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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

高額傭兵依頼の裏側

作者: ファイアス

初投稿です。

この作品は一話完結の内容になります。

 シュタイン、ヒガームの二国間の間に位置する商業都市トイバミヤ

 冒険者の街としても有名で、初心者の冒険者から熟練の冒険者まで幅広く滞在している。

 活気ある街で二国間の中間に位置していることから商業も盛んであり、両国の騎士や要人もこのトイバミヤに訪れることがある。

 そんなトイバミヤの傭兵ギルドで一人の若い男がとある依頼を請け負っていた。


「おっ、フールライドじゃないか 

 今日はお前個人宛の依頼が来てるぞ」

「えっ、まじか

 冒険者ギルドと比べてこっちのギルドは人も報酬も良くて助かってるけど

 まさかこんなに早く個人指名してもらえるなんて思わなかったよ」


 トイバミヤでは冒険者ギルドと傭兵ギルドが別々に存在している。

 冒険者ギルドはモンスターの討伐及びモンスターの皮や角の収集、または木材や石材の収集といった仕事を請け負うギルドである。

 対して傭兵ギルドは行商人の護衛が主であり、指名手配犯の拘束、暗殺の仕事が舞い込むこともある。


「おお、そいつは良かったな

 ただこの依頼、報酬は良いんだがちと怪しい」

「えっ、何でだよマスター?」

「依頼人が人づてで発注してきてきたんだ、発注者本人はここに一度も訪れたことがねぇ

 そしてもう一つは依頼人が待ち合わせ場所を指定しているだけで具体的な内容が書かれちゃいねぇ」


 傭兵ギルドでは基本的に依頼人がギルドに来て依頼を発注し、冒険者を中心とした傭兵となる者が受注し次第ギルド内で予定を合わせて行動を共にするという流れが鉄板だ。

 傭兵ギルドという場所が報酬に見合わない依頼や発注内容と違う依頼があったときのトラブルを最小限に抑えたり言葉巧みに請け負わせない為の安全な場所として機能しているためだ。


「依頼人はヴァイス…さん?

 ああ、思い出した。前にタッパさんと一緒にいた行商人の人だ」

「面識はあるのか、でもやめておいたほうがいいぞ」

「大丈夫ですって!

 タッパさんから依頼の報酬はしっかり貰ったのに、ヴァイスさんは「これは俺からの報酬だ」って報酬上乗せしてくれるような人ですよ」

「そうかい、一応忠告はしたからな」


 マスターは人として信頼される人間かどうかよりも傭兵ギルドとしての安全システムに乗っ取って仕事をしている。

 マニュアル対応だ、フールライドにはマスターの判断がそのようにしか映らない。

 ギルド内にはマスターとのやりとりを聞いてた他の冒険者の一人があいつは長くもたないなと嘲笑していたが、フールライドは良質な依頼主からの個人指名に対する妬みだと嘲笑する声も優越感に変えて傭兵ギルドの外へ出た。


 街を出たフールライドはヒガーム方面の街道に沿い、集合場所である洞窟へと足を進める。

 そんな中、鎧を身に着けた騎士達が警戒した表情で巡回する姿があった。

 何かあったのか気になりつつも、わざわざ一介の冒険者が気にすることではない、今はヴァイスさんと合流して依頼を請け負うことが優先だと判断し集合場所へと向かった。


「やぁ、フールライドくん、先日は助かったよ。

 真面目に対応してくれる君のことだから、他の行商仲間にも紹介しようと思って個人指定したけれど、ここに来てくれたってことは今回の依頼を受けてくれるってことでいいのかな」

「ありがとうございます、依頼の内容は書かれてなかったので確認させてもらっていいですか?」

「ああ、ヘンゲラーの討伐だ」


 純粋な魔物なら冒険者ギルドに出される依頼だ。

 しかし、この依頼が傭兵ギルドを通すのは人を魔物と認識して人が人を殺しかねない危険性があるからだ。

 そう、ヘンゲラーは人に化けて人を襲う特別指定モンスターとして特別手配されている。

 フールライドに少しながら不安がよぎる。

 名前と簡単な特徴しか知らない魔物、そしてこのあたりで見かけない魔物を自分で正しく対処できるのか?


「ヘンゲラーってこのあたりには居ないモンスターですよね?」

「ああ、普段ならな」

「えっ…?」

「奴らは最近どういうわけかヒガームの騎士に化けて人々を襲撃しているんだ。

 私のキャラバンも奴に襲われて馬が負傷してしまった」

「そうだったんですか…

 ここに来る前に険しい表情で警戒していた騎士を見かけましたけど

 あの騎士さんはヘンゲラーを警戒してたってことだったんでしょうかね?」

「ああ、恐らくな…

 奴らはあまり単独で行動をしないんだ。

 だから君が見た騎士はヘンゲラーではないだろう」


 少しの沈黙の後、重い腰を上げるかのようにヴァイスはフールライドに告げる。


「タッパのことなんだが…」

「タッパさんがどうかしたんですか?」

「あいつがギルドに依頼を発注した翌日、つまり今朝ヘンゲラーに襲われて死んじまったんだ」

「う、嘘ですよね!?」

「私だってまだ心の整理が付いてないんだ。

 あいつは取引相手ってだけじゃなくて個人的な交友も長いもんでな…」


 ヘンゲラーの討伐と聞かされたときはほとんど知らない敵、しかも群れて行動すると聞いて依頼を断ろうかと考えたフールライドだったが、タッパの訃報はもはや依頼など関係無くヘンゲラー討滅すべしと思うに十分過ぎた。

 何せタッパは護送依頼の相場を大きく越える報酬を与えてくれた上に、余った装備を分け与え、仕事の評価もきっちりとしてくれる。

 そんな人だからだ。

 そんな人が殺されたのだ。

 それにこの依頼を断ればタッパ同様に良くしてくれたヴァイスも次から依頼してくれないだろう。

 だから何も迷う必要など無かった。


「この依頼、必ず達成してみます。亡くなったタッパさんの為にも」

「ああ、ありがとうフールライドくん

 ぜひともタッパの仇を討ってくれ」


 ヴァイスさんの情報によればヘンゲラーは視界の悪い夜に出没することが多く、ヘンゲラーの親玉は馬車に乗って夜の街道を通り冒険者や行商人を襲っているという。

 夜までヴァイスの指示の元、洞窟で待機し深夜11:30

 ついにその時がきた。

 ヴァイスの情報通りヒガームの騎士の姿をした者達が馬車を率いて街道を横断している姿がそこにあった。

 ヘンゲラーを見つけたときにヴァイスに言われたアドバイスはこうだ。


「ヘンゲラーはフールライドくんの腕と装備ならば簡単に倒せる相手だ。

 ただ親玉との戦いには苦戦を強いられるだろうし、取り巻きに動きを妨害されては勝てる戦いも勝てなくなってしまう。

 だからヘンゲラーの馬車を見つけたら闇討ちをして取り巻きの一、二匹を先に始末したほうがいい」


 岩陰に隠れヘンゲラー一行との距離を測る

 そして…


「今だっ!タッパさんを返せぇ!」

「ガハッ…」


 フールライドの闇討ちは功を成し馬車の最後尾を歩いていた騎士の姿をした者は一撃で仕留められた。


「何奴!?」

「賊だっ!賊が襲ってきた!姫様を守れ!」


 姫に賊…

 ヘンゲラーは言葉だけでなく、これほど上手にロールプレイをこなすのかと驚きつつ、次の取り巻きに刃を向けて応戦する。

 だが、次の瞬間フールライドは刃を向けた相手とは別の取り巻きによって弾き飛ばされ地面に伏してしまった。

 そして立ち上がろうとして顔を上げたそのとき既に剣先を顔に向けられ立ち上がることすら叶わなかった。


「ヘンゲラーはこんなに強いのか…」

「ヘンゲラーだと?

 こいつは何を言ってるんだ?」

「賊の妄言など気にするな、それよりも今は賊に刺されたシヌーノの手当を」

「ああ、分かった」


 この人達は本当にヘンゲラーなのか?

 強さ、統率性、言葉の流暢さ、など全てが本物の人間にしか思えない。

 僕は襲撃する相手を間違えてしまったのか?

 それに…


「ローニーレ、お前はこの賊をヒガームに連れていき事情聴取を行え

 不意を付かねばろくに戦えぬような賊だ、お前一人で充分だろう」

「分かりました、隊長!」


 戦いに敗れたフールライドをその場で殺すことなく、ヒガームに連行するよう指示を出したのだ。

 そして、その言葉通り、ヒガームの牢獄へと連行され事情聴取が始まった。


「なんでだよ、どうなってんだよ…」


 ヘンゲラーに敵わず戦いに敗れ死ぬ、それならまだ良かったのかもしれない。

 だが、ヘンゲラーだと思って襲撃した相手は本物のヒガームの騎士であるというのだ。

 連行された道のり、景色はいずれも知っている場所であり、この場所はヘンゲラーの拠点などではなくヒガームの牢獄だと疑いようがない。


「そういえばあの時姫がどうこうって言ってたけどもしかして…」

「目は覚めてるようだな」


 昨夜フールライドを牢へと連行をしたローニーレの顔を見ると

 これは悪夢などではない、今まさに起きてる現実の出来事なんだと思考の逃避すらできなくなった。


「さて、お前は昨夜何で俺達を襲ってきた?」

「ヘンゲラーの討伐依頼を受けて、その親玉がいる集団の特徴と合致したんです」

「そういえばお前はあの時もヘンゲラーがどうとか言ってたな」

「はい、ヘンゲラーが行商人達を襲ってて、仲間の一人が殺されたんだって…」

「呆れたな…」

「えっ…」

「この辺に住んでたらヘンゲラーなんていねぇのは知ってんだろ

 そもそもヘンゲラーが人の言葉を喋ると思ってんのか?」

「え…?」


 ヘンゲラーは人の言葉を喋らない。

 ただそれだけで衝撃だった。

 ヴァイスからヘンゲラーが喋るかどうかの確認をしていなかったが

 ヘンゲラーが特別指定モンスターとして特別手配されていることを知っていたからこそ、そんな簡単に区別することができるはずがないという先入観に囚われていた。


「お前はそれすら知らずに賊に騙されてシヌーノを殺したんだよ」


 殺した…

 フールライドがあの夜に闇討ちして仕留めたヘンゲラー

 そう思っていたヒガームの騎士は応急手当の甲斐なく殉職していた。


「いいか、お前の処刑は三日後に行われる」

「ま、待ってください!僕は…」

「黙れ!言い訳など通用すると思っているのか!」

「っ!?」

「姫の暗殺を狙ったテロ行為に加えて、警護していた騎士を殺害

 この所業、釈放される余地などどこにもない」


 騙されていたかどうかなど関係無い。

 法に基づき、その行為に対して刑罰が下される。

 どれだけ理不尽を訴えたところで意味はない。

 それはこの騎士の判断でなくとも同じだろう。


「紙とペンを用意してやるから言い残したいことがあればそこに全てを記せ

 処刑の場で言い残せる言葉の量などたかが知れてる」


 恨み言を言えば怒鳴られる、供述しなければ怒鳴られる

 そんな状況下では囚人の正しい供述だけを引き出すことができず

 誤った情報を元に冤罪を生み出しかねない。

 丁寧、親切に対応しても正確な情報を引き出せるとは限らない。

 だから恨み言も、供述も、言い残したいことも全て手記として好きに書かせる。

 そして手記に書かれた思考、価値観、情報と供述内容を擦り合わせ

 慎重に捜査を進めていくのがヒガームの方針なのである。


「あの、一つ質問いいですか?」

「なんだ?」

「ヘンゲラーって親玉はあの時の夜みたいに群れの中で馬車に乗って警護されてますか?」

「お前はそんなデタラメな情報を与えられて信じたのか」

「はい…」

「いいか、複雑な道具、ましてや他の動物を使役するような存在だったら

 人の言葉が喋れずとも魔物ではなく魔族として区分される。

 ヘンゲラーはせいぜい人間に擬態する程度で行動習性は他の野生の魔物と大差はない」

「そう、ですか…」


 人の言葉を喋るかどうかだけではヴァイスと情報共有していなかったため確信できなかったが、今の話を聞いてヴァイスから意図的に嘘の情報を与えられてヒガームの騎士を襲わせたんだと確信に変わった。

 フールライドが捕らえられ処刑されようとしている原因を作ったのは間違いなくヴァイスだ。


(タッパさんが亡くなったっていうのも作り話なのかな?

 それにタッパさんはどっちだったんだろう?)


 ヴァイスは明確に悪意を以て嘘の情報を与えたことは間違いない。

 しかし、タッパはヴァイスと親交が深かったようだが共に行動していた行商仲間でしかない。

 結果的にヴァイスと繋ぎ合わせられてしまっただけで彼は今でも生きていたら優しいままのタッパなんだろうか?

 疑念を抱きながらしばらく時間が過ぎると、誰が善人で誰が悪人かなんてどうでもよくなっていた。

 どうせ処刑されるんだから…


「悪いのはこんな世の中だ…」


 ペンを取り、手記を書くその手は人として声を上げる最後の足掻きのようだった。


 それから三日後の午後

 公開処刑の日がやってきた。

 牢獄から出てきたフールライドは既にやつれており、全てを諦めて死を待つだけのようだった。

 強い日差しが処刑台を照らしており、処刑を待たずして暑さで倒れて死ぬのではないかと思うほどに…


「何か言い残すことはあるか?」

「僕は生まれ変わっても多分同じ過ちを犯すと思う

 だって今の世の中は全く優しくない…」


 そう言い残すとフールライドは首を跳ねられ処刑された。

「騙されてやったんだから自分が悪くない」という恨み言

 周囲にいた騎士達の誰もがそう解釈した。


 処刑が終わり、フールライドの残した手記が王の元へと手渡される。


「陛下、これが姫の暗殺を目論んだ者の手記になります」

「ふむ」


 手記に目を通す王

 その表情は未来を憂い険しい表情となる。


「優しくない世の中、か

 首謀者を捕らえても、このように捨て駒にされる若き冒険者は後を絶たぬのだろうな」

「陛下、それは一体…」

「お前達も読んでみるといい」


 以下、これがフールライドの残した手記である。


【僕はヒガームの姫様を暗殺しようなんて思ってない。ただタッパさんを殺したヘンゲラーを…

 仇を討とうとしただけなんだ。

 魔物にしては姫とか賊とか言っててロールプレイが上手過ぎて違和感はあった。

 でもその時にはもう最初の一人を刺していたから気づいたところで遅かったと思う。


 罪悪感はあるか?って言われたら分からない。

 巻き込まれただけの自分には責任なんて感じないし、理不尽を感じている。

 ただ大罪になることはしてしまったという事実だけは理解している。


 巻き込まれた原因はヴァイスっていう人の依頼を受けたせいだ。

 でもあのとき、傭兵ギルドのマスターは依頼者名が代理で内容が記してない依頼は危険だって言ってたからそれをただのマニュアル対応だと思ってヴァイスさんを信頼した僕も悪かったのかな…

 ただこの依頼を代わりに出した人はタッパさんだっていうし、タッパさんの依頼を受けたときに既に二度会ってるから大変なことに巻き込まれる可能性なんて微塵もないって思ってた。


 タッパさんに関して

 ヘンゲラー討伐の依頼を受けることになるより前にタッパさんからキャラバンの護送の依頼を2回受けて報酬を貰っている。

 報酬額は安いどころかすごい良い。もちろん僕のような駆け出し冒険者にとっては、だけど

 おまけに売れ残った商品の武器や防具をタダでくれるし、簡単な依頼にも関わらず真面目にやってくれてありがとうってすごい褒めてくれた。


 冒険者ギルドの依頼では簡単な依頼なんだからできて当然、こなせなかったらできもしない癖に引き受けるなって言われるし報酬だって普通に仕事してたほうが稼ぎになる。

 冒険者は真面目に仕事をしたがらずにいつまでも大人になれないガキがやるもんだっていう目で見られる。

 特に大した実績の無い僕のような駆け出しは尚更だ。

 だから褒めてくれるとすごい嬉しいって思うし、こんな冷たい優しくない世の中じゃ僕は生まれ変わっても

 また優しい言葉に溺れて同じ過ちを繰り返すんだと思う


 哀れな捨て駒より…】

もしもファンタジー世界で闇バイトが横行していたら…?ということをテーマに執筆させていただきました。

騙す側が信頼を得る為に行う手口、騙される側がどうして信じてしまうのか?ということを重点に置いて描写しましたがいかがでしたでしょうか?

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