11〈イリス〉
城での教育にもっと力をいれたい。学園よりこちらを優先したい。
そういうと先生は困った顔をしてこれ以上は必要ない私は公爵夫人になるのであるから。学園で多くの人と接することで状況を把握する力をつけ一方的な考えにならぬよう訓練するべきであると。
そこまで言われては引くしかなかった。学園に行っても良いことなんてひとつもないのに。逆に冤罪までかけられるかもしれない危険性を誰も気づいてくれなかった。
学園でのある日。マリエンヌが2人きりで話がしたいと言って来た。
彼女の家は伯爵家で叔母のことがあっても我が公爵家の派閥から抜けることのなかった少ない家のひとつだ。
その関係性から私とマリエンヌは私が姉でマリエンヌが妹のような雰囲気を持っていた。
学園に入ってからは彼女は私の友人でもあるユリエラとばかり一緒にいて2人きりで話すなんて久しぶりのことだった。
彼女はキョロキョロと辺りを見渡しすっかりと痩せてしまっていた。
「どうしたの?なんだかとっても顔色が悪いわ」
「イリス様…私どうしたら良いのかわからなくて…私…私…」
「落ち着いてマリエンヌ。ゆっくりでいいから。ね?」
優しく言うと彼女は震える口で話し始めた
「ずいぶん前のことなんですが…オルセード様が授業に初めていらした日。覚えていますか?」
「ええ、でもずいぶんと前ね、それがどうしたの?」
「あの日授業が始まる前からあの人…アメリア・メイスがさも自分はオルセード様と仲が良いんだって見せつけるみたいに目配せをして。それで授業が終わってやっとオルセード様と話せると思ったら彼の隣に居座って私が彼と話せないように邪魔して来たんです。ディル先生にまで勉強するふりしながら色目を使ってて。その上異母兄であるオルセード様にまで色目を使ってたんです!オルセード様は優しいから気づいてなかったけど私彼女が怖くて。オルセード様が心配で」
「マリエンヌはオルセード様が好きだったのね。でもアメリアさんも異母兄に色目を使うなんて異常ね」
確かにオルセードはかっこいい。だが血の繋がった兄を男と見るなんてアメリアには常識がない。いや男好きで狂ってるとしか思えない。忠告だけはするべきかもしれない。マリエンヌの悲痛な叫びに私もさすがに怒りがこみ上げて来た。
「そうなんです。だから、その日に彼女をこれ以上オルセード様に近づけないようにってオルセード様を守りたいってそれで頭がいっぱいになって!…彼女を階段から突き落としたんです」
「え?」
「死んで欲しいとは決して思ってません!ただもう夢中で。彼女の存在が怖くて。でも突き落としたら。偶然、偶然殿下が下にいて彼女の下敷きになったんです。私驚いて咄嗟に物陰に隠れました。でもその時カーティス様に姿を見られた気がしたんです。殿下の無事がわかった後すごい形相でこちらを睨んでいたんです。その後気づいたらもうみんないなくなっていて…このことがバレていたら。そう思うと夜も眠れないのです。イリス様は殿下やカーティス様から何か聞いていませんでしたか?もしバレたとしても殿下の婚約者であるイリス様からの言葉があれば許していただけるんじゃないかと思って。イリス様にお伝えしました。お許しくださいイリス様…力を貸して…イリス様?イリス様?」
彼女の問いかけに応えることはできなかった。なんてことをしてくれたんだろう。それは殿下とイリスの出会いイベントだ。はじめはアメリアの不注意かとおもわれたそれは後にイリスの仕業とわかる。よりイリスへの非難が増すのだがアメリアはすべて許してみんな彼女の優しさを褒め讃える。
ゲームでは詳しく語られなかったがこういうことだったんだ。彼女は私の派閥の人間でありイリスだってアメリアを害そうとしていた。その二つがこの階段突き落としも私のせいだということにしてしまったんだ。
むくむくとマリエンヌへの怒りが湧いたが淑女として怒鳴るわけにもいかないだろう。
「人を突き落とすなんて、たとえそれは悪人に対してだっていけないことだわ。殿下もカーティス様もなにも言っておられないし、もし気づいていたのなら早々にあなたに尋問なさるはずだわ。このことは私たちだけの秘密です。決して人には話してはいけないし、ここまで黙っていられたんだもの。もし誰かに何か聞かれても知らないということでつき通しましょう」
「はい。イリス様」
「ならこの話はもう終わりね。先に帰ってくださるかしら」
「わかりました。失礼いたします」
とぼとぼと帰るマリエンヌを見送ると頭を抱える。
知らなかった。もう殿下とアメリアが出会っていたなんて。どうしよう。どうしよう。
ただ殿下もそんな話したことない。って言ったって私たちは話すこともあまりないんだけど。
多分マリエンヌの件はまだバレていないだろう。これで私がアメリアを害そうとさえしなければ決してバレることはない。アメリアには悪いけどこの件を公にすることはない。アメリアにも悪い部分はある。
アメリアはケント先生ルートに入ったくせに異母兄に色目を使い殿下との出会いまで果たしてる。
2人が会うとしたらあの場所だ。不貞をしたのは殿下。婚約破棄の際私に非がないと訴えるためにもこの目で確かめなくては。
殿下はアメリアと出会った後も度々私に会いに来ていた。絆されなくて本当によかった。そうしたら裏切られた気持ちが今よりもっと増していただろう。
×××
「先約がございますの。申し訳ございません」
そう言って殿下の誘いを断り後でこっそり東屋に向かった。
その東屋はゲームでは定番のスポットだ。
ウィルフレッド殿下が笑っている。カーティスやキーンと笑い合っている。
その中にアメリアもいた。
「やっぱりね」
そう自嘲しながら目を離すことができなかった。あんなに楽しそうな殿下は初めてでその笑顔にこんな状況なのに見惚れてしまう。こんな素敵な人他にはいない。それ位素敵だった。
だけどそれを向けられているのが自分じゃないことにじくじく胸が痛み出した。
アメリアはどういうつもりなんだろう。攻略対象者と一気に3人と会うなんてどうかしてる。逆ハーレムねらいだったんだ。なんでそんな人に殿下は笑いかけるの?なんで?なんで?
殿下の見る目のなさにガッカリしたけどそれでも殿下の笑顔から目が離せなかった。これ以上は見ていられないと私はその場を立ち去った。
×××
殿下とはしばらくあっていない。あの盗み見したすぐ後殿下は辺境へ行き帰って来たかと思ったらまた別の公務だ。
会いたかったなあ。なんでいつも断っちゃったんだろう。殿下に対してこんな気持ち持ったまま冤罪かけられたら泣いちゃうかも。そんなことばかり考えていた。
「どうなさったの?イリス様。最近元気がなくてよ」
ユリエラ嬢がマリエンヌと他の取り巻きも連れて私のもとを訪れていた。
「きっと殿下がお忙しいからですよ。寂しく思われてるのではなくて?」
「ええまあそうね。…それだけではないんだけど」
思わずこぼれ出た言葉。それをユリエラ嬢たちは盛んに聞き出そうとする。その様子が私を心配してくれてるようで私にも味方がこんなにいるんだ。そう思うと強くなれる気がした。
「殿下がねアメリアさんと個人的に仲良くしているみたいで。ほらアメリアさんってかわいいでしょ?私不安になってしまって」
そう言うと周りの令嬢は声を荒げた!
「可愛いだなんて!イリス様の方がよっぽど美しいですわ。彼女はほらご自分の母親が男爵をたらしこんで貴族になれたからって王族である殿下にすり寄って成り上がろうとしてるのではなくて」
「まあなんて下品なの。殿下にはイリス様がいらっしゃるのに」
「私明日にでもアメリア嬢に忠告いたしますわ。これ以上イリス様が傷つく必要なんてないのです」
そう息巻くユリエラだがそんなことはして欲しくない。なにが冤罪につながるのかわからないのだ。
「そのような事してはユリエラ様まで悪く言われるかもしれないわ。それにこうして皆さんに聞いていただけで救われましたもの」
「いいえイリス様。彼女は教師であるケント様にも迫ったとされるほどの節操なしなのです。念には念を、です。私は侯爵令嬢としてイリス様の友人として彼女の行いを咎めないわけにはいきません。礼儀のなっていない彼女に貴族とはなにか教えて差し上げたいのです」
「ですが決して彼女にひどいことはしないで。これは彼女のために行っているのではありません。あなたのためよ」
「わかっておりますわ」
ユリエラ嬢を信じてみよう。被害者の私が直接言ったら私が悪者になっちゃうけどユリエラならうまくアメリアを諌めてくれるだろう。
でもこうしてユリエラ達と話して少し冷静になれた。こうやって悪役令嬢にならないように私がしていることも知らないで殿下もアメリアもどうするつもりなんだろう。
殿下ってゲームではサラッと王になってたけど現実じゃそうはいかない。エドワード殿下が王になるのは決定的だし我が公爵家にも入れなかったら。殿下が男爵家に婿入りするのかな。王族だった人が男爵家に入ったら耐えれるの?ていうか王になれないと知った時アメリアは殿下を好きでいられるの?カーティス達はどうするつもり?
考えるのはよそう。
殿下はやっぱり私を裏切ったし、アメリアは婚約者いる殿下に言い寄った。その事実は変えられない。
そんな人たちを気にかける必要はない。殿下が私をいらないと言うのなら私は私の幸せを考えたっていいだろう。
ユリエラが諌めてくれるらしいけど私は婚約破棄された後のことばかり考えていた。




