1–1 ほんの出来心
「なんか私、告白されたみたいなんだよね…」
隣の席に座る女子が一枚の紙を持って、恥ずかしそうに俺に対して告げた。
「そ、そうなんだ」
「…」
「…」
もしこの瞬間叫ぶことを許されていたなら、俺は間違いなく、どうしてこうなったと叫んでいたことだろう。
事件は三日前の金曜日に遡る。俺は好奇心から、
『好きです!付き合ってください!』
という内容の手紙を、友達の戸山龍一の机の引き出しに入れておいた。あとでからかうつもりだった。
しかし、そんな友達の机に入れたはずの手紙を恥ずかしそうに持って、俺に報告しているのは、悪友ではなく、隣の席に座る笹川愁乃その人である。
どうやら俺は、とんでもないことをやらかしちまったらしい。
つまり。簡潔に言うならば。即ち。包み隠さず言うのならば。
——入れる机間違えたおわた。
そして今に至るわけである。
「いやー…嬉しいなぁ。私のことをそんなふうに思ってくれる人がいるなんて」
そんな俺のことなんて気にもかけず、彼女はその手紙を見つめて喜びを噛み締めている。今この瞬間に謝って、全てを自白できたらどれほど良かったでしょう。
しかし、自白してしまえば、彼女はきっと悲しみに暮れるだろう。だって今こんなに喜んでんじゃん。多分めっちゃ怒るし泣く。なんだったら縁を切られるまである。
それは嫌だ、と思い、なんとか最適解と思われる言葉を引っ張り出した。
「ソウナンダ。イヤーヨカッタジャン」
「…なんで棒読み?」
ジト目を向けられてしまった。
「でも、名前が書いてなくてさ…ねえ、染谷くんは気にならないの?この手紙の差出人」
気になるも何もぼくが犯人ですどうもありがとうございました。
「…別に。イタズラかなんかじゃないの」
実際にそうですどうもありがとうございまし((ry
しかしそれを気取られないように素っ気なく言うと、彼女は口を尖らせた。
「…何それ。つまんないの」
「…ごめん」
「いや、別に謝ることの程じゃ」
自身の悪態についての謝罪だと勘違いして、彼女は慌てて態度を変えた。実際は愚かな男子高校生の小さな懺悔なのだが。