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【完結】生贄の時を心待ちにしていた少女は、魔術師団長に溺愛される  作者: 未知香


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第27話 講義

「まさか、そんな……」


 渡された資料を手に、ミシェラは絶望的な気持ちになっていた。講師になったシマラという男は、ミシェラの反応を探る様に眼をすがめている。


 今日は初めての講習の日だった。


 ミシェラは朝食を食べると、塔の中の一室で案内してくれたマウリゼにシマラを紹介された。


 紫の髪の毛を腰まで伸ばしたその男は、ハウリーと同じくらいの年に思えた。冷静そうでいて表情の読めない瞳が印象的だ。

 マウリゼは案内した後、訓練に戻るとすぐに退出している。


 部屋にはミシェラとシマラの二人だ。


「文字は読めるようでほっとしました。そこから学んでいては絶望的ですから。今まで魔術を行使したことがないのであれば、基礎の基礎から学んだ方がいいですね。あなたはきっと魔力が多い。安定しないまま魔術の実践を行うのはとても危険です」

「文字は、大丈夫です。ただ、魔術の……術式が」


 ミシェラが混乱したまま何とか答えると、シマラはしたり顔で頷いた。


「そうですね。魔術を使ったことがなく触れたことがなければ難解でしょう。術式が上手く展開されなければ当然魔術は安定しません。まずはそこを覚える事です」


 教師然とした諭すようなシマラの声は、魔法陣に気をとられているミシェラの耳を滑っていってしまう。


「外を見てください。ここからだと魔術師団の練習が見えるでしょう」


 呆然としたまま、言われるままに窓の外を覗く。

 魔術師団らしきローブを着た人たちが、実戦形式の訓練を行っているところだった。

 一人に対して、三人ずつの魔術師が向かっていく。


「えっ。あれじゃ……」


 多勢に無勢だ。そう思ったのに、三人の魔術師が放つ魔術を、一人の魔術師は素早く魔法陣を展開し防いだ。


 三人の動きも決して悪くはない。むしろすごくいい。

 それなのに、軽くいなすような動きだけで三人を難なくさばいていく。


 次々と変わる魔法陣に、相手が怯んでいるのが分かる。一つ一つは小さい魔術なのに、効果的に三人をかく乱していく。魔術を放つタイミングで、小さい魔術が入るので集中が保てずに霧散している。


 大きな魔術を放てば、さっと魔術で防がれてる。まったく通らない攻撃に、どう動いていいか混乱してるのが伝わってくる。


 動きがどんどん悪くなる相手に対し、まったく疲れを見せる様子もなく、ただ一人で立っている。


 そんな彼に目を離せなくなる。なんてきれいなんだろう。


 展開の速さや全体を見る目は、当然のように努力の下地がある。そして圧倒的な自信。

 彼の手によって遠目にも大きな魔法陣が展開され、それが相手に放たれた瞬間、大きな火柱が立った。その炎にあてられ、三人はあっという間に膝をつき倒れた。


「凄いわ……」


 ミシェラが思わずつぶやくと、いつの間にかシマラが隣に立っていた。


「ハウリー師団長は、多量の魔力に驕ることなく、着実に力をつけてきました。魔術の技術に関しても突出しています。それはもともとの才能はもちろんの事、毎日の訓練によるものです」


 諭すようにゆっくりと言われ、これが講師からミシェラへのメッセージなのだと気が付いた。


 ハウリーと同じように、魔力が多いとされているミシェラ。

 しかし、それだけでは魔術師になれないし、認められることはないと。


 あれが、ハウリー。


 師団長としての間違いない実力。

 あんなきれいな戦い方をするハウリーに、近づけるのだろうか。


 ミシェラは息を吐いて、シマラに頭を下げた。


「よろしくお願いいたします、シマラ先生。学べることに感謝しています。目標は高いですが、私もハウリー様のようになりたいです」


 そこでやっとシマラは薄く微笑んだ。


「最初は誰でも初心者です。そこからどうなるかは、本人次第です」


 ミシェラとシマラの授業は毎日行われることとなっている。ハウリーの部下で、魔術の原理に関して研究も行っているらしい。


 シマラはまったく訓練に参加できない一か月になりそうで申し訳なくなるが、教えると同時に自分も研究を進めるので問題ないということだった。

 もともと実践ではなく、魔道具の作成や研究を主としている文官らしい。


 特に迷惑ではない、というシマラの言葉に嘘はなさそうでほっとする。


「試験は実際に訓練所で行います。訓練所では魔術の威力は半減されますので、安心してください。試験官の見ている前で魔法陣を展開し、魔術を行使します。魔法陣の出来は、見ればわかるものです。きちんと意味を理解し、正確に展開してください」

「それは……、魔法陣が教科書通り展開される、という事でしょうか」

「その通りです。多少オリジナルが入っていても魔術の行使はされますし、それが得意なものも居ます。しかし、それは教科書通りの正しい魔法陣を覚えてからの話になります。試験では正確さも重要となります」

「やっぱり、そうですよね……」


 教科書通りの正しい魔法陣を覚えなければいけない。

 シマラの言葉を頭の中で、繰り返す。


「使用する魔術に関しては本人に任されますが、当然ながら難易度が高いものが求められます。……ミシェラ様は術式を安定させることを、まず、第一にしていきましょう。術式が安定しなければ、自分が危なくなります。当然、周りにいる味方にも」

「はい。……早く覚えていきたいです」

「そうしましょう。まずは簡単な魔術から。魔術で明かりを作ります。この本の、この術式です。意味は……」


 シマラが用意してくれた資料を指さしながら、一つずつ魔法陣の意味を解説してくれている。それを真剣に聞いて、必死で頭に入れていく。


 説明されることの意味が分かるのに、理解できない。焦りから、汗がにじむのを感じる。


「大丈夫ですね。さぁ、魔法陣を展開しましょう。魔術の灯り自体は全く危険がないので、安心してください」

「……わかりました」


 必死で本に書かれた魔法陣を見ながら、魔力を紡いでいく。なんとか形になったように見えたものの、魔力を入れた途端ぱちんと明るくなってすぐにはじけた。


 まったく魔法陣が安定せずに、魔術を保っていられなかった。


「最初ですから、しかたありません。練習していきましょう」

「はい……」


 シマラが気を使うように優しく言ってくれたけれど、ミシェラはすっかり落ち込んで下を見つめた。


 その日、魔術の灯りが綺麗に灯ることはなかった。

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