3 古代の記録 - 書庫に眠る秘密
夜の宮廷は冷たい静寂に包まれていた。
朱塗りの柱が月光に照らされ、その長い影が石畳に伸びる。
俺は足音を忍ばせながら、宮廷の奥にある書庫へと向かっていた。
術式を乱す影、そして玉龍を覆う曇り――その原因を突き止めるためには、この書庫に眠る記録が鍵になるはずだ。
書庫の扉は、古びた木材がきしむ音を立てながら開かれた。
中には無数の巻物と古文書が並び、埃の匂いが鼻をつく。
俺は灯りを手に取り、その薄暗い空間を見渡した。
棚の一角には、「玉龍の秘術」と書かれた巻物が静かに収められている。
巻物を開くと、そこには玉龍の起源と、その役割についての詳細が記されていた。
玉龍は元々双子の彫像として造られ、一つは「守護の力」を司り、もう一つは「破壊の力」を宿している。
しかし、破壊の力を秘めたもう一体の彫像は遥か昔に隠され、今ではその所在すら知られていないとされていた。
「守護と破壊の双龍か……」
俺は巻物を読み進めながら、玉龍に起きている曇りの原因が、破壊の力と関係している可能性に思い至った。
「曇りは守護の力が失われつつある兆候かもしれない。そして、その原因は……」
その時、背後で微かな気配を感じた。
書庫の奥から低い唸り声が聞こえ、古文書の間から黒い影が滑り出してくる。
その姿は前夜の影とは異なり、明らかに実体を伴った魔物だった。
魔物は鋭い爪を振り上げ、俺に向かって飛びかかってきた。
俺は即座に霊刃を抜き、その一撃を受け止める。
「またか……結界の乱れが奴らを引き寄せているのか」
俺は低く呟きながら、魔物の動きを観察する。
その体は鋭利な鱗に覆われており、単純な攻撃では刃を通さない。
俺は
足元に転がっていた古文書の箱を蹴り上げ
魔物の注意を逸らすと同時に
素早くその側面へ回り込んだ
霊刃に力を込め
一気に魔物の首元を斬りつける
魔物が崩れ落ちると、その体から放たれていた黒い霧が周囲に漂い始めた。
その霧は再び結界の一部に入り込み、歪みを一層深めていくように見える。
「この霧……結界を侵食するために送り込まれたか」
俺は霧が消えるのを見届けながら、手にしていた巻物に目を戻した。
巻物には、双龍の術式についても詳しく記されていた。
双龍を統一することで守護と破壊の力が均衡を保ち、国全体を守る強力な結界が完成するという。
だが、その統一には複雑な儀式と、高度な術式の解読が必要とされていた。
「つまり、破壊の玉龍がどこかで目覚めつつある……それが曇りの原因か」
俺は巻物を慎重に巻き直し、他の古文書も確認しながらさらなる手がかりを探した。
書庫の奥には、さらに古い地図の一部が残されており、それが玉龍の隠されたもう一体の所在を示している可能性に気づく。
夜明けが近づく頃、俺は書庫を後にした。
得られた情報を基に、次の調査対象が決まった――失われた破壊の玉龍を探すことだ。
「双龍の均衡を取り戻さなければ」
俺は静かに呟き、月明かりが差し込む庭を抜けていった。