6 闇の力 - 再び目覚める破壊
月は薄雲に隠れ、宮廷の庭に射す光はほとんど失われていた。
玉龍の彫像はその曇りをさらに深め、表面には黒い亀裂が徐々に広がっている。
その姿は守護の象徴であるはずの玉龍から、まるで破滅の兆候そのものへと変わりつつあった。
俺は結界の歪みを注意深く観察しながら、再び霊刃を手にした。
「これは……守護の力が限界を超えようとしている。破壊の力が目覚めつつあるか」
低く呟いたその瞬間、玉龍から冷たい風が吹き抜け、周囲の灯りをかき消した。
突然、庭全体が震え始めた。
玉龍の亀裂から放たれる黒い霧が形を成し、彫像を包み込むように渦を巻いていく。
その渦は次第に巨大な影へと変貌し、闇の中から異様な咆哮が響き渡った。
「破壊の力が……具現化しつつあるというのか」
俺は冷静にその影を見据え、結界の中で暴走する力を抑えるために動き始めた。
影はやがて形を整え、龍のような姿を作り上げた。
だが、それは玉龍とは似ても似つかぬ禍々しい存在だった。
黒い鱗に覆われたその体は、結界を食い破るかのように荒々しく蠢き、鋭い目が俺を捉えている。
「まさか結界がここまで崩壊しているとはな……」
俺は霊刃を構え、影の龍へ向かって一歩を踏み出した。
その瞬間、影は咆哮と共に牙を剥き、俺に襲いかかってきた。
影の龍の攻撃は鋭く
素早い
一撃一撃が結界に響き
庭の朱塗りの柱が
崩れ始める
俺はその猛攻をかわしながら、影の動きを観察した。
「体は霧のように不定形だが、中心に……核があるはずだ」
俺は影の体内を透かすように見つめ、黒い光を放つ部分を見つけた。
「そこが弱点か」
影が再び突進してきた瞬間、俺は地を蹴って空中に跳び上がり、その核に向かって霊刃を突き立てた。
霊刃が核を捉えた瞬間、影の龍は激しく身をよじらせた。
その体が徐々に崩れ始め、黒い霧となって周囲に散っていく。
だが、その霧は再び玉龍の亀裂へと吸い込まれ、彫像の変異を一層加速させた。
「これでは根本的な解決にはならないか……」
俺は霊刃を鞘に収め、彫像に近づいた。
亀裂の奥から放たれる黒い光は、明らかに破壊の力そのものだった。
その時、背後から足音が聞こえた。
振り返ると、紅院が現れ、玉龍を見上げて呟いた。
「これが……破壊の力の真の姿か。恐ろしいものだ」
「恐ろしい、だと?」
俺は冷たい声で問い返した。
「お前が術式を乱したせいで、ここまで事態が悪化したんだぞ」
紅院は苦しそうに顔を歪めながら答えた。
「それは認める。しかし、私は玉龍を解放することで、この国を守りたかったのだ……」
「守りたかった、だと?お前の野心がこの国を滅ぼしかけているだけだ」
俺は鋭い言葉を投げつけながら、玉龍の変異を抑える方法を考えていた。
「破壊の力を完全に封印するには、双龍を統一するしかない……」
俺は静かに呟き、再び神殿で得た知識を思い返した。
守護と破壊、二つの力を均衡させることができれば、玉龍は本来の姿を取り戻すはずだ。
「紅院。お前にまだ協力する気があるなら、封印の儀式を再構築する術を探せ」
紅院は一瞬戸惑いながらも、深く頷いた。
「分かりました。一条殿、儀式の成功を共に目指しましょう」
俺は紅院を一瞥し、再び玉龍の彫像を見上げた。