13〈アメリア〉
殿下達がいらした。この東屋に。
嬉しい気持ちと悲しい気持ちでいっぱいいっぱいな気持ちをどうか冷静であれと必死に沈めた。
「殿下、カーティス様。キーンさん。お願いです。殿下と2人で話す許可をいただけませんか?勿論目が届くところにいてください。ただ声だけは、話だけは殿下にだけ聞いていただきたいのです。今日で最後に致します。どうかお願いいたします」
必死に言い募る私をしばらく見やっていた殿下が口を開く。
「わかった。カーティス、キーンどうか少し離れていてくれ。ただアメリア嬢の名誉のためにも目は離すな」
「あいよ」
「わかりました。あんまり大きい声だしたら聞こえちゃうから気をつけてね」
キーンさん達が私を気遣うような目をした気がした。何か知っているのかもしれない。
そう思ったのは一瞬で、殿下と向かい合いうるさい心臓の音を聞きながら静かに話し始めた。
「殿下、今日はお別れを言いにまいりました。1人の友人だと言ってくださったことが本当に嬉しかったのです。ですがやはり婚約者のいらっしゃる殿下のお側に私がいるということがいかに周りを混乱させ、傷つけるのかということに気づきました。…殿下達と過ごす時間が楽しくて気づかないようにしていたのかもしれません。本当に申し訳ありません。
ですが助けていただいたことも、ここで過ごしていただいた時間もどれほど感謝を伝えても足りません。本当にありがとうございました」
頭を下げ殿下の言葉を待つ。泣くな。泣くな。自分に言い聞かせながら。
「頭を上げてくれ。君に忠告するものが現れたか。本当にすまない。謝るのは私だ。私も一緒だったのだ。この東屋でアメリア嬢と過ごす時間が必要だった。それを自覚してたからこそこうして会い続けて君にそんな言葉を言わせてしまった。本当にすまない…だがわかった。この東屋に訪れるのは今日で終わりだ」
「いいえ、私がこの場にもう来なければいいのです。最後にどうしても殿下にお伝えしたくてここにいますが、殿下にはこの場が必要なはずです」
「それは君も同じだろう?なに私はカーティスやキーンが新たな場所を見つけてくれる。良ければ君にはここの場にい続けて欲しい。会えなくなったとしてもこの東屋で君が努力している。そう思えば私も負けていられないと頑張れそうだから」
そんな風に言っていただけるなんて。声を出したら泣いてしまいそうで私は静かに頷いた。
「…私とイリス嬢の関係が良好であれば君を紹介することもできたが、あいにく彼女には嫌われてるみたいなんだ。彼女から忠告をうけたのか?」
「いいえ違います。他の方から、令嬢として当然の注意を受けただけでイリス様とはお話もしたことございません」
「そうか。この通り私は女性の気持ちがわからないような男だろう。どうにか彼女と親睦を深めたいと思っているんだがな、彼女に声をかける時はいつも彼女は忙しく、先約があって、私もいつでも暇というわけではないから中々予定が合わないんだ」
そこまで聞いたら、イリス様がうまくいくようになにかいい方法はないかと考え出す。友人でいられなくなるんだ。せめて2人には仲良くして欲しい。先約…ふと、男爵家の執事ロディのことを思い出した。
「殿下、イリス様に声をかけるのは突然ですか?」
「そうだな。彼女が学園に入ってからは特に。クラスに直接赴いている」
「そうですか…もしかしたらなんですけど、イリス様って自分の予定した行動を崩されるのが苦手なのではないでしょうか?私の執事がそうなんです。前もって決めてそれにそって行動するのが好きなのです。…ですから前もって先に殿下のこの先一ヶ月ほどの予定を書き出してイリス様とお会いできる日を提示して、イリス様との予定が合う時を擦り合わせてみてはいかがですか?」
「そうか…確かに私はその場その場で行動してしまうことも多い。これではイリス嬢の都合を考えていないよう受け取られても仕方ないな。一ヶ月程であれば予定もほぼほぼ決まっているし学園にこれる日もわかるだろう。さっそく試してみるよ。本当にありがとうアメリア嬢」
「うまくいくことを願っています」
2人とも何も言えなくなった。言ったらもう終わり、そんな気がした。
「寂しくなるな」
殿下がポツリと呟いた。
「殿下。私は殿下と出会う前は自分がこれからどうしたいかなど考えたことがなかったのです。流されるまま与えてもらったものだけを受け取っていました。ですが殿下の目標、思いを聞いて、私のこれからを考え、卒業後薬学研究所の研究員になると決めました。在学中成績を維持し研究所からの課題に合格し続けることが条件ですが、必ず成し遂げます。そして、今後もし争いが起こった時、傷ついた人を癒せるように。母のような病気に苦しむ人を救えるように。私の進む道を決めました。…もう殿下と個人的に会うことができなくとも、私も大切な人がいるこの国の為できることを模索することが殿下のいる世界に繋がっている。そう信じられるのです。私の力が殿下の力になるようにこれから励んでいきたいと思います」
「ありがとう。本当にありがとう」
殿下はいつも通り感情が読めない顔だったけど少し泣きそうに見えたのは私の瞳が潤んでいたからだと思う。
最後に握手を交わして私たちは別れた。思えば殿下に触れるのは階段から落ちた以来だったな。
ひとりぼっちになってもう涙を堪えることはやめた。
殿下にも秘密にしたこと。
「好きです」
恐れ多くも殿下に恋をしている。気づいたらもうどうしようもなく好きだった。
泣いて泣いて、それでも涙は枯れなかった。
後悔なんてしてやらない。私は本当に幸せだった。殿下は私に将来の目標をくれた。
殿下に恋したことは私にとってかけがえのないことだった。
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