第9話
アイテムボックスの作成は、意外な程時間を必要としなかった。
「こんな収納がほしい」と魔力を手に込めて限りなく
具現化する作業だったのだ。
この手の便利アイテムは叡弘もすぐに想像でき
回数を増やす事で、より良い道具を作成できた。
アイテムボックスの外見はリュックサック状のもので、
小型のスポーツバックにも思える。
チャック式で入れるものの大きさに合わせて開き、
大きな物も入れることができる優れモノだ。
試しに着替えをカバンの中へ入れてみる。
もちろん荷物の重さは全く感じられない。便利。
係員は「街の方々は1日仕事で作るんですけどね」と呆れる。
「すごいね、なんでだろうね」
驚きを隠せない様子だったのでステータスを見せて
やっと納得してくれたが、彼女からやんわりと注意される。
「個人のステータスを勝手に見たりするのは
マナー違反になりますので、お気をつけてくださいね。
それから、あまり簡単に他人へ見せるのもおススメできません」とのことだ。
残念な事に山口さんはアイテムボックスを作れなかった。
「ご病気が治ってから、もう一度お試しくださいね」
と彼への返答があってか、
当分は荷物持ちになるなと叡弘は思わず苦笑いしてしまう。
生活魔法でまた困ったら立ち寄る約束をして、
洗濯場から風呂屋の受付に戻り荷物を受け取った。
宿屋に戻ると、せっかくなのでアイテムボックスに収納してみる。
……結構入る。
バイクに収めていた荷物はもちろん、
荷物入れの上に縛ってあった薬草の残りまで
綺麗に収まってまだ余裕がある。
作り上げたリュックに、小さなポケットがあったので開けてみると
中にメモ帳が入っていた。
中に入っている荷物の一覧表が五十音順で書き出され、
出し入れと記述が連動している。
魔法とイメージの力は偉大だと、彼は1人舌を巻く。
バイクの荷物を空にした後、
宿屋の店員に布と水の入った桶をもらい手入れをした。
「拭いてもらうのは気持ちがいい」とバイクも喜んでくれている。
拭いた後、様子を見かねた店員に「埃除けの布を被せましょうか?」
と尋ねられた。
宿の入り口の土間は人通りが多いので、確かに埃除けが要る……
布は宿屋から貰い受けることができたので、店員と一緒に被せていく。
薄い布で中身が微妙に見えるが、後2日はこのままの予定だ。
◇
早々と荷物の整理とバイクのメンテナンスが終わって、
小さい山口さんを肩に乗せて出かける。
市場で日用品を揃えて屋台の料理を楽しむ事にした。
バイクから案内を聞くと宿屋から徒歩で5分くらい歩いたところに市場に着く。
野菜や服屋、雑貨屋を回って旅に必要な荷物を買い揃える。
野宿の予定はないので洗濯場の係員に書いてもらった地図を参考にしながら、
多めに一週間分の着替えや、すり傷用の包帯と軟膏、
歯磨き用の小さなブラシと歯磨き粉代わりの塩を買った。
念のため護身用の剣も買ってアイテムボックスに詰め込む。
とりあえずの買い物はこれで充分になった。
本来の大人の状態ならスキンケア用のカミソリなどが必要だが、
外見が幼くなってしまった今の彼と病人の山口さんには不要だ。
山口さんが気にしているバイク用のヘルメットに
最適な被り物は見つからず、あの洗濯場の係員に
誂えられるか聞くことにする。
道中、日用品を選んでいるとやはり山口さんへ
視線が集まっているのを感じるが、絡んで来る者はいない。
本人はすっかり食べ物の匂いに夢中で視線は気にせず行動している。
……病気だと割り切ったのもあるのだろうか?
「あっちは豚の丸焼きがグリルされているし、
こっちのワンタンみたいなスープは鶏ガラの香りがして美味そう。
そっちは魚の串焼きか……」
彼はよだれを垂らさないように悶えている。
叡弘が「山口さん買い物も終わったし、自分もお腹すいてきたよ。
なんか食べたいけど、どれがいいと思う?」と尋ねると、
彼は待ってました!と言わんばかりに輝いた表情で一軒の食堂を指差している。
豚の丸焼きのお店で、腸詰めや焼き豚を材料にした料理にいくつか注文を出す。
……この後山口さんがやはり無茶苦茶飲食して、
したたか怒られるというお約束があったのだが……
彼の食欲を尻目にして叡弘は自分の分を注文する。
屋台おススメの腸詰めと細切れにした焼き豚炒飯を食べ、
木製のコップに入った舶来品の蜂蜜酒をガブリと飲む。
店員に聞くと子供には薄めた酒をジュース代わりに勧め、
アルコール分はかなり低く口当たりはまろやかなシロモノだ。
山口さんが沢山食べた分と合わせて銅貨1枚なので、
彼らはお財布に優しい食事ができ、満足することができた。
食事が終わって、腹ごなしに再び市場の散策に戻る。
あっという間に時間は過ぎていく。
歩いていると遠目に市場の中心にあるダンジョンの入り口が見え、
中に棲息する化け物を狩って生活する冒険者たちが
獲物や素材を運び出して賑わいを見せている。
彼らは今日の上がりを換金する為にバンショへ向かう。
様子を見つめる叡弘は自分も冒険者で
生計を立てられるだろうかと
考え込みながら、その場所を後にした。
市場の賑わいが辺りを包み、気持ちのいい風が通り抜ける。
【次のお話は……】
市場で買い物や食事を楽しむ主人公たち。
ちゃっかり楽しんでいたら、
謎のおっさんが宿屋で待っていた……
【「旅の場所」沖縄県 宜野湾市 普天間】
第9話 「市場」でお買い物 了
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