7〈アメリア〉
本日2話目の投稿です!
「はあ、せっかく図書室で勉学に励もうとしてもここがとっても匂いがきつくて集中できないわ。下賤な血はこうも臭うのね。それとも男性に言いよるために香水を振りすぎなのかしら。早く匂いの元がなくなってほしいわ」
本当に暇だなユリエラ嬢。なんなんだよ図書室で喋り出すなよ。読書する気も勉強する気ないなら帰ればいいのに。
そこまで考えて立ち上がり図書室を出た。私だって嫌味を考えつくのに淑女風に変換できないからなにも言えない。
でも変換機能がなくて良かったとも思う。その力があれば私は下賤でふしだらな上に毒舌だとまで言われるだろう。
外に出て自分の匂いを思わず嗅いでしまう。
「臭くないもん。香水なんて持ってないもん」
淑女らしくない言葉遣いもだれも聞いてなかったらいいだろう。あのテストの件から嫌味はもちろん持ち物の紛失。リボンを破かれたり教科書を読めなくされたりするようになった。教科書はケント先生が新しいものと交換してくれる。それがまた怒りを買うらしい。嫌がらせはとどまることをしらない。
「君、アメリア嬢だね悲しそうな顔をしてどうしたの?僕でよかったら話を聞くけど」
違うクラスの男子生徒が話しかけてくれた。同年代から優しくされることなんてなかったから嬉しいなありがたいな話を聞いてもらいたいな…。
そこまで考えて私の思考は一瞬過去へ飛んだ。
ミーちゃんの話には続きがあった。ミーちゃんが来なくなった後優しくしてくれた少年がいた。果物屋のマイ君だ。
マイ君は言葉は乱暴だったけどやさしくて時々私とおやつを分け合ってくれて話をしてくれた。多分心配してくれていたんだろう。私はマイ君が来る日を楽しみにしていた。そうした毎日の中で怒ったミーちゃんがメルちゃん達を連れて私の元に来たのだ。
「仲間外れにしたからってマイ君をとるなんて最低!本当にメルちゃんのいう通りだったあんたなんかと友達にならなきゃ良かった!」
私は本当に動揺した。どうしよう。それだけで頭がいっぱいだった。
「私がマイ君好きだってわかってて仲良くしたんでしょう!そうやって私に仕返ししたんでしょう!」
「違うよ!仕返しなんて!ミーちゃんもマイ君も大切な友達だから…」
「あんたとなんか友達じゃない!大っ嫌い!!」
そう言って大泣きするミーちゃん。メルちゃんはそこまで見てミーちゃんの肩を優しく抱いた。
「可哀想なミー。あなたのせいよ。いい?もう一切マイの奴と話しちゃダメよ。これ以上ミーを傷つけたお母様に言ってあんたの母親の仕事クビにさせてあんた達を家からも追い出してやる!行きましょミー。立ち向かって偉かったわね」
ミーちゃんは涙でいっぱいの目で私を睨んでメルちゃん達と帰って言った。
ミーちゃんに嫌われた悲しさでいっぱいだった。そしてあんなに楽しみだったマイ君が来る日がずっとこなきゃいいのにって思った。
あの日、マイ君にもう話さないし話しかけないでと言った日マイ君の傷ついた顔を忘れない。
「急になんなんだよ!ばーか!」
優しくしてくれたマイ君も大好きだったミーちゃんも傷つけて両方失った。どうしていれば良かったなんて全然わからなかった。
「アメリア嬢?聞こえてる?どうしたの急にぼーっとして」
「あ、申し訳ございません」
「いやいいんだ。色々心配で話しかけたんだからよかったら話聞くからこちらにおいで」
ミーちゃんとマイ君と最後に会ったことは思い出さないようにしていた。楽しかった思い出をそのままにしておきたかった。でも思い出してしまった。同じ失敗を繰り返さないように。
そう、女同士が揉めている時に男性が関わると余計人間関係がこじれて大変になるんです!
そう言ってしまいたかったがただの八つ当たりだと気づいて自嘲してしまう。
「いえ、話すことなんて何もないんです。お気遣いありがとうございました。私はこれで失礼します」
彼が本当に私を心配してくれているのならこんな失礼な態度はないだろう。でもこれでいい。彼ともっと親しくなって彼まで傷つけたり面倒をかけたりするよりはよっぽどいい気がした。
感情が表に出るから心配してくれる人がいる。なら心配されないように、感情を悟らせないように私は私を守ろう。優しい人が傷つくことがないように。
これからはもう安全だった図書館でも自習できることはないだろう。寮の自室は相部屋の子がペンの音がうるさいというのでもう寝に帰るだけだ。どこか良い場所はないかと学園の奥へ奥へといくと雑木林の中にぼろぼろの東屋を見つけた。テーブルと椅子もある。木々に囲まれて中々人に見つかることもないだろう。私はそこで勉強をはじめた。そうして私は放課後はこの東屋で過ごすようになる。私に嫌がらせする人たちも気づいてないみたいでそこは私の大切な場所になった。
×××
その日は特別講師が来る日だった。この学校では2週間に一度学校外から特別講師として様々な分野の方が授業をしてくれる。今日は薬学研究所からディル先生とその助手としてオルセード兄様がいらした。ディル先生は兄様の少し年上かな?という位で冒険者っていわれても納得するようなかっこいい人だった
手紙で既に知っていた私にオルセード兄様が小さく目配せしあった。これから度々授業をすることになるらしい。
ディル先生と兄様の授業はとても面白かった。いつもの兄様の話は半分もわからなかったが、この授業では初心者にもわかりやすく噛み砕いて教えてもらえるので、自分がすごく理解できている気になって、もっともっと知りたいそんな欲求が膨らむ。オルセード兄様が研究者ということもあって私にとって薬学は身近だった。
授業が終わりディル先生と兄様のお話をもっと聞きにいこうとしたらディル先生とオルセード兄様がクラスの令嬢達に囲まれた。聞き耳をたてると薬学のことは話してない。それなら私が話を聞きたいと思うけど怖くて声を出すことができなかった。今日は諦めて手紙に書こう。そう決めた瞬間。
「アメリア、聞きたいことがあるならこっちにおいで。ディルは忙しいからね。こんなチャンスは中々ないよ」
そう言って令嬢達の輪の中に入れてくれる。ニコニコする兄様をみて兄様は私が嫌われてることは勿論、兄様が令嬢に人気なことも気づいてないんだろうな。なんて他人事みたいに思った。
兄様の優しさを無下にする選択はないと、腹を決めてディル先生に授業で分からなかったことを聞き出した。
ディル先生は丁寧に答えてくれて次の授業までの宿題までくれた。楽しかった。だから少し浮かれてたんだと思う。
放課後ひとりで東屋に向かおうと学園の階段を降りようとした時、後ろから押されてそのまま私はとどまることができず階段下へと真っ逆さまに落ちていった。
一瞬のことだった。ぶつかる衝撃に耐えようと無意識に目をつぶったがその衝撃はなく誰かに抱きとめられた。
その人は私を抱きしめたまま後ろへと倒れ込んだ。
「殿下!!」
その声にゆっくりと目を開けるとそこには黒髪で紫の瞳の男性が痛みに顔を歪めていた。
紫の瞳。それは王家の証である。この方は先輩であるウィルフレッド殿下だ。
私の人生は終わった。命を救っていただいたが為に命を奪われる。これはもうだめだ。
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