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二話 出会いは偶然

 今日のわたしは、北の森とは違う、もっと小さな森にいた。

 魔力がある場所だが、大魔術師たちが守る場所に比べればその量が少なく場所も狭いため、一般の魔術師たちが交代で調査を行っている。普段ならそれで問題は何もないが、強い魔物が入り込んだとの情報があり、わたしが他の魔術師たちと協力して討伐に向かうことになった。

 とはいっても、今はわたし一人だ。大変に情けないことだが、あまり親しくない人といると人見知りを発揮してしまい、本来の力を振るえない。想定外のことがあっても一人でいれば顔に出ようが叫ぼうがばれない、などの理由から、同行予定だった数人の魔術師に二手に分かれようと提案し、体よく単独行動をとることに成功した。

 別行動をとっている魔術師たちも決して弱くはないし、いざという時はどうとでもできる。それが魔法だ。

 森の中は薄く霧がかかっていて、少し先が見えづらい。昼だが陰鬱な雰囲気を漂わせていて、できるなら長居したくない。

 わたしの方で運よく魔物を見つけて、さっさと退治できればいいのだけれど。


 かさり――


「えっ?」


 自分のものではない、落ち葉を踏む音に、わたしは小さく声を漏らした。

 立ち止まり、周りをゆっくりと見渡した。自分の呼吸の音しか聞こえない、静かな世界。


 かさ、かさ――


 やはり聞こえる。霧の向こうから、何かがこちらへにじり寄ってきている。

 わたしは身の丈ほどもある魔法杖の柄を両手でしっかり握りしめた。鼓動が早くなっていくのを感じる。ゆっくり息をするようにしながら、周囲に漂う魔力に意識を集中した。魔物の中にある魔力は、「質」が違う。それさえ探り当てれば――


「やっ!」


 それを感じ取った方角に、わたしは魔力の衝撃波を飛ばした。続いて風を巻き起こし、霧を払う。

 わたしの予想は見事当たっていた。そこにいたのは、大人三人が余裕で乗れそうな、白い毛皮をもつ獅子のような魔物だった。衝撃波を食らい怯んでいる隙に、鋭い爪の生えた足に向かい、わたしは杖を向けた。

 魔物の四肢が、みるみるうちに凍り付く。必死のあがきも空しくその場を動けない魔物の頭めがけて、魔法で作った氷の槍を叩き込んだ。

 こと切れた魔物の体がどうと地面に倒れた。一応、わたしの大魔術師の名も伊達ではない。

 これで任務完了だ。ほっと胸を撫でおろそうとしたその時だった。


 がさっ――


「ひっ!?」


 不意に聞こえた更なる音に、わたしは小さく悲鳴を上げた。魔物の数は一匹だけと聞いている。別行動していた魔術師たちがここまで来たのだろうか? それならもっと大勢の足音がするはずだ。それに、音の主の魔力がつかめない。

 再び魔法杖をぎゅっと握って構えたわたしの目の前に、人影がひとつ、ぼうっと浮かび上がった。


「っ!」


 叫びそうになるのをこらえる中で現れたのは、ひとりの男性だった。

 鞘から抜かれた剣を右手に持ったその人は、杖を持って臨戦態勢になっているわたしを見て驚いたような顔をした。

 年は多分わたしより少し上くらいで、緩く波打つ、茶色がかった金髪をしていた。わたしは背丈が結構ある方だが、彼はそれよりも更に長身で、筋骨隆々とまではいかないが、なよなよした印象も受けない。

 深緑色のジャケット、黒いトラウザーズ、革の靴という出で立ちで、それなりに裕福な家の人だということが見て分かる。


「驚かせて申し訳ない。安心してくれ。あなたの敵ではない」


 彼はそう言って、剣を鞘におさめた。それを見てわたしも手の力を少し緩めたが、一体誰だろう?

 ゆっくりとこちらにやって来た男性は、わたしの近くにあった魔物の死骸を見て、目を見開いた。


「これは……あなたが倒したのか?」

「ええ、これでもわたし、魔術師ですから」


 先ほどまで心臓がばくばくと跳ねまわっていたことは隠し、あくまでも平静を装ってわたしは言った。


「魔術師……そうか」


 もしかしたら彼は、わたしたち魔術師を手伝おうとして来てくれた、ここら一帯の領地を治める貴族の関係者かもしれない。しかし誰も伴わず剣だけで立ち向かっていくのは無謀だ。弱い魔物なら何とかできても、これほど大きな魔物なら間違いなく敵わない。


「……お言葉ですけれど、剣だけで魔物の相手をするのはかなり危険です。こういったことは、魔術師にお任せください」


 それでは、と言って去ろうとしたわたしを、男性は呼び止めた。


「待ってくれ、勇敢な魔術師の方。せめて森の出口まで送らせてもらえないだろうか」


 ……気持ちは嬉しいけれど、会ったばかりの人と二人で歩くというのは人見知りにはなかなか辛い。


「お気遣いありがとう。でも結構です。別の場所に人を待たせておりますから」


 冷たくはせず、でも毅然と告げ、彼に背を向けてわたしは早足で歩き去った。

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