オカルト研究部へようこそ!
あら? あなた、こんなところでどうしたの? え? そうよ、I中学校、幻のオカルト研究部ってここの事よ。
んふふー、そんなに怯えた顔をしないで。あなた霊感があるのね。気づいちゃった? そう、実はわたし幽霊。このオカルト研究部に憑りついている幽霊のサエちゃんよ♪
あなたは時子ちゃんね。きれいな黒髪が真っ直ぐ腰まで伸びる。ぱっつんの前髪はちょっと長すぎね。せっかくの美人さんがもったいないぞ♥
ぶるぶる震えている時子ちゃん。うふん、そんなに怖がらなくていいのよ。何か用があるなら言ってみて。わたし幽霊だから大した事はできないけど、案内くらいならしてあげる♪
「わ、わわわわわたし! う、ううう占いを……!」
時子ちゃんは部室の扉に張ってある黄色い画用紙を指す。そこには「100%当たる占い! ミッコの部屋」と書いてある。
そっかー、それはそうよね。誰もオカルト研究部になんて用はないわよね。
「だー! この部活には幽霊部員しかおらんのか!」
あ、部屋の中から部長のユイちゃんの声がする。
「だからあたしが占い部屋にしてあげてるでしょー」
ミッコちゃんの声も聞こえるわね。そうなの。ここはオカルト研究部の部室兼ミッコちゃんの占い部屋なの。
どうぞ、時子ちゃん、中に入って。大丈夫、二人とも怖い子じゃないわ。
時子ちゃんは緊張してるのか、ノックも忘れていきなりドアを開ける。ユイちゃんもミッコちゃんもびっくりした顔をして、時子ちゃんを見つめている。
「わ、わわわわわたし! う、ううう占いを……!」
時子ちゃん、さっきとまったく同じ言葉を繰り返す。
「もしかして入部希望者!?」
部長のユイちゃんは分厚いレンズの丸メガネにおかっぱの女の子。暗い子に思われがちだけど、実はとってもユーモアのある子よ♪
「落ち着きなよ、ユイ。占いって言ってたでしょ。つまりはあたしのお客さんよ」
ミッコちゃんは髪の毛をツインテールにした小さな女の子。童顔だけど、気は強いのよ♪
わたしはふわふわと浮きながら、椅子に座った時子ちゃんの後ろに立つ。時子ちゃんがぞくっとしたように身震いする。あら? ちょっと冷気を感じさせちゃったかしら。でも安心して。わたしは時子ちゃんの味方だから。
時子ちゃんにわたしの気持ちが伝わったのか、時子ちゃんは意を決したように話し出す。
「わわわ、わたし、好きな人がいるんです」
「わかったわ! その人と付き合えるかどうかを知りたいのね!」
部長のユイちゃんが勇み足で口を挟む。
「い、いえ、違います」
「あら?」
がくっとずっこけたポーズをするユイちゃん。んふふ、かわいい。そういうオーバーアクションのユイちゃん、好きだぞ♥
「彼、サッカー部なんですけど、あ、彼女はいないはずです! と、とにかくサッカー部で、かっこよくて……」
うんうん、時子ちゃん、彼の事がとても好きなのね。
「わかったわ! 彼にいつ告白すればいいかを知りたいのね!」
んふふ、ユイちゃん。さっき言ったのとあんまり変わってないよ♪
「ち、違います……」
「あら?」
ほら、またずっこけポーズ。そこへ今まで黙っていたミッコちゃんが、ユイちゃんを制して鋭い視線を向ける。
「あなた、彼に何か渡したいのね」
「どどどど、どうしてわかったんですか!」
時子ちゃんは思わず立ち上がっちゃうくらいびっくりしたみたい。その様子にユイちゃんもまた大げさにびっくりしたポーズをしている。
時子ちゃんはそのままの勢いで一気に喋り出した。
「ももも、もうすぐ、彼のたた、誕生日なんです! わわわたし、彼にプレゼントを渡したくて! か、か、彼、今年の始業式の日に転んでひざを擦りむいたわたしにハンカチを差し出してくれて、そそそそれで……!」
ふふ、話の順序が逆になっているけど、要は彼にお礼がしたいって事ね。それを見破ったミッコちゃん。さすが100%当たる占い師を自称しているだけあるわね♪
ミッコちゃんはどや顔を抑えるようにしているようだけど、自分の推理が当たった事に満足げに鼻から息を吐きだす。ふふ、やっぱりミッコちゃんもかわいい♥
それからミッコちゃんは手の平で抱えるような丸い水晶を取り出して、本格的に占いを始めた。そして占いの結果はこうよ。
「彼の誕生日の日、彼は部活の帰り、階段で足を踏み外すわ。そこをあなたが助けるのよ。その時がプレゼントを渡すチャンス!」
今日が彼の誕生日。時子ちゃん、ユイちゃん、ミッコちゃんは、植え込みの陰から彼が足を踏み外す予定の階段を覗く。あ、わたしはその後ろにいるわ。だってわたしにもちゃんと役目があるもの。
わたしの手には呪いのワラ人形。オカルト研究部だからね。こんなのもあるのよ♪
中には時子ちゃんの意中の彼の髪の毛が入っているわ。え? どうやって髪の毛を入手したかですって? そんなの簡単よ。
わたしは幽霊だから彼には見えない。だから堂々と彼に近づいて、一本引き抜いてきたわ。姿が見えないのに、生きている彼に触る事ができるのかって? そこはわたしも長い幽霊生活。そのくらいの事はできるのよ♪
そしてどうするか? それはもちろん決まっているわ。彼がこの階段に差し掛かった時、このワラ人形の足に釘を差すのよ! そしたらあら不思議。彼は足に痛みを感じて、階段を踏み外すってわけ。
ミッコちゃんの占いは100%当たるのよ。わたしが当てさせてあげてるの。
あら? 時子ちゃん、真っ青な顔をして。もしかして怖くなっちゃった? ふふ、大丈夫よ、大きなケガには……
「あのう、姿が見えないまま触れるんなら、そんな人形使わなくても、直接足を引っかけるとかすればいいんじゃ……」
……
はうう! そ、その手があったわね! で、で、でもほら! わたし幽霊だから霊力があるのよ! これも効果ばっちりなんだから! ざ、残念そうな子を見るような目をしないで! ほら、彼が通りかかるわよ!
「さあ、サエ! 今よ!」
ユイちゃんとミッコちゃんが同時にわたしに合図を送る。……え? もちろんユイちゃんとミッコちゃんもわたしの事知ってるわよ。二人も霊感があるのかって?
あははあ、やーだ。時子ちゃん、気づいてなかったの?
最初にユイちゃんが言ってたでしょ。ここは幽霊部員しかいないって!
完
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