25〈アメリア〉
「アメリア様、そんなに急いでどうかなさったの?」
「うぇ」
思わず品のない声がでてしまうのも仕方ない。ユリエラ様だ。
卒業してからもこうした宴や舞踏会に行く度に声をかけられ散々罵られ馬鹿にされるんだ。
彼女はとうに伯爵家に嫁いだのによっぽど暇なんだと思う。それか日々の憂さ晴らしに詰っても問題のない私を使ってるみたい。
「あなたが陛下の前で失敗しないか心配でしたのよ。学園の時のお友達ですものね」
「…?」
今日のユリエラ様はいつもと違う。若干嫌味だがいつもより随分優しくて不審に思ってしまう。本当に心配してくれているなら申し訳ないのだけれど。
「今日はねあなたを紹介してほしいって方がいるのよ」
ユリエラ様の言葉で1人の男性が目の前に現れた。
紹介してほしいと言われても私は彼のことを既に知っている。
今も笑顔を浮かべているものの過去の彼の行いとユリエラ様への不信感も合わさって警戒する気持ちしか起きない。
「この方はティデェイト伯爵様よ。私の夫のご友人ですの」
「よろしく。アメリア嬢」
しらじらしい。彼は何度となく私に声をかけてきた人だ。要は一夜を共にしないかという誘い。手を替え品を替えても結局彼の言いたいことはいつも同じだった。
研究所のいけ好かない人たちに俺が仇を討って女にしてやるなどと笑っていたのを私が知らないとでも思っているのか。
横でにやにやしてるユリエラ様をみて怒りよりも呆れてしまうが、この状況から早く逃げないと。
「初めましてではございませんよねティデェイト伯爵様。今更紹介などしていただかなくても知っていますわ。気を使っていただいて感謝しますが、私はこれで失礼いたします」
「そう言わないでくれよ。君がいっつもそうやってつれないから、友人だというユリエラ様に力を貸していただいたんだ。君も学園時代は奔放でよく周りを困らせていたそうじゃないか。ユリエラ様へこれ以上迷惑をかけないためにも彼女の顔をたてなきゃ」
もうどこから否定していいかわからない話と彼に掴まれた手が不快でたまらない。
「手を離して下さい。これ以上お話を続けてもあなた様を楽しませることなんてできませんわ。もっと有意義なことに時間を使って下さいませ」
「それはお話以上のことがしたいってお誘いと思っていいのかな?」
「違います!」
思わず手を振り払い強く否定してしまう。
咄嗟の私の言動につまらなそうな表情をする伯爵を見てユリエラ様は私を睨みつける。
「伯爵がそう思うのはあなたの日頃の行いのせいではなくて?そもそもあなたが伯爵様が声をかけてくれたのを感謝こそすれ断るなんてできないはずよ。今日だってこの祝いの席になんの飾り気もないドレスでいらして恥ずかしくはないのかしら。伯爵様ほどの優しさがなければそんな貧相で美的感覚もないあなたに目をかける方なんていないわ」
かあっと顔が熱くなる。どなたから送っていただいたかはわからないけどこのドレスを私はすごく素敵だと思う。悪口になっちゃうけどユリエラ様のドレスこそあまりにゴテゴテしすぎて私は絶対着たくない。
怒りと悔しさで言葉にできない私に、勝ち誇った顔をした2人が私にまたなにか言おうとしたその時。
「それは私が彼女に贈ったものなんだ。あなたの言ったことが本当なら美的感覚がないのは私だろう」
「…殿下」
殿下が私のそばに立つ。あんなにも近づきたかった殿下がそばに来てくれた。夢見たいな現実になにも考えられない。
「どうやら私の感覚と伯爵夫人の感覚は違うようだ」
「いえ、殿下。知らなかったのです!私決してそんなつもりでは」
「良い。人にはそれぞれ好みや主張があるのは当然のことだ。まあ相手が敵意も持っていないのに自分から近づいて嫌いだなんだ一方的に大騒ぎするのは実に恥ずかしいことだと思うが、伯爵夫人はそんな事はしないだろう」
「…もちろんです殿下」
「私の言葉は忘れないでくれ。さあ宴に戻るといい。ティデェイト伯爵もだ。…わかっているな?」
「はい」
引きつった表情のティデェイト伯爵と顔面蒼白のユリエラ様は離れていった。
喧騒が遠く聞こえ、私と殿下の周りだけ静まり返ったような気がしたけど声が出せなかった。
ふぅと殿下が息を吐く音が聞こえて、私は殿下へとしっかりと顔を向けた。
「すまない。私のせいで恥をかかせたみたいだ」
そう言って困ったように笑う殿下に「無事でよかった」も「会いたかった」も声にはならず涙が出そうだったから下手な笑みを返すだけで精一杯だった。
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