zeke
フリーゲーム用のシナリオメモです。
逆輸入ともいえます。これの18禁シナリオを書きたいので、まず基本の物語を書きたいと思います。
セレン、という、お世辞にも少女とは呼べない蛮勇、もとい、勇敢な青年がいた。彼女は交友関係も広かったものだから、敵国にもなり得る、とある国の若頭とも仲がよかった。その若頭は歳の頃もセレンと並ぶ少女。名をシオンという。
ともかくこの魔界という世界は国同士のいざこざが絶えない。20年以上も前に魔界大戦とも呼べる規模の戦争を終結させておきながらも。ゆえに、王族の親交だけではどうにもならない時もままあった。これも、そんなよくある話がこじれたところから始まった。
どちらも歴史のある国で、親の代にも当然親交があったのだが、生憎のところ先の大戦では共に敵国同士。その戦がもとでセレンは父も母も亡くしたのだが、そこは蛮勇。持ち前の明るさと過激さで名を上げ直し、国を立て直した。彼女は本当に、頑張ったのだ。
いつの時代も出る杭は打たれる。先の戦争で、セレンに同じくシオンも母を亡くした。シオンは大層悲しんだが、それだけだった。それだけで済まなかったのは、シオンの父だった。最愛の妻を亡くしてしまったシオンの父、つまりはとある国の王は気が触れてしまったのだ。シオンも武力としては一国の主の器に近かったが、現王には及ばない。より好戦的となり進軍を推し進めるその先に、友人であるセレンの国が含まれていたとしても打つ手はない。
やがて誰がヤられた、仇討ちだとやりとりが続き、小さな火種は大きくなっていく。もう、誰にも止められない。そう、それが、第三者の描いた絵図であることに気が付けなければ。
先に気がついたのはセレンだった。彼女は、両親の命日に欠かさず墓参りをしていたのだが、そこを狙われた。とはいえ、セレンは一国の主である大聖クラス。並の使い手では、いくら不意をつこうと焼け石に水。そんな慢心が、彼女の命取りとなってしまった。
「あ“っ・・・!?」
「我が名は駆天大将ライン!駆天総大将シオンの名において、鏡天大聖セレンの首、貰い受ける!」
一本の矢。これがセレンの喉に突き刺さった。しかしセレンは封印術使い。本来なら致命傷となる一撃を受けたところで問題にならない。視界に入ったなら直ぐに動きを封じ、この怪我も封印術の応用で固定して…そんな思考ばかりが先走り、彼女は異変に気がつくのに遅れた。魔力を練ることができない。いや、そもそもだ。自身の周りには物理、魔法に対する障壁魔法が曼荼羅のように掛かっているはずで、いくら優れた使い手といえどこの身まで矢が届くなど…。混乱が混乱を呼び、最適な行動が取れなかったセレンは、彼女自身の渡した転移符によって現れた、この物語の主人公である少女、キリュウへ真実を伝えることが出来ずに果てた。
セレンは駆天一族の次期当主であるシオンと親交が深かったから、ライン、という者を知っていた。白い獅子の亜人で、普段はシオンの付き人をしているのだが、問題は矢を穿った者だ。茶色。茶色い獅子の姿でラインと名乗ったのであれば、それはもう駆天ですらないかもしれない。ラインは誇り高く、間違っても配下の手柄を掻き集めるような輩ではないから、ラインを名乗って獲物を仕留めたのなら、それは濡れ衣を着せるために他ならない。わざわざシオンの名を出した辺りも非常にかぐわしい。
キリュウの登場と同時に、唯一の肉親である妹やその付き人が、偽ラインの掛け声に釣られて押し寄せた。セレンは、両親との対話を誰にも邪魔されたくなかったから、普段から彼らを遠ざけていたのだ。それも仇となった。連れてこないならまだしも、近くに待機させていたのが間違いだったのだ。茶色い獅子の主張を耳にしてしまっている。駆天大将がセレンを討ち取ったと妹が解釈すれば、その後に何が起こるかなど想像に難くない。
「セレン殿ーっ!!」
キリュウが現れたのは、セレンの喉に矢が突き刺さるほんの数瞬前。セレンの妹、リンカと目が合ったのを確認し、茶色い獅子とその子分達はその場から姿を消した。セレンの妹の太刀は斬撃を飛ばせる。彼らが転移魔法での離脱を怠っていたなら、その刃も届いたろうに。妹、リンカは、キリュウの手元で倒れている姉に駆け寄り声をかけた。傍では、キリュウの仲間である白魔道士が懸命に治療を施しているが、その矢には伝説級の毒、否、呪いがかけられており、白魔道士の手にもおえないものだった。身体の自由も利かず、あと数秒後には絶命するであろう事を悟ったセレンは、キリュウと、自身の妹に目を配り、満面の笑顔でその短い生涯に幕を閉じた。
妹は蛮行を繰り返す姉とは違い、生真面目で温厚な性格だったが、この姉の死を境に覚醒してしまった。狂ってしまった、というべきか。最早何人たりとも彼女は止められない。主人公であるキリュウは、シオンと交流があった直後だったこともあり事実確認をと主張したが
「キリュウーーー!!!」
彼女を守ると約束した青年と、その仲間達の抵抗も虚しく、キリュウはリンカの手によって惨殺されてしまった。
キリュウは悔いた。それは殺されてしまったことではない。セレンもシオンも、本当に仲のいい幼馴染だと知っていたからだ。そんな2人が、何者かの手によって殺され、戦争に発展するなど、到底許せない。それになにより…悲しかった。
どうにかしてそんな未来を避ける手立てはなかったのか。死してなおキリュウは、涙を流していた。