8 新たな光 - 玉龍の覚醒
夜空は漆黒の帳を広げ、星々が微かに瞬いていた。
宮廷の庭では、守護と破壊の二つの玉龍が一つに統合され、眩い光を放っていた。
その光は結界全体に広がり、宮廷を覆っていた暗雲を一掃するかのように闇を消し去っていく。
俺は静かに彫像を見上げ、息を整えながら、その場に立ち尽くしていた。
儀式の最中、玉龍が最後の調和を迎えるにつれて、周囲の空気が変化していった。
穏やかで清らかな風が吹き、庭に立ち並ぶ朱塗りの柱や石畳が柔らかな光に包まれている。
紅院が震える声で口を開いた。
「一条殿……これで全てが終わったのでしょうか?」
俺はわずかに視線を彫像から外し、紅院に答えた。
「まだ分からない。守護と破壊の力が完全に均衡を保ったとは限らない。結界が安定するかどうかは、これからの時間が教えてくれるだろう」
その言葉が終わる前に、玉龍の彫像が再び震え始めた。
結界全体が微かに揺らぎ、光の中から黒い霧の名残が立ち上る。
それは彫像の内側にわずかに残された破壊の力が外部へと漏れ出している証拠だった。
「まだ完全じゃないのか……」
俺は霊刃を構え直し、彫像から放たれる霧の動きを見極めた。
霧は次第に形を作り、最後の抵抗を試みるかのように再び影を成していく。
現れたのは、闇の龍の残滓だった。
それは前の影よりも小さく、力を失いつつあるように見えたが、その目にはまだ狂気の光が宿っていた。
「これが最後の障壁か…」
俺は低く呟き、霊刃を握り直した。
闇の龍はゆっくりと姿を持ち上げ、俺に向かって咆哮を上げた。
その声は
耳をつんざくような音を伴い
結界内を震わせたが
俺の足元は
微塵も揺るがなかった
闇の龍が突進してきた瞬間、俺はその動きを見極め、素早く間合いを詰めた。
霊刃を一閃し、龍の体を切り裂くが、その黒い体は霧のように散らばり、また形を成す。
「しぶといな……」
俺はその体が徐々に薄れていくのを感じながら、さらに一歩踏み込んだ。
霊刃を逆手に構え
龍の胸元
その核となる部分を見据える
「最後だ!」
刃を
深く突き立てた
闇の龍は崩れ落ち
その残骸が完全に霧散した
静寂が訪れた庭には、再び穏やかな光が満ちていた。
玉龍の彫像はその輝きを取り戻し、亀裂も完全に消えている。
「これで……終わったか」
俺は霊刃を鞘に収め、深く息を吐いた。
紅院が静かに近づき、頭を下げた。
「一条殿…貴方のおかげで、玉龍は本来の姿を取り戻しました。心から感謝いたします」
俺は彼の言葉を軽く受け流しながら、彫像を見上げ続けた。
「守護と破壊、両方の力があるからこそ均衡は保たれる。だが、その均衡を乱す者がいれば、また同じことが繰り返されるだろう」
紅院はその言葉に頷きながら答えた。
「これからは宮廷全体で玉龍を守り、その力を正しく扱うことを誓います」
朝陽が宮廷に差し込み、庭全体が黄金色に染まる頃、俺は静かにその場を後にした。
結界は安定し、国全体が再び平穏を取り戻す兆しを見せている。
だが、俺の旅はまだ終わらない。
「次はどこへ向かうか……」
俺は呟きながら、朝陽が照らす街道を歩き始めた。
背後には守護の象徴として輝きを放つ玉龍の彫像が、宮廷を見守るように立っていた。
■「元勇者 シリーズ1」 で続く。