第10話
夕飯を済ませて宿屋に戻ると入り口に人だかりが出来ていた。
不思議だったので店員に尋ねてみる。
「お客様のお乗物があまりにも風変わりなので、
野次馬が発生しているんですが……
どうやらお乗物の一番近くにいらっしゃる方がサムレ、
いわゆるお役人様なので声を掛けづらいんですね。
普通は入り口なので簡単に人払いできるのですが、
申し訳ありません」と謝られる。
向かった先の人だかりは持ち主が帰ってきたかと散っていったが、
お役人様は2人に気付くと手招きしてお尋ねになった。
山口さんよりも年配の人物に見える。
頭にはフードをかぶり、
無精髭で泥だらけな風采で引き締まった顔付きに鋭い眼光を放つ。
体格は小柄なようで、叡弘と頭1つぐらいしか変わらないが、
印象としては大きく見えるおじさんだ。
「ワシはナーファの南から来たギマ村のマイチと申す。
この乗り物はそなたのものか?
珍しいので、できれば布を取った状態で見てみたいんだがの……」
手元を見ると、楽しげに紙へ筆でスケッチしている辺り、
能力を持った人だとうかがえる。2人は簡単な自己紹介をして、
話を聞く。
「ここから北にあるノグ二村という所に用があっての、
いつもは村内とナーファにしか行かないんだが、
たまの遠出は珍しいものが見れて楽しいの」
「お前さんは魔法使いではなさそうだが、
もし見習いならナーファの役所へ届出をしなければならん。
優秀な人材確保は常に課題であるでの。
もし仕事が無いなら、届出の後にワシ達の村へ来なさると良い。
魔法使いの鍛冶職人もおるぞ? どうだ?」
マイチはやや興奮気味にこちらを見て言う。
すっかり彼に気圧された叡弘は承諾し、
宿屋の店員と一緒にバイクにかけた布を外してアイテムボックスに収める。
「また布を被せますので、見終わったら声をかけてください。
あと、触れないでくださいね」 と念を押す。
◇
手早くスケッチを確認して満足したらしい。
やっとバイクの方から目を離してくれ、彼らの方を落ち着いて見ていた。
山口さんには驚かず、病人を労わるように声をかける。
「村に同じような病人がいたんでな。
専門の魔法使いに診せて治した報告があったの」
叡弘はそれを聞いて内心ホッとした。
山口さんを見てみると、嬉しそうに涙ぐむ。
しかしすぐに表情を変え、彼に問う。
「ここまで来た村や街の名前が以前住んでいた場所に似ている事と、
仕事仲間でギマを「儀間」と書く友人がいました。
ここからある疑問が出てくるのです。
お尋ねしてもよろしいですか?」
様子を見ていたのだろう、宿屋の店員がマイチへ
「宿の手続はお済みでいらしゃいますか? 」と尋ねる。
彼はその店員に手短に頼むと、
店員は喜んで、
「立派なお役人様をご歓迎致します」と礼をして去って行き、
はいはいとマイチは店員を追い払った後、こちらへ振り向く。
「役人の特権を行使している所を聞かれるのは
いつでも恥ずかしいが、今夜は仕方ないの。
立ち話は疲れたからワシの部屋で聞くかの」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、2人はその後へ続いた。
【次のお話は……】
朗らかに笑う彼の正体は……
【「旅の場所」沖縄県 宜野湾市 普天間】
第10話 宿屋での邂逅 (であい) 了
作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018