷徨ってたの」

「おー、つまり方向音痴か〜」

「違う!あと頭なでんな!」


 冬真が何を言っているか半分以上わからなかったが、動物園で毎日猿と会話していた俺には「聞き流す」という特殊能力があるため無問題だ。

 …ていうかコイツこんなに空間把握能力なくて、よく受験通ったな。数学の図形問題とか解けないだろ…。


 冬真の意味のわからない話を聞いてるうちにいつの間にか教室までたどり着いていた。


「ここ、教室な。明日からミスんなよ。」

「わかってるし!」

「顔赤すぎだろ」

「そういう体質なの!うっさいな!」


 顔を赤くして怒ってる冬真を後ろに、俺は教室に入る。

 すると、担任であるであろう人が俺達の方を厳しい顔で見た。


「やっときましたね!時間に間に合ってはいますけど、この学校では原則五分前行動を行うように。」

「「わかりました」」


 雰囲気は朗らかだが、真面目そうな男の先生だ。あれは怒らしたらやばいタイプである。


 俺と乾は静かに自分の席につく。


 …隣の席は、っと。


 左隣男、右隣男。


 ………おいっ!!!!!!


 俺は奥歯を噛み締めながら神や仏その他もろもろを怨んだ。

 左隣の男はなんか机に突っ伏して寝てるし…。初日からこういう態度とんのってやべえやつか厨二病だろ。


 右隣は普通のやつだが、前後の女子と仲良さそうに喋っているのでなんか仲良くしたくない。


「皆さん席につきましたね。それでは教科書配布をはじめます」


 前の席から各教科の教科書や参考書が回ってくる。

 ちなみにアオイさんは女の子でナギさんは男だった。ありがとうアオイさん!!

 俺が心のなかでアオイさんに感謝していると、急に先生がため息を吐いてこちらを見る。


「すみません柊さん、隣の席の彼を起こしてもらっていいですか?」

「え?はい」


 急に先生に名前を呼ばれたと思ったら左隣の席のやつを起こせと言われた。

 …まあ確かに俺と逆側の席は女の子だしな。俺に頼むよな。


 俺は左隣の机突っ伏し寝野郎をゆさゆさする。


「んーー」


 かすれた低い声が教室に響く。


「起きろー」


 俺はなるべく小さい声で起こそうとする。

 どれだけゆさゆさしても机突っ伏し寝野郎は「んー」という言葉を発してまた寝るを繰り返すだけだ。


 …中学時代に戻った気分だ


 中学…動物園時代にも授業中ずっと寝ているやつがいて、ソイツと隣の席になったら強制的にアラーム係にさせられるのだ。

 確かその時は…


「わーーー!」

「うおっ!?びっくりしたやめろよガチで!!!」


 やっと机突っ伏し寝野郎が起きた。さすがアラーム係二十五連続の異名を持つ末永くんの秘技「耳元でめっちゃ叫ぶ」は誰にでも効くようだ。


「せんせー!起きましたー」

「ありがとうございます柊くん。」

「…なんで初対面でそんな遠慮ねえんだよ…はぁ」


 机突っ伏し寝野郎は右耳を抑えながらあくびをする。

 寝癖がついていてだらしない顔をしているのになんでこんなにイケメンなんだろう?というか共学の男みんなイケメンなんだけど?これが格差か…

 俺は回ってきた教科書を後ろに回しながら教室にいる人間を見回す。


 …女子は可愛いし、男子はイケメンだし。中学が動物園ならここは美術館だな!


 そんなことを思っていたら突然左隣から突然袖を引っ張られた。俺が顔を向けるとそこにはニヤニヤ顔の机突っ伏し寝野郎がいた。


「なあ、お前身長何センチ?」

「はあ?今雑談の時間じゃねえんだけど」

「別にいいじゃん」

「はあ…。180前後」

「ふーん、俺173な」

「あっそ」


 …何が言いたいんだコイツ。

 俺はアオイさんから回ってくる教科書を後ろに回しながら左隣の机突っ伏し寝野郎の質問に答える。

 身長の質問は毎回必ず初対面の人にされるので特に回答に困ることはないが。


「お前なんかスポーツやってんの?」

「陸上やってるけど?」

「へーバスケやろうぜ!」

「え、聞こえてなかった?」

「?身長180あんだろ?」

「あー、うん。」


 だめだコイツ、話が上手に伝わらない!

 俺は左隣の机突っ伏し寝野郎との会話を諦め、教科書配布と先生の話に集中することにした。


「なーなー」


 俺はアオイさんから数学の参考書をもらう。


「おーいー」


 俺はナギさんに数学の参考書を渡す。


「ねーー」

「うっさいな!!!!!」


「うっさいのはあなたですよ。」


 ―ひぃ!!


 思ったより大きい声を出してしまった自分と、怒った先生の冷ややかな声に驚く。

 怒られたけど、これって俺が悪いのだろうか。明らかにずっと鬱陶しいくらい話しかけてきたヤツが悪いのではないだろうか。

 しかし俺にはそんな反抗をする勇気なんて全く無いので潔く「すみません」と謝る。


「怒られてやんのー」

「あなたもですよ、ずっと煩いです」

「さーせーん」


 こいつ!!!!怒られても気にしない人間というのはずるい。俺だって入学初日から悪目立ちしたことを気に病みたくはない。

 俺が少しふてくされているのに気がついたのか左隣の机突っ伏し寝野郎が話しかけてこなくなった。

 …もう少し早く俺の怒りを理解してくれたら良かったのになあ


「はい、これで全ての配布物を配布しました。この自己紹介カードは来週の月曜日までに書いて持ってきてくださいね〜」


 高校生になってもまだ自己紹介カードあるんだ。あれ書くの意外と楽しいよね、やった。

 …俺は落ち込むのをやめて花の高校生活を全力で楽しむことにした


「月曜日は一から四時間目までは普通に授業で、五・六時間目に委員会などを決めます。何がしたいか考えといてください」


 机突っ伏し寝野郎が肘をつきながらだるそうに手を挙げる。


「せんせー、委員会って何があるんすかー?」

「お前、先生に最初からその態度はなあ…。…まあいっか。」


 いいんだ。


「委員会は風紀委員、図書委員、放送委員、保健委員、新聞委員、選挙管理委員、行事運営委員があります。まあ大体名前通りですね。」

「それだけっすか?全員が委員会入れるわけじゃないんすね」

「…あとはクラス内の係がある。学級委員、会計、書記だな。各係二人ずつの就任だから役職につかない人間も出てくる。」


 うわ、先生ついに敬語やめた。


「あとは生徒会。まあ一年生が生徒会に立候補できるのは後期からだから、気にする必要はないな」

「わっかりましたーあざまーす」


 ◇


「ということで、来週から皆さんは普通に授業を受けます。教科書や体操服など、必要なものを持ってくるようにしてくださいね。ではさようなら。」


 やっと、俺の高校生活初日が終わった!


 今すぐにでも陸上部の入部届を出したいところだが、新入生の仮入部・入部届期間が来週以降なため諦める。ないとは思うが仮入部で陸上部の雰囲気が苦手だと思う可能性もないことはない。


 …友達は来週から作ればいいし、なんなら冬真がいるから今焦る必要ないよな。


 俺は配られた教科書や書類をまとめて学生カバンに入れる。


「なあ」


 急に左隣からかすれた低い声で呼ばれた。

 俺は嫌な予感を感じながら左隣の男に目を向ける。


「なに…?」


「バスケ部入ろ」

「は?だから無理だって」


 なんだコイツしつこい。てか初対面の会話で部活勧誘ってなんだよ。


「お前背でかいから一緒に入ろ、決定。俺1人で仮入部とか行きたくないし。」

「なんで勝手に決めてんだよ。俺は陸部入るから。」

「ちょ、まじお願い。兼部オッケーだろこの学校?。」

「え、無理。俺がオッケーじゃない。」


 寝癖をつけただらしない姿のままコイツは俺に仮入部同行の交渉をしてくる。

 何こいつずっと断ってんのに怖いうざい。

 ささっと帰ろうと俺は学生カバンを手に取った。


「春輝はバスケ部には入らないよ!」

「え?」


 机突っ伏し寝野郎の後ろから冬真がぴょこっと生えてきた。


 …冬真!俺を面倒ごとから遠ざけようとしてくれたんだな。ごめん、萌え袖嫌いとか言って。


「春輝、テニス部行くもんな!」

「いや、それも行かない。」

「なんで!」


 冬真に俺を助ける気がなかったと分かり、俺は教室の出口にそそくさと向かっていった。


「おい柊!」


 ―ビクッ


 振り返るとそこにはすごい剣幕の机突っ伏し寝野郎がいた。そして、クラス中の視線が俺とソイツに注がれている。

 机突っ伏し寝野郎がドシドシと俺に近づいてくる。


「な、なんだよ。」


 ―パンッ!


 机突っ伏し寝野郎が顔の前に手を合わせてきて言った


「仮入部だけでいい、一緒に行ってくれ。」


 なんでそんなに俺に執着するのかが全くわからない。

 …が、まあ正直仮入部だけならどこに行っても良い。面倒事に巻き込まれるの五億倍くらいマシだ。


「…わかった、わかったから。」

「ん、ありがとな」


 …えなにこいつ軽くね?


 机突っ伏し寝野郎が自分の席に戻ろうと踵を返した…


「まて、お前名前なんだ」

「?…あー、永野秋介(ながのしゅうすけ)

「なが…秋介。じゃあな」


 男子校時代の名残で苗字呼びをしてしまいそうになったが、俺は学習する人間だ。冬真が苗字呼びを嫌がっていたので、一応秋介も下呼びする。


「なんで下呼び?きしょ」

「はぁ?」


 俺のイライラメーターが溜まり始める。

 俺は怒りをあらわにしないようそっと、心の中で叫んだ。


 共学の男、意味わからん!!!!!!!

この作品はフィクションです。実際の人物・団体・出来事とは一切の関係がありません。

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