2–1 俺の想い
翌週の昼下がり。前回と同じように1−A横の空き教室に、俺と笹川さんはいた。体育の後ということもあって、部屋には彼女がつけたであろう制汗スプレーの香りが微かに漂っている。
「進捗は?」
無造作に部屋の端に寄せられた長机に腰掛けて、彼女は俺に問うた。
「なしです」
「そっかぁ」
進捗などあろうはずがない。あったらホラーかほらである。上手くねえな。
「まあ、何か情報が入ってき次第、私に報告するように」
「うん。それじゃ」
そう言って部屋から出ようとしたその時。
「ねえ、染谷君はさ、私がこの差出人と付き合う、って言ったらどうする?」
「え?」
彼女はそんなことを言った。
一瞬ドキッとしたが、彼女の言う『差出人』は俺のことでない、俺以外の誰かなのだろう。そう思うと、なぜか少し胸がひりつくような感覚がした。
「…笹川さんが好きなようにすればいいと思うよ」
そんな感覚を無理に押さえつけて絞り出した答えは、あまりに無責任なものだった。
「ふーん。そっかあ」
彼女は少し冷たく呟いた。こういう反応をされるのも当然だ。もっといい返答をすれば良かった。
しかし、彼女は次に微笑んだ。
「染谷君らしい答えだね」
「そ、それはどうも?」
褒めとも蔑みとも取れる結論に、少し戸惑う。なんとなくこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「そ、それじゃ」
「うん。また教室で」
俺はドアを開け、手を振った。