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21〈アメリア〉

エスト国との正式な戦いが始まった。

その事実は皆が知っているけどあまり実感がない。その情報が広まった時には王都でも買い占めやエスト国出身の人との争いなどが起きたけど時が経つにつれ皆忘れたように日常に戻ったように見える。それはもちろん私も。

変わらない毎日の中で戦いがあるなんて信じられない。そして殿下がその先頭に立っているなんて。

それだけを考えると不安で頭がおかしくなりそうだった。日常を続けるしかなかった。

でも私にとってのひとつの光。それは今まで兄様達としていた研究だった。

戦いが続く中、私たちのつくった薬は国に認められ殿下達のいる辺境へと送られることとなった。

化膿することを防ぎ痛みを和らげながら治癒を早める。怪我した後の感染を防ぐ画期的な薬だ。

日々は目まぐるしく、完成して終わりではない。それからは日々それを製作し、改良もする毎日だ。

殿下や戦っている騎士様達、辺境で暮らす方々がこの薬を使うことがないように。…でももし。もし怪我をしたならどうかこの薬が皆を救ってくれますように。

薬を作り続ける毎日の中で不安や葛藤で心が荒んでいくのも事実だけど。私は毎日何をするにも祈るように生きている。

オルセード兄様が困ったように笑いながらも相変わらず厳しく指導してくれるのが救いだった。


戦いが始まって一年を迎えても、何の音沙汰もなかった。いやきっと城では色々な情報が行き交っているであろう。でも私にはなにも届かなかった。

「立派な行き遅れだねえ。そんなとこも兄弟似てるんだねえ」

オルセード兄様は私が結婚しないことを許してくれた。何人か声をかけてくれた方がいたみたいだけど私と会う前に断ってくれた。兄様の優しさに甘えてるのが苦しかったけど、殿下との約束を守りたかった。


新薬の件で兄様の予定が合わず私だけが城へと赴いた。

もしかしたら殿下のことがどこかから聞こえてきたりしないかしら。そんなことを考えながら人を待っていると、

「見てあの方よ。オルセード様の口添えで薬学研究所に入ったのにとっても偉そうなんですって」

「たいした実力もないのに研究所にい続け縁談も沢山断ってるらしいわ」

「私あの方と学園で一緒だったわ。確かケント先生と殿下に言い寄ってすげなく断られた可哀想な方だわ。責めるのはやめてあげてくださいませ」

「ならイリス様がクリス様とご結婚されてまさか自分にも機会が巡ってくるなんて思っているんじゃないかしら」

「あのお2人の結婚には驚いたわよね。まさか殿下との婚約を解消されるなんて」


殿下とイリス様のことは殿下と再会した時に聞いていた。とても驚いたし正直なんて言ったらいいのかわからなかった。向かい合った時の悲しそうなイリス様のお顔を思い出して胸が締め付けられた。私は知らなかったがクリス様という方とあの時婚約されて今はもう結婚されている。王家と公爵家との兼ね合いなど色々あったみたいだけど殿下は「お互いに肩の荷が下りたんだ」と困ったように笑っていた。

結婚や恋愛って当事者しかわからないことがたくさんあるんだと思う。

私は学園時代に2人に迷惑をかけてしまったから申し訳ない気持ちと申し訳ないと思うことすら驕った考えなんじゃないかってぐちゃぐちゃだった。

結婚や恋愛は2人でするものででも家族とか私みたいな横恋慕する人もいて難しい。


そんな思考の中に漂いながら私は知らん顔してその場をやり過ごそうとしたけどある一言がそうさせてくれなかった。


「まあでも殿下は今辺境伯のご令嬢といい仲なんですって。あちらの戦いが終わればご結婚されるってもっぱらの噂ですもの」


動揺をみせてしまった。噂話をしていた人たちに笑われたような気がする。


「美しい方よね。あの方ならお似合いだわ」

「そうね、間違ってもいろんな男性の気を引こうなんてなさらないだろうし」


クスクスと笑いながら去っていく人たちをぼんやりと見ながら先ほどの言葉が繰り返し繰り返し聞こえてくる。


今殿下は争いの中にあってただただ無事であればいい。それは間違いなく本心。

でも殿下が待っていて欲しいっていってくれたあの日から私は期待していなかっただろうか。そんなはずないなんていいながら心の底ではずっと。

殿下とずっといられるなんて。考えたら戦いが終わっても殿下は辺境伯となられて離れ離れはかわらないんだ。

目先の戦いのことで何も見えてなかったんだなあ。

でも。でも。あんな話が女性たちの中で語られるってことは殿下の無事は確実よね。結婚の話が出るってことはもしかしたら戦いの終わりは近いのかも。きっとそう。


そうかんがえると嬉しくて。なのに悲しい気持ちも消えなくて。


私はどうしようもない気持ちが暴れまわるのを意地だけで抑えていた。「お待たせしました」そう待ち合わせしていた方が声をかけてくれるまで。



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