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27〈アメリア〉

この胸にずっと抱かれていたい。好きな人と抱きしめ合うのがこんなに素晴らしいものなんて知らなかった。

この幸せをずっと味わっていたいけど、どうして今までこうしてこなかったのか。その疑問が頭をよぎってその意味を考えたらさっきまでの一片の曇りもない幸せには戻れない気持ちになってしまった。思い出したくなかったなあ。言いたくないなあ。


「殿下」

「ん?」


殿下から距離をとろうとすると背にあった手はするりと離れた。寂しい思いになってしまうのは仕方ない。


「私が殿下のことを想う気持ちに嘘偽りはございません。ですが…ですが私は男爵家の人間で母親は平民です。私はそのことを大切に思っていますが、殿下と結婚をすることは周りは許さないでしょう」


言ってしまった。言わなかったらよかったかも知れない。殿下が伝えてくれた想いだけを信じていればよかったかも知れない。それなのに。でも殿下が不利になってしまうことだけは嫌だった。殿下の重荷になるのは怖かった。

…はっきりいえば殿下のためじゃない。重荷になってそれに気づいた殿下に嫌われるのが怖い。


「すまない。私は本当に言葉が足りないな。アメリア。たくさん話をしよう。まず先にアメリアが言った事は問題ないという事は先に言いたいよ。私は君の全てを守りたい。もし…」


殿下は言葉を詰まらせたように何も言わなくなって。私も先を促すことはしなかった。


「もし君が、本当に私を好きだと言ってくれるのなら。どうか、どうか私を拒絶しないでくれないか」


そう呟いた殿下を愛しく思わないはずがない。胸がぎゅっと絞られたような感覚でいっぱいになる。

殿下と微笑みあうのが好きだ。殿下の笑顔が大好きだ。



そう。不安に思うことがあれば聞けばいい。

殿下を否定する前に話し合えばいい。

もしかしたらダメかも知れないけどはじめから諦めたらもうここで終わってしまうんだ。


「聞かせてください殿下。そして私の不安も聞いていただけますか?」

「もちろんだ」


「殿下の想いを疑うわけじゃないのですが、あの…シーラ様と婚約間近だって噂を聞いて…おふたりの姿もみて…すみません」


いざ聞こうとするとはっきり聞くことは怖かった。好きだと言ってくれた殿下に失礼だし、でもどうしても気になってしまう。辺境伯の令嬢なら私と違って身分もぴったりで。楽しげな2人を思い出して少し胸が痛い。


「あぁ!すまない。そうだ周りはそんな様子だったんだよな。辺境は戦いが起きやすいから血にこだわりがそこまでないから安心してほしい。それにシーラ嬢の想い人は私じゃないんだ」


殿下が思い出したように笑う。


「彼女は情熱的な人だから後々君にもわかると思う。彼女の思いを私がいうわけにいかないが、私にも彼女にも婚約の意思は全くない。私の言葉を信じてほしい」


「はい」


自分で驚くほどすとんと殿下の言葉が胸に落ちてきて痛みが消えた。

これまで私がみてきた殿下と今目の前にいる殿下。信じる以外の選択肢がなくなった。

詳しくは今はわからなくていい。私と殿下には時間がある。これからたくさん話していけばいいんだ。わかり合っていけばいいんだ。殿下は嘘をつくような方じゃない。


×××


戦いのことは聞かないでほしいと殿下が言った。仕事ではなく親しい人間に話すにはまだ時間がかかるという。

殿下が大きな傷を負った時、開発した薬が救ってくれたとそれだけ教えてくれた。

「薬と一緒に君の存在にも救われたんだ」

その言葉に胸がいっぱいになる。戦いのことを無理に聞くようなことはしたくないけどそばにいたいと思う気持ちは強くなっていく。


「さっきはかっこつけてしまったが、身分の差が問題にならないのは君のおかげだ」

「私の?」

「そうだ。辺境に薬学研究所支部が設立さるのは聞いただろう?アメリアは今回の人事で重要人物だ。辺境伯となる私と共に領地を守っていってほしい」

「殿下が采配されたのですか?」

「アメリアの実力と実績があったからこそだ。私も辺境の地の人々も騎士も君たちの薬に助けられた。君が所長や陛下の側近たちに認められていなかったら無理だったんだ。国の中枢の人間は君やオルセード殿の重要性をよくわかっている。身分差のことをいう者はいなくならないだろうが辺境までは届かない。何かあれば必ず守る」


殿下のようになりたいと思って進んだ薬学の道。周りの人の役に立ちたかった。それが殿下とつながっていられる方法だと思ってた。それが本当につながっていたなんて。自分の進んできた道の先が殿下の道と交差するなんて思ってもみなかった。殿下はずっとずっと遠くの人だったから。


「正直、苦労させない。とは言えない。アメリアとは共に立ち向かっていきたいんだ。私の隣にいてほしい」


それは何より嬉しい言葉。守るといってくれたことも本当に嬉しい。その上殿下のことを守ることができるかもしれない。横に並んで支え合うことができる。こんな幸せなことなんてない。


「嬉しいしか言葉が出なくて…頑張ります。殿下が本当に好き」



涙が溢れて想いまで素直に声になる。


殿下は再び私を抱きしめて生まれて初めての口づけをくれた。

ふわっとした心地よさに涙がとまって。殿下は私が大好きな笑顔をみせてくれて、つられて私も笑う。


「ウィルと呼んでくれないか」

「…ウィル」


不敬だって承知だけど今は怖いものなんてない。

悪意に強くなったことも武器にして、不安になる気持ちにも負けたくない。

殿下がそばにいてくれること。殿下の優しい心。それが一番でこれからもずっと大切にしたいきたい。



読んでくださってありがとうございます!次回のエピローグで完結予定です!

最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです(・∀・)♡

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