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私の飛蚊症闘病記  作者: リンゴ酢
1/1

飛蚊症の発症


それは突然のことだった。


「・・・あれ、いつもこんな見え方してたっけ?」



ある朝、起きて窓の外の景色を見たときに、ふと感じた違和感。

なんとなく変な気がして、でもずっと携帯見ていたからそれほど明瞭な違いがわからなくて。

でも、それが全ての始まりだった。


飛蚊症



これは私が飛蚊症と診断されてから過ごす実体験を記す物語である。






33歳の歳、私は俗に言う幸せな人生を送っていた。

2年前に結婚して、1年前子供を授かった。

妊娠中、切迫流産になったり、出産時分娩時間が長く、出血が多くて大変だったりもしたけど、

それは母となる皆が通る道。

無事に出産し、元気な男の子が産まれた。


子育ては大変。

なかなか寝ないし、泣いてばっかり。抱っこで手も腰も痛い。

夜も頻回に起きるから常に寝不足。


大変だけど子供は可愛くて。

周りに同じ時期に出産した友達が多かったから、

時々会ったりLINEで話したりしながら楽しく子育てしてた。

里帰り出産だったから、両親も一緒に面倒見てくれて、家事はお願いできて楽させてもらってた。

だんだん生活のリズムがついて、落ち着いてきたから生後1ヶ月半の時期に自宅へ戻った。


うちの子は背中スイッチ抜群。

抱っこで寝るけど、布団に置くとすぐに泣く。

ただチャイルドシートではよく寝てくれた。

だから日中は車でドライブ。

スーパーや市営公民館の立体駐車場を借りて寝ている間、車の中で一緒に過ごした。

その間、暇だから育児の情報を見たり、電子書籍で本を読んだりして過ごしていた。

私は昔から小説が好きで、この小説家になろうというサイトにも散々お世話になっていた。

書き手さんたちはすごい。

面白い作品がたくさんあり、時間を忘れて読み耽っていた。

それが私の日常。特に普段と変わったことをしている自覚もなかった。



生後2ヶ月半になる時、私の誕生日。

旦那が近場の温泉旅館を予約してくれた。

家族3人、初めての旅行でとても楽しめた。

でも、それが綺麗な視界で3人で過ごした最初で最後の思い出。




その後、私の日常は一変した。




最初はちょっと見え方が変だな、って思っただけだった。

子供が車で寝ている間、授乳中、時間さえあれば携帯を弄ってしまっていたから、

最近使いすぎてたかな、眼精疲労かな、って。

でも視界に少しポワポワ浮いているものが見えてきて、「あ、これ飛蚊症だ」と直感した。

明瞭に増えているわけじゃないから病気の可能性は低いけど、とりあえず眼科で診てもらおうって。

飛蚊症の検査は散瞳するから、車を使って受診出来ない。

自宅から車で1時間ほどにある実家に子供を預けて、眼科への送迎をお願いした。



眼科を受診し、診断されたこと

「後部硝子体剥離」

目の中の大半を占めているのは硝子体と呼ばれるゼリー状の卵の白身のような物質。

それが歳を取ると、だんだん収縮して縮んでくる。

そうすると目の中にパンパンに入っていたものが目の後側、網膜という膜から剥がれてくる。

加齢により、誰にでも起こりうることで病気ではない。

剥がれた硝子体や収縮した際に起こる硝子体の濁りが網膜に影を落とし、それが飛蚊症として見えるのだと。

普通は50・60代で頻発するものだが、近視の人は早く起こることがあるらしい。




病気じゃないから心配しなくていいよ。

しばらくすると慣れてくるから心配しないで。

とりあえず網膜剥離になるのが怖いから2週間にもう一回受診してね。




医師からそう言われて帰宅したが、その後徐々に増えていく飛蚊。

最初は違和感だけだったはずなのに、常に目の前を飛び回るようになった。

最初は3・4個見えているだけのはずだったのに、気づいたら視界全体に飛蚊があった。

少し目を動かすだけで、ザワザワと目の前を大量の影が飛び回る。

暗闇では気にならないけど、明るいところに出ると地獄。

太陽の下なんて、とてもじゃないけど気持ち悪くていられなくなった。

去年建てたマイホームは、少しでも明るく見えるようにと内装は白基調のレイアウト。

リビングにいるのも辛くなった。



飛蚊症について調べ始めた。

飛蚊症には病気に伴って起こる病的飛蚊症と、

生まれつきや加齢によって起こる生理的飛蚊症があることを知った。

病的飛蚊症は完全に治療の対象になるが、生理的飛蚊症に治療法はないということ。

正確に言えば、硝子体手術とレーザー治療があるが、保険適応外で自費になる。

レーザーは飛蚊を弾き飛ばし、細かく砕くだけ。

結局細かくなった破片は目の中に飛び散るから、大きい飛蚊がなくなるだけで細かい飛蚊は残る。

むしろ細かいのが飛び散って、逆に飛蚊が悪化したと感じる人も一定数いるらしい。


硝子体手術を行えば、ある程度の飛蚊は無くなるようだが、眼科の手術の中でも大きな手術でリスクを伴う。

失明や視力低下などのリスクがあるため、飛蚊症のために硝子体手術を行うのは現実的でなく

ある一部の医療機関でしか手術は行っていない。


普通の医療機関では、まず検討すらしてくれない。

結局、治療法はないということ。



そして、この後部硝子体剥離。現在の私の状態で終わりではないのだ。

最終的に硝子体が完全に眼球の裏から剥がれると、今より更に大きいワイスリングという

飛蚊が出現するという。



医師からは近視の人はなりやすいとしか言われなかった。

だから、調べるまで知らなかった真実。

眼精疲労により飛蚊症が出る。

そのため現代、10代・20代でも飛蚊症を発症する人が増えているらしい。

目を使いすぎると眼精疲労が起こることは知っていた。

近視になりやすくなることも。

私は幼稚園の頃から目が悪くて、小学生から眼鏡をかけていた。

中学からはコンタクトレンズを使用し、28歳の時にICLの手術を受けた。

ICL手術のカルテを見てみると、私はやや遠視気味のレンズが入っていたらしい。

遠視の状態で近くのものを見続けると眼精疲労が溜まりやすくなるため特に注意が必要ということ。

パソコン・スマホを見たときは、30分〜1時間に1回程度は遠くを見るなど目を休めるのが大切だということ。

調べてみて初めて知った。



そして、屈折度数−6Dを超える強度近視の人は将来、目の病気になるリスクが高いということ。

緑内障・加齢黄斑変性症・網脈絡膜萎縮・網膜剥離・白内障・・・・・

他のリスクも沢山あることを知り、怖くなった。

ICLのカルテを改めて見たら–12.5のレンズが入っていた。

強度近視の中でも最強度の近視だ。

目が悪くても補正できていたから問題ないと思っていた。

眼鏡屋コンタクトを使っている人は沢山いる。

だが、–6Dを超える強度近視の割合は日本人の6〜8%しかいないらしい。



今までの生活を省みて絶望した。

私は小説を読むのが好きで、時間があれば読んでいた。

時間を忘れて、2時間・3時間ぶっ続けで見たり、休みの日は1日中スマホを弄っていたこともあった。

人より強い近視だからこそ、より目の扱いには気をつけなければいけなかったのに。



年に1回は視力検査を受けて、視力は落ちていなかったから安心しきっていた。

目を酷使すると出る症状に、疲れ目・近視・ドライアイが挙がっている。

その中に飛蚊症も加えていて欲しかった。

眼科へ行ってもポスターはない。

テレビでも眼精疲労が飛蚊症に繋がるなんて放送していない。

自分で調べなければ気づけなかった。無知とは罪だ。





2週間後、病院を再診したが特に問題ないと言われた。

今のところ他の病気になっている様子も見受けられないと。





網膜剥離や他の病気はなくて安心はしたけど、この飛蚊が治らないという絶望。

早く慣れるように、気にしないようにって思っても

少し目を動かすだけでザワザワ目の前を動き回る影。

気にしないようになんて無理だよ。

だって見ようとしなくたって常に目の前に現れるんだもの。




一生この目で生きていかなければならないのだと思うと耐えられなかった。

だって、まだ33歳なのだ。

子供だって産まれたばかりで、これからやりたいこと、行きたいとこ沢山あったのに。

去年、マイホームを35年ローンで建てたばかりなのに。



どうしてこうなってしまったんだろう。

頭では分かっている。今までの生活習慣が悪かったこと。

そして私の近視も人よりずっと悪いから早く症状が出てもしょうがないかもしれないこと。

後から後悔したって遅い。

後部硝子体剥離になる原理を知ると、今更生活習慣を変えたって予防になるだけで

一度剥がれてしまった硝子体が元に戻らないことがわかってしまう。

悲しくて、悲しくて涙が止まらない。




加齢により誰にでも起こることだから病気じゃない。



確かにこの症状で失明することはないのだろう。

眼科の先生たちは失明するような病気になる患者を多く見ている。

だから、飛蚊症なんてちょっと見づらいだけで、物を見ようと思えば見えるんだから問題ないでしょって。

大体の人は慣れて普通に生活しているんだから。



確かに物を見ることはできる。

でも、私からすればこんなの障害者だ。

常に目の前を影が横切るから集中できない。

日中はサングラスをかけないといられない。

飛蚊症の説明で青空や白い壁を見たときに気になると書かれているが、そんなものじゃない。

夜の暗闇の中以外、どこにいても飛蚊は目の前を飛んでいる。

明るいところでは光に反射してピカピカ光る。少し光源が落ちると影がざわざわ動く。

心が休まる時間がない。


家の中が主な生活なら慣れることはできるかもしれない。

でも、集中して仕事をしていかなければならない人や

アウトドアが趣味の人・スポーツをする人にとっては慣れでどうにもならないことがある。


だって、そこに虫が飛んでいるのか、影なのかそれもわからないのだ。

離乳食を作っていても、白米の中に異物があるのかどうなのかも分からない。

運転している時、影に邪魔されて事故を起こしたらどうするの。


私は元々2人子供が欲しかった。

そして、コロナ禍で結婚式を挙げられなかったから、いつか挙げたいと夢見ていた。

でも、その夢も潰えそうだ。



このまま、仕事までできなくなったらどうしよう。

私は看護師。自分がこんな状態で他の人の命まで預かれるのだろうか。

仕事まで出来なくなったら、私だけではない。

私の家族の人生まで詰んでしまう。



失明しなければ病気じゃないの?

これほどまでに人の生活を脅かす症状なのに。

これほど精神的なダメージも強いのに。



助けて。誰か助けて。

しょうがないの。

安全な治療法がないんだから。

頭でわかっててもどうしようもない。

このままじゃ生活破綻する。

仕事復帰できなかったらさらに生活破綻する。

夫にも愛想尽かされる。

子供にも笑顔で接することができない。

思い描いていた、理想の母になることができない。

子供は親の感情に敏感だって聞く。

こんな鬱々した気持ちで接していて

子供の成長に悪影響があったらどうしよう。


負けない、負けないって思っているのに

飛蚊が見える度に気が滅入ってしまう。

見ないようにしていても常に飛蚊は目の前にいる。

朝起きたくない。

目を開けたくない。

外に出たくない。

カーテンを開けたくない。

明かりをつけたくない。


でも子供の成長に悪いから。

歯を食いしばって耐えている。



ねえ、これほどの症状が病気じゃないってなに?

眼科の先生は、飛蚊のことをシミやソバカスに例えるけど

こんなに日常生活に影響与えるものをシミ・ソバカスと一緒にするなんてとても納得できない。




それほどまでに手術は危険なものなのだろうか?

病気であれば、手術できるのに。



答えの出ない問いを毎日繰り返す。

どうにもならない日常に絶望しながら。













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