5〈ウィル〉
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こちらは今日2度目の投稿です。ご確認ください。
我が国の陛下が隣国の王女と結婚をして4年がたっても子が生まれなかった。そこで異例だが側室が迎えられた。それが私の母だ。母は私が生まれて息子の誕生を喜ぶとともに王子を産むという役目を果たせて本当に安心したらしい。
大切に育てられた2歳の頃、王妃の妊娠がわかり、国はそれはお祭り騒ぎだったと聞く。
なので私に物心がついた頃には王妃が産んだエドワードが王位を継承するものであり、私は王にはならず国とエドワードを支えるために生きていくことはもう決まっていた。
そこで私がひねくれず、こうした事実をすんなりと受け止められるのは、母の優しさやあたたかさ、そして陛下と王妃がエドワードが産まれても母を大切にし、私も息子として王子として大切に育ててくれたからだ。
だから幼い私に「本来ならば王になれるはずなのに」「あなたこそ王にふさわしい」などと甘言を吐く者たちのことは陛下に告げ口した。王は悪い顔をして笑っていた。生かさず殺さずのその対応は子供ながらに恐ろしいものだった。
そしてエドワードの存在だ。3歳下のエドワードは既に優秀で機知に富み、尚且つ腹黒くて王になるのにぴったりだと思う。周囲に向ける可愛い笑顔とはちがう悪い笑顔を見た時陛下にそっくりだと笑ってしまった。
陛下とエドは常に笑顔でいることは簡単だと言うが私には難しかった。あなたは不器用な上に仏頂面ねと王妃に言われることもあるが誰にでも同じ顔をむけ対応の差を気づかせないと言う意味では同じだろうとずっと笑顔ではいられないが冷静であることを心がけていた。
私に婚約者ができたのはそのころだ。赤い髪が印象的なひとつ年下の少女だった。
母と王と王妃、私にとって尊敬するとても大切な存在だが、私自身公爵家に婿入りし、ただ一人を妻とすることができることはとても嬉しいことだった。国の為、国民の為に働くのは当然のことだが夫としての自分は一人の相手に渡したい。
彼女がその相手だと思うと緊張して「イリア嬢、これからよろしく頼む」確かこんな風に言ったんだった。
みるみる青ざめて倒れていく彼女に駆け寄り抱きとめた。気を失った彼女に慌てふためく私はこう言う時こそ冷静になるべきだと諭され運ばれていく彼女を見送るしかなかった。
その後後遺症などもなく彼女の無事を知らされて本当に心からホッとした。
しかしそれから彼女は、いつでも婚約は解消していい。他に好きな人ができたらすぐ伝えてほしいと度々私に告げるようになった。私がこれから彼女を裏切ることは決まったような言い方に、私は君との仲を深めたいという精一杯の想いを否定されるたびに傷つかないと言ったら嘘になる。いつからそんな浮気者の烙印を押されたのか見当がつかない。
初めはこの婚約が気に入らないものが彼女にデタラメを吹き込んだのかと思い調べてみたが、どうやらそうではないらしい。
彼女に否定しても切なげに頷くだけ。どうしてそう思うのか問うても悲しげに首を振るだけだ。
友人となった同い年のカーティスとキーンに彼女のことを相談すると
カーティスは「女は浮気に厳しいんだよ。俺の母親も絶対浮気したら許さないっていってるさ。あんな親父モテるわけでもないだろうに」
キーンは「僕にはわかりかねますね。そのような問題は」などとそれぞれの意見をくれた。
カーティスは騎士団長の息子であり黒髪黒目の体も器もでかい男でガサツとも言うが信念を持って彼自身騎士を目指しその縁で親交ができた。
キーンは伯爵家の息子で非常に優秀なことから私の友人としてそばにおかれた。可愛らしいと言われることが嫌いらしいがサラサラとした茶髪と大きな青の瞳が城の女性達に大人気である。
カーティスもキーンも大人がいない時は歯に衣着せぬ物言いで偽ることが得意でない自分と気があった。
そんな二人を持ってしもイリス嬢の謎はわからない。私を嫌いなのかわからないが距離を置きたがっていることは肌で感じている。
ただイリス嬢は城での勉強も熱心に励んでいると聞く。私との結婚自体は受け入れてくれているのだと思う。それだけが救いだった。
×××
イリス嬢との関係が更に悪化してしまったのは私が学園で騎士科に入り表立って騎士を目指すようになってからだ。
王家の生まれだが公爵家へ婿入りし臣下となる私が騎士団へと入ることは意味があると信じている。
また王都はすっかり平和であるが辺境の地ではエスト国が度々攻め入り騎士たちを疲弊させようと長きにわたって戦っている。その辺境の北の土地ノイス国は虎視眈々と共倒れを狙っている。これがあまり王都で話題にならないのは我が辺境の騎士団が強く王都にまでその悲鳴が届かぬことにあるが陛下について来いと視察に連れて行かれた時、不安定であった私の足がしっかり地に着いた。
騎士団に入りこの長きにわたる戦いに終止符を打ち、不可侵条約を結ぶこと。そして戦いは望まぬが自衛のための辺境の地の騎士団の力を現状維持させること。
警備団を増やし国全体を守ること。この国では貴族の学園には戦争があった頃の名残で騎士科なるものがあるが、平民が騎士になるのは難しい。しっかり教育し警備団として国全体に派遣していく。その流れを作ること。
自分という中途半端な存在だがらこそできることがある。王家の者は守られるべきというが陛下も王妃もその知力や権力をもって沢山のものを守っている。私も違うやり方で守るだけだ。
戦う以上否定的な意見があるのは当然だと思う。
私だって平和で争いがないのが一番だとわかっている。
でもイリス嬢には理解してほしかった。いや私の思いを聞いてほしい。聞いた上での意見を聞きたかった。
だが彼女は私に勉学を勧め騎士になることを否定する。
私的な手紙に他国との戦いのことなど王子として書けるわけもなく。
「忙しいので」「この後約束があって」「立場をわきまえる」これが彼女の口癖になった。
立ち去る彼女を見送る時はいつだって胸が苦しい。
騎士になる決意もその為の訓練もやめることも減らすこともしない。
ただ彼女にこれ以上失望されないようにと勉学にも力をいれる。
「これまでも、まあまあやってるつもりだったんだがなあ」
苦く笑って、誰が聞いてるわけでもないのに言い訳をして、
彼女に対して冷めていくような気持ちには気づかないふりをした。
もうすぐ一つ下彼女は学園に入学する。それが2人にとっていい転機になるように。
次回から舞台が学園になります。引き続き読んでいただけたら幸いです!