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16〈イリス〉

殿下との約束の日。学園は休みで城で会うことになった。

アメリアと対峙した日からゆらゆらと思考は定まらずこの日になってしまった。

私は自分の考えを掴めないまま殿下と向き合った。


「改めて2人で話そうとすると緊張して何から話せばいいかわからないな」


小さく笑った殿下に胸がざわつく。


「殿下は私との婚約を解消したくはないのですか?」


脈絡もなくこぼれ出た疑問。言ってはいけない。そう思う間も無く私は殿下に投げかけていた。


「なぜいつも君はそう思う?私は一度も考えたことはない。私たちの関係は改善すべき点は多々あると思ってるが」

「アメリア嬢がお好きなんでしょう?」

「この間も言ったがアメリア嬢とはそんな関係ではなかったんだ。信じてはくれないのか?」

「信じるも何もない!…殿下とアメリアを見たのは私です。殿下は、殿下は私には見せないような笑顔をアメリア嬢にみせていたわ!」

「笑うのは楽しいからだ。君とは会話もままならない。これから共に過ごせば笑うこともあるだろう」

「なぜそこまで私との婚約を続けたいのですか?殿下のお母様のように第2夫人にするつもりですか?もし殿下が婚約解消したいと言うのなら、殿下がアメリア嬢を好きなら、私は潔く身を引きますし父を説得しますわ。殿下とアメリアの為に!」


「いい加減にしてくれ」


自分で自分を止められなかった。気づくと殿下が冷静に私を見ている。しかしその瞳の冷たさに心が凍った。


「私の母が側室に上がったのは決して陛下の好きだなんだの感情で決まったことではない。陛下も王妃もそして母も語れぬような気持ちを抱えているのがわからないのか。それに対して軽々しく口を開くな。」


怒りを露わにした殿下を初めて目の当たりにして、震えを止めることはできない。


「私の行動が君を煩わせた。私に原因がある。ただずっと心の底では考えていた。君はずっと私が婚約解消したいならすると言っているが、この婚約をやめたいのは君の方ではないか?イリス嬢、君自身が婚約解消したいんだ。それならそれでもいい。ただそれをアメリア嬢のせいにするな。そしてそれは私の為ではないそれは君自身の為だろう!」


私は殿下に失礼なことまで言って何を望んでいたのか。自分自身気づかなかったが否定して欲しかったんだ。私と婚約したいからしてるんだって殿下の口から聞きたかった。もし言ってもらえないのなら殿下とアメリアの責任にしたかった。殿下に突きつけられ自分の愚かさに涙が出る。

殿下はその涙を見て驚いたようだったがもう私は涙をとめることはできなかった。


「すまない。つくづく私は君を傷つけるしかできない。イリス嬢。君は知らないみたいだが婚約した当時とは状況は変わり今は私が公爵家に入ることは互いにとってそこまで利があるわけじゃない。元々私と公爵家の為の婚約で君にも意志はあるのは当然だ。婚約解消したいならすることは可能だろう。ただ君は君の意思で公爵に先にそのことを伝えるべきだ。王家はそれについて否はない。この件は決定権は私にあるから」


殿下が立ち上がるのがみえる。


「すぐ決断することではない。よく考えてくれ。私は今日はもう行く。あとひとつだけ。君は私がアメリア嬢を好きだと言うが、そもそも私は恋愛感情というものをよくわかってない。そういうものは君一緒に覚えていくものだと信じきってたんだ」


殿下が立ち去った後、泣いていたはずの私から笑いがこぼれた。止まらない。少ない関わりの中でも本当は殿下は真面目なんじゃないかと思っていたが、驚くほど真面目で不器用でまっすぐな人だった。泣くのも笑うのも止められず、顔はもうぐちゃぐちゃだった。


×××


父である公爵と母の前で私は緊張していた。

「婚約を解消したい」

そう言った私を何も言わず黙って見ている父は普段から気難しい顔をしてるので怒ってるかどうかはわからない。

「そのようなことを陛下に申し上げるわけにはいかない」

「……」

「公爵としてはそういうべきだろう。ただお前の父として、お前は殿下と結婚していやが応にも元王族の妻として戦わねばならぬことに耐えられないのではないかと思っていた。お前は繊細な子だからね。今の状況では婚約解消はできるだろう。ただお前の相手はまた私が決めるだろう。同じことは繰り返せない。お前は婚約解消したことで訪れるこれからから決して逃げぬか?」

「…はい」


母は優しく抱きしめてくれた。2人の優しさを感じて私は今までどれほど周りからの優しさに気づけず生きてきたのか2人への感謝と後悔で母の胸で泣き続けた。


×××


婚約解消は問題なく行われた。公にすることは今はせず時期をみることになった。

殿下に会えた時、私は初めて殿下と見るようなそんな不思議な感覚だった。殿下には怒りの色は見えず終始穏やかだった。最後に向かい合い「今までありがとう。幸せを願っている」そう笑ってくれたのだ。

殿下はずっと優しかった。私に対して誠実だった。信じられなかったのは私だ。後悔はずっと残るだろう。ただようやくこの世界で生きている。そんな実感にすこし安心もした。

殿下とアメリアを思い出してふたりが幸せになればいいと思う。でも私ができることなんて何もない。そう私は何も知らない。これからの自分の未来も2人のいく末も。



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