エピローグ
スイ城内では、具体的な農業推進計画案を詰めていた。
将軍は「門外漢だから、休ませてくれ」と席を外す。
手段を選ばず大洋を超えた将軍も疲れが見えていた。
彼らは詰めた結果を、知らせる約束をさせられる。
案内された先に、ウラシイ王子のあの侍従が待ち構えていた。
ウドゥンで風呂へ無理矢理入れさせられた苦い記憶が蘇る。
「すまない。とても疲れてるから自分一人で入ってもいいかな?
大丈夫だよ、風呂を壊したりしないさ」
珍しく彼の目が泳いでいる。
「大変お疲れのようですので、今日は「フーチバー」をご用意しました。
お風呂の後にコレで身体の筋を温めると、だいぶ調子がよくなります」
侍従はニコニコと彼の提案を退け、遠出に出た彼のメンテナンスを開始した。
◇
「君たち、名は何という?」
遠出で汚れた服を脱がされ、洗い場に座って背中にお湯をかけられた
将軍は半ば怯え気味に問う。
たすきを掛け、わしゃわしゃと泡を立てている侍従の1人は、
ニッコリほほ笑んで答える。
「私たちのことは、どうか名前でお呼びくださいますな。私たちは殿下の影。
「寄り添う者」でございます。侍従とだけで。
御髪から洗いますね。沁みませんか?」
そっと髪を洗う。泡が汚れを吸い出し、少し洗うとお湯で流していく。
2回ほど洗われてしまったが、だいぶ汚れがスッキリしたようだった。
身体のほうは以前のように手縫いでゴシゴシとは行かなかったが、
小柄な彼らには広い背中を一生懸命洗われると、いたたまれない気持ちになる。
今回は、以前より汚れが酷くなかったのだろう、
背中以外を自分の手で洗うことができた。
「髪を、短くしたいんだが。切っては貰えないか?」
「いけません。御髪は伸ばして髷を結わねばなりません。
切るなんて以ての外です」
「今でも髪が長くて、鬱陶しいのに?」
「士族の髪には魔力が篭ります。
それに髷を結わずにいるなんて、美しくもありません」
侍従たちは困惑するが、一人がウラシイ王子へ問い合わせに向かう。
「前例がありませんが、切っても良いとありました。
どの様に整えたらよろしいでしょうか?」
「長すぎない坊主頭で」
彼の注文は、シンプルだった。
侍従はカミソリのみで作業を進める。
髪を望み通りに整えた将軍は嬉しそうに礼をいう。
「コレでだいぶ楽になる。生えた髪で悩むなんてナンセンスだ」
その後、最初に侍従から勧められた「蒸したフーチバー」を
団子状にして手ぬぐいで包んでいる物を
横たえた身体の筋に沿って置いていく。
「肩が酷いですね」と大きめの物を置いていくが、
じんわりとした暖かさと、よもぎ特有の香りで癒されているようだ。
うとうととかなり心地よさげにじっとしている。
仕上げにサッとお湯に浸かる。
風呂を出た頃には、だいぶ身体が軽くなっていた。驚いていると、
「殿下がお疲れの際によく使われるお風呂です。
コレで一晩休めば完璧に疲れが消えますから」
彼らは休息を促す。将軍は飲食は消化に良いスープを供され、床に付く。
朝まで目が覚めずに、しっかり休息を取ることができた。
◇
翌朝の明け方、ウラシイ王子が様子を見に休憩所に来ると、
千代金丸の鞘を、虚ろな瞳で黙々と拭きあげる将軍の姿があった。
「侍従に拭かせるなんて酷いわ。私たちのお手入れをするのは、ご主人様のお仕事よ。
痛い。もっと柔肌を撫ぜるように、優しく拭いてくださる?」
ウラシイ王子はあまりの光景に目を逸らし、笑いを堪えている。
手入れが終わると、彼は王子に疲れ切った眼差しで呟いた。
「殿下。昨日のお風呂は、本当にご馳走さま。
でも、この刀の手入れが先だったかもな……」
愉快な彼らをよそに、
静かに朝日が昇っていった。
【次のお話は……】
こんな日があっても良い☆
【「旅の場所」沖縄県 那覇市 首里城跡】
【後書き】
多分こんな感じ。
殿下 ( ´ ▽ ` )……(普通は王女の女性的な魅力にとりつかれるんだが、
喜劇みたいになってんぞ?やっぱ規格外であるねw)www
◇
五年くらい前に整体の後で、よもぎ蒸しをした思い出から書いてみました。
めっちゃ気持ち良かったです☆
エピローグ つかの間の休息 了
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