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10〈イリス〉

ついに学園へと入学してしまった。

ここで殿下はヒロインと出会って恋に落ちるかもしれない。私は悪役令嬢として殿下から婚約破棄されるかもしれない。そう思うと気が重かった。

ゲーム通りヒロインと私は隣のクラスだった。初めて見る現実のヒロインであるアメリア・メイス。

ピンクの艶やかでありながら波打つような綺麗な髪に翡翠色をした真の強そうな目。

そこまで考えて少し疑問を覚えた。ゲームの中の彼女はふわふわとして周りを癒すようなそんな雰囲気だった。確かに彼女は可愛いけどその理知的な眼差しになんだか嫌な予感がした。


その予感が的中したのは入学時のテストの結果発表だった。なんとアメリアが令嬢の中で一番だったのだ。ゲームでは私が一番なはずだし私も努力を怠ってない。でも城での教育もあったしもしかしたらヒロインの力なのかもしれない。でもあの理知的な瞳を思い出し本当に彼女は優秀なのかもしれない。ここはゲーム通りの世界じゃないのかもしれない。かも。かも。かも。不確定な憶測ばかりでひどく混乱する。

その後殿下が私の元まで来てくれて「入学おめでとう」と言ってペンをプレゼントしてくださったけど、一番じゃないことを遠回しに責められている気がして、うまくお礼が言えなかった。

殿下の周りに攻略対象者でもあるカーティスとキーンもいたのも嫌だった。彼らとは既に顔合わせていたがゲームみたいに私を責めるんじゃないかと気が気でなかった。


それからも殿下は度々私の元に訪れる。

周りから「殿下から愛されていて羨ましい」だの「婚約者としてうまくいく秘訣はなに?」だの聞かれるが私は気が気でないのだ。だって隣のクラスにはアメリアがいるのだ。2人に出会って欲しくない。その一心で殿下になるべくクラスに来るのはやめてほしいのだと頼んだ。殿下は「では君から来てくれるのだろうか?私は公務があって毎日学園にいるわけではないからなあ。すれ違わないか心配だ」

真面目にそう言う殿下に少し安心をした。彼は今私のことを考えてくれている。

「教師に聞けば殿下がいらしているかはわかるでしょう。私が殿下の教室に伺いますわ」

「そうか。では楽しみに待つとしよう。次は剣技の授業なんだ。もういくよ」


殿下は相変わらず剣を振り回しているし、不安は消えない。

追い討ちをかけるように聞かされた噂に私は息を飲んだ。

『アメリア・メイスは試験で不正をしていた。教師であるケントに体を使って迫り、先に問題を盗み見ていたのだ』

なんということだろう。ケント先生は攻略対象者だ。

噂は噂。わかっているけど火のないところに煙はたたない。疑わしいことがあったんだ。私は馬鹿だ。彼女を理知的だと思っていたけどそんなんじゃない。彼を攻略しただけだったんだ。

でも彼女はケントのルートに入ったのかもしれない。ただケントと殿下は親戚で交流がある。気を抜いてはいけないと気を引き締めないと。

それからも度々アメリアがケントのところに訪れているところが目撃され彼女はどんどん嫌われて言ってるようだ。

アメリアと同じクラスであるユリエラやマリエンヌは高位貴族として彼女の恥知らずな行動を諌めているのだが平民の癖がぬけないのか全く聞く耳をもたないらしい。

ゲームではヒロイン補正がかかっているけどここは現実だ。彼女たちの怒りも当然だろう。それを聞き流しながらも私自身は彼女をいじめるようなことはしなかった。悪役令嬢なんかになるものか。


うちのクラスの男子生徒がアメリアに優しく声をかけたが冷たい言葉であしらわれたらしい。確かに彼は攻略対象者ではない。でもそんなことで差別するなんて。私のアメリアに対する嫌悪感は彼女の話を聞くたびに増していった。


そうした毎日の中で殿下の教室に行くことはできなかった。一つ上の学年に足を踏み入れることが怖かった。

そして殿下は忙しいのだ。よく学園を休んで公務にでかけている。

どこで何をしている位は耳に入ってきたけど政治に司法に騎士団なにをしたいかさっぱりわからないくらいいろんなところへ出向いていろんな人と会っている。女の影はないみたいだけどほんとかどうかはわからない。

こうして殿下が会いにこないと私たちの関係はすぐ切れるんだ。殿下は私のことなんて好きじゃないんだ。来るなと言ったのは自分の癖に悲しくて悲しくてどうしようもなかった。


その日は特別講師が来る日で薬学研究所からディル先生とオルセード先生が初めて授業に来る日だった。

2人とも人気だけどオルセード先生は髪も瞳もアメリアと同じで苦手だと思う。ゲーム内でもずっと彼女の味方だっだ。


授業が終わって放課後になると殿下が現れた。

「会いにきてしまった。今日は城での授業もある日だろう。良ければ私たちと一緒に城に向かわないか?」

会いにきてくれたのは嬉しいがカーティスを連れ立ってやってきた殿下を見てため息をつくのをこらえる。

「お気遣いありがとうございます殿下。ですがもう馬車は手配していまし、殿下にご迷惑はおかけできません」

「そうか。私は約束まで少し時間があるのだが、こちらで少し話していかないか?」

それを聞いてついカッとなってしまう。

「私には私の約束がありますので。申し訳ありませんが失礼いたしますわ」

殿下の元を立ち去る。イリスは決めた予定を狂わされるのが嫌いで私にもそれはしっかり引き継がれていた。

この行動に今以上後悔することなんてないと思っていた。


×××


城内をゆっくりと歩く。殿下が来たせいで予定より早く着いてしまったのだ。

「イリス嬢じゃないか!久しぶりだね」

そう声をかけてくださったのはウィルフレッド殿下の異母弟であるエドワード殿下だ。

かれは満面の笑みでこちらに近づいて来た。殿下と同じ紫の瞳だが黒髪の殿下と違ってエドワード殿下は王妃から引き継いだゆるくウェーブがかった金髪で前世持ちの私からみたら王子様らしい王子様だ。

3歳下だが既にとても優秀で王太子にふさわしい、王になるべくして生まれたとそう言われている。


「お久しぶりです。エドワード殿下」

「学園に入ったんだもんね。あの忙しいウィルとも会える時間が増えてよかったじゃないか」

「はい。とても良くしていただいてます」


そう答えたけど複雑な気持ちはエドワード殿下に隠せなかったみたいだ。

「どうしたの?そんな悲しい顔をして」

「いいえ。なんでもないのです。殿下」

「そう。ウィルはさ、不器用で仏頂面だけど優しい心を持っているから、早く君が気づいてくれたらいいなと思うよ」


そう言って優しく励ましてくださる殿下。

その笑顔は私の心に染み入るものだった。

ウィルフレッド殿下は私に笑ってくださらないもの。


エドワード殿下は何かあれば話は聞くとおっしゃって去っていった。

もし殿下が婚約者だったら。エドワード殿下の人懐っこい笑顔を思い出す。

そんなことあるはずがない。ウィルフレッド殿下が婿入りするからこそのこの婚約なのだ。

でもゲームでは私がヒロインを害そうとしてそれを殿下が救って婚約破棄をする。

でもこの世界では私はヒロインを害そうなんてしない。そうなったら殿下はただヒロインに心変わりして婚約破棄を私に告げるということだ。それって私は悪くない。完全な被害者だ。

もし無実の罪で婚約破棄されるんなら次の婚約者はエドワード殿下がいいなあ。彼の優しさが私を癒してくれる。

そこまで考えてやっぱり王家の教育にはもっと力を入れようと心に決めた。今その教育を受けているのは私だけだ。

もしも。もしもだけどこのまま婚約破棄されたらエドワード殿下と歩む未来があるかもしれない。その想像が私を前向きにしてくれた。



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