24〈アメリア〉
華やかな城内。美しく色とりどりのドレスを着た淑女に笑顔で談笑する紳士達。
宴や舞踏会にはいつも圧倒される。兄様もにこにこしているけど
「なんだかすぐ帰りたくなっちゃうんだよなあ」なんて呟いてる。
チラチラと令嬢の方の視線はお兄様へと向かう。催し事に来ることも珍しい兄様でも相変わらず人気者だ。
学園時代は兄様はこういった女性の視線に無頓着だと思っていたけど今は全て分かっていながら知らんぷりしてるんだろうなあと思う。美しいというのも大変なんだろう。
さりげなくあたりを見渡しても殿下達はいない。それはそうだろう。王族が来るのは宴がはじまるその時だ。
広間の一角には騎士服をきた人たちが集まっていた。
怪我をされてる方もいるが皆笑顔で讃えあっているようにも慰めあっているようにもみえて胸が痛んだ。
心臓が締め付けられるようなその感覚に顔を歪めると
「アメリア。大丈夫?」
優しいオルセード兄様の声に我に返る。笑顔で頷くと優しく背を撫でられた。
そこに盛大な演奏がはじまり、集まった人々の声が止む。
陛下と王妃、エドワード王太子、その後に続いてそしてウィルフレッド殿下が並んで現れ皆一斉に頭を下げる。
殿下を見たくてたまらない思いを抑えながら私も周りに倣う。
生きていた。また会えた。殿下だ。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
もどかしくて今すぐ抱きついて無事を祝いたかった。
「面を上げよ。この度は辺境での戦に我が国は勝利し、エスト国との不可侵条約が締結された。今後も復興に努めてもらうが今日は今までを労うための宴だ。みなよく頑張ってくれた」
陛下の言葉が響く。そしてそれぞれの功績を称えられる。
ウィルフレッド殿下を筆頭に騎士達が陛下の前にいき、労いの言葉がかけられた。
そして正式に殿下が辺境伯の地位につくことが明言された。
あぁ殿下は目標を着実に実現させている。殿下の瞳は真っ直ぐでこの度の戦を間違っても喜んでいない。全てを背負ったその姿に先ほど騎士の方達を見た時と似た胸の痛みが蘇った。それでもやっぱり殿下の無事が嬉しくて。殿下から目を離すことができなかった。
様々な方達が殿下の前に行きそれぞれ言葉を頂いていく。
「アメリア行くよ」
「はい」
私たちも今日は研究所の代表として陛下の前に行く。
所長と副所長とディル先生と兄様と私だ。
「この度の新薬の開発。よくやった」
「ありがたきお言葉です」
「薬学研究所の辺境支部を設立させる。用意をしておけ」
「はい」
私以外は皆知っていたようで落ち着いた様子だ。私はどうにか驚きを隠し陛下達の前から下がった。
陛下の前とか労いの言葉とか全て飛んでいってしまった。
「ということでディル君とアメリアさんは代表として辺境へ行くのは決定だからね。その心づもりでいて下さいね」
普段滅多に話さない所長がゆったりと告げた。
「はい」
「…はい」
ディル先生の後に続いてなんとか返事をするが次から次へと知らなかったことを明かされてもう頭の処理は追いついていなかった。
「びっくりした?アメリア」
「は、はい。兄様は知っていたの?」
「うんごめんね。びっくりさせたくて」
「もうそんな事言って」
「ふふふ。離れ離れは寂しいけどアメリアならきっと大丈夫だよ」
「…兄様」
そうか。私が辺境に行くってことは兄様とは遠く離れるってことなんだ。
そもそも辺境って殿下がこれから治める土地だ!本当にもうどうしよう。
やっぱり思考も感情も追いつかなかった。
「ふふ。困らせてごめんね。難しい話は明日にしよう。今日は宴だよ?楽しもう」
そう言って笑う兄様をみて考えることは諦めた。私の感情はぐるぐるしてるけど落ち着けばきっと色々かんがえられるだろう。グラスを差し出す兄様に私も笑ってグラスをとる。
×××
ディル先生と兄様と話していたら2人は令嬢達に囲まれてしまった。
誰かが聞いていたのだろう。ディル先生が王都を離れてしまうことを悲しんでいたりとにかく兄様に話しかけていたり様々だ。私は居心地が悪くなってそっとそこを離れる。
何気なく歩いてるようにみせてそっと周りを気にしていた。殿下はどこだろう。遠目でいいからもう一度姿をみたいなあ。それだけでいいから。
そんな思いが聞き届けられたのか殿下の姿を見つけることができた。
「あ…」
殿下はひとりではなかった。
周りにはキーンさんとカーティスさん。2人も遠目から見ると変わりがないようで安心する。そしてその奥に気高さが伝わってくるような凛々しい眼差しをした美しい令嬢もいて皆で楽しそうに談笑していた。
「ウィルフレッド殿下とシーラ様だわ」
「あれが辺境伯のご令嬢なのね。なかなか王都に来られないから。私初めて見ましたわ。とっても麗しいのね」
「ええ。ウィルフレッド殿下と婚約も間近らしいわ。本当にお似合い」
シーラ様。先ほど陛下にも直接労いの言葉をかけられていた。この度の戦いで殿下と共にあった勇敢な方。
私の知っている殿下は人前では冷静沈着で表情をあまり変えられない方だった。
だけど今はシーラ様と楽しげにやりとりしてる。
ずっと会いたかったのに今がひどく辛くて悲しい。
着飾って少しでも殿下によく見られたいなんて浅ましい自分と殿下達の距離を再確認する。
殿下とシーラ様しか目に入らなくってしまった。
恥ずかしい。殿下の無事が分かっただけで良かったじゃない。
私は仲睦まじい2人の姿から逃れるようにその場を後にした。




