第三話 『黒狼』
俺はスラム街に着くと探知魔法を使い怪しい場所を探した。
すると、この先にある酒場に一つの拠点がある事がわかった。
古びた建物でありながら内装は意外としっかりしていた。
俺はカウンターに腰掛けてマスターに声をかける。
「マスター、『黒狼』って組織は知ってるか?」
「知らんな」
さすがは裏組織で生きてきただけのことはある。
組織の名前を出しても眉一つ動かさなかった。
「ここに拠点があるはずなんだが…」
そう呟くと後ろから声をかけられた。
「その話気になりますね。是非ともお聞かせ願いたい」
「少し前に『黒狼』の噂を聞いてスラム街に来たんだが、この酒場が怪しいと踏んだ、それだけだ」
「なるほど、貴方は勘が鋭いようですね、それで『黒狼』に何のようですか?」
「俺は表の世界では堂々と生きられなくてな、でも稼ぎがないと生活できない。だから『黒狼』に入らないかと思ってな」
「まぁ、いいでしょう。私は『梟』と言います、貴方にはこの方を暗殺してもらいます」
「暗殺か…いいだろう」
「報酬は後でお渡しします、期限は一ヶ月です」
「わかった」
俺はこの依頼を『黒狼』への加入試験だと捉えた。
この依頼は今夜行うことにした。
暗殺対象はこの国の貴族だった。
俺は『梟』から貴族の場所を教えてもらい、家に忍び込んだ。
転移が使えるので俺にはどんなセキュリティも無意味だった。
難なく侵入し、対象を探す。
魔力感知を使っているが、知り合いでもなんでもない為、確証は持てない。
この時俺は慎重になりすぎていたのかもしれない。
「貴様!何者だ!」
俺は即座に転移で後ろに回り、心臓を掴みとった。
「ぐっ…」
騒ぎを聞きつけた騎士達が集まって来ていた。
「やはり難しいな…仕方ない全員殺すか…」
俺は屋敷全体に遮音結界を張り周囲にばれないようにした。
そこからは一方的な蹂躙が始まった。
――***――
「早かったですね」
「あぁ、早めに済ませときたかったからな」
「そうですか、じゃ報酬はこれになります」
袋満杯に入れられた金貨を渡された。
数を調べると金貨100枚だった。
「そうだ、今日からあなたは『烏』です。次からそう名乗ってください」
「ちょっと待て、コードネームみたいなのはみんな持ってるのか?」
「いえ、五人の幹部だけですよ」
「じゃあ俺は…」
「はい、あなたは暗殺を司る幹部『烏』に選ばれました」
「どういうことだ?」
「先代の『烏』はかなり前に死んでいます。代替わりすべきなんですが、いい人材がいなくてですね」
「だから俺なのか」
「ええ、それにあの戦闘能力の高さは驚きました」
「見てたのかよ」
「はい、素晴らしいものでしたよ」
俺は少し話した後、酒場を後にし宿を借りに行った。
先の依頼で結構な額を稼いだのでそれなりにいい宿を借りることができた。
そして俺は食堂である噂を聞いた。
「なぁ、また魔物が活発化してきてるんだって?」
「あぁ、そうらしいな」
「またあれか?星王か?」
「さぁな、仮に星王だとしたらもう二度と止められんよ」
初めて聞くワードが出てきて理解するのに時間がかかったが要するに魔物が活発化している原因がある一定以上の進化を遂げた魔物がなると言われる王種が何かしら起こしていると言うことらしい。
しかもどうやら星王と言うのはその中でも最強らしい。
現時点で王種以上の魔物は発見されていないので実質世界最強の生物にもなる。
そんな奴が今騒ぎを起こしているとすればもうどうしようもないだろう。
だが、その情報は俺にとってどうでもいい事だった。
正直そこらへんにいる魔物がいくら集まろうが原初の悪魔であるアランに敵わないのだ。
ただ、油断大敵と言う言葉があるように頭の隅には置いておくようにした。
それから数日後、魔物が大量に押し寄せてきた。