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9〈アメリア〉

殿下達がこの東屋にいらしたのは久しぶりだった。

「ここでアメリア嬢に会うのもずいぶん久しぶりだ」

「はい。殿下は辺境への視察だったのですよね。長旅だったと思いますが、お身体は大丈夫ですか」

「ああ問題ない。体は丈夫なんだ」

「そうですよアメリアさん。ウィルは彼のズボンのお尻よりずっと丈夫ですから安心してください」

「キーン。それは言わない約束だろう」

「僕だけそんな面白そうな現場を見ていないんですよ。言うくらい良いじゃないですか」

「キーンさんもお疲れ様です」

「ありがとうアメリアさん」


殿下をからかうのはキーンさん。キーン様と呼ばれるのが嫌いらしい。辺境への視察に殿下と共に行かれた殿下の腹心と呼ばれる方だ。カーティス様は別行動らしい。


ふたりの話が続く中、邪魔をしないように途中だった問題に目を向ける。殿下達は決して私に会いに来ているわけではない。誰にも聞かれないこの東屋で殿下が「ウィル」としてキーンさんやカーティス様と友人として接する大切な時間なんだと思う。そうして私が聞くべきでない大事な話の時は耳栓をつける。そんな耳栓程度で許して頂けるくらいには信用してくださっている。それが嬉しかった。


こうやって殿下達と東屋で過ごすようになってしばらく経った頃キーンさんに言われたが階段から落ちて私と殿下が出会ったことを殿下から聞いて私を疑ったキーンさんは私を調べに調べたらしい。裏で繋がる人物や国がいないか。私自身の思惑。オルセード兄様まで徹底的に調べたらしい。

当然だが何も出ないので2回目に殿下達が現れたのは殿下を囮にして様子を伺っていたらしい。もし私が仕掛けるのなら攻撃でなく殿下を籠絡するのが目的だろうと。ただカーティス様は帯剣してるから攻撃なんかしたら私が死んでいたたしこれからも容赦無く殺すと。

キーンさんとしては疑いは晴れることはない。変な真似をしたら君自身は消すし、オルセード兄様も消すし裏で手を引くものにも相応の罰が下ると言われている。

オルセード兄様に迷惑がかかるのだけは嫌なのでもう近づかないというとウィルは君といるのが好きみたいだし、いなくなったらつまらないからいていいよ。なにかしたらすぐにわかるから。そう笑って最終的にここにいることを許してくれた。

疑われてるけど信じてもくれている。奇妙だけど全面的に信頼されるよりずっと心地よかった。こうして殿下達と過ごす時間が本当に大好きだけど後ろめたくなる時も確かにあったから。


つらつらとキーンさんとのことを思い出していたら殿下とキーンさんがこちらを見ているのに気がつき謝りつつ慌てて耳栓をしようとした。


「違うアメリア嬢、この度の視察自分の考えがまとまらない。今一度自分の思いや考えを話しておきたい。それでもし良ければアメリア嬢、君にも聞いてほしいと思った。私は君のことを大切な友人だと思っているんだ。ただ口外されては困るから君が嫌なら話はしない。断ることで君に不利益はかからないと約束する」

殿下が私のことを友人だと思ってくださっている。嬉しい。嬉しい嬉しい。すぐ頷きたかったけれど、考える。

殿下は自分の個人的な思いを話すことに許可を得る。誰彼構わず言える立場にないのだ。もちろん貴族だってそうだけど王族のその重圧はどれ程のものだろう。私が殿下の大切な思いを聞いて良いのだろうか?

だけどそんな迷いは一瞬だった。殿下のお話を伺いたい。私を友人だとおっしゃってくださった殿下に気持ちを大切にしたい。

「うかがいたいです」

小さな声だったけど殿下の目を見てはっきりとそう言った。殿下は本当に嬉しそうに年相応の笑顔で笑った。



それから殿下の話をひとことも聞き逃すごとのないようにと息をするのも忘れそうだった。

側室の子というこの国では珍しく不安定な立場。その中でも築かれた家族の絆。その中で決めた騎士として生きるという自分の進む道。そして辺境での争い。殿下は度々辺境へと赴かれるが今回は争いの跡がより色濃く残っていたらしい。不可侵条約を結びたいという自分の甘さ。それでも諦めきれない自分の気持ちと戦うことの意味、折り合いがつかず出来ることを模索している。自分が子供だということが改めて実感し、自分ならできるはずと自信を持っていた自分が恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのだという。


「こうやって弱音を吐かなくてはやってられない私など本当は何も成し遂げることなどできないかもしれない」


沈黙が流れた。殿下は小さく笑った。


「なんてな。今言ったことも私が子供で何も成し遂げられないのも本当のことだが。それは今の話だ。私にはまだまだ学ぶことが沢山あるし鍛錬も全く足りていないんだ。こうやって迷う度キーン達に甘えてしまうんだ。アメリア嬢にも恥ずかしいが聞いて欲しかった。私はやり遂げる。それだけは変わらないのだから今以上にやるだけだ。これはその決意表明みたいなものだ。こんなに弱音を撒き散らし恥ずかしい限りだがそれだけでは終わらせない。そうここで誓わせてほしい」

「ウィルは弱音をまき散らすほど強くなっていきますからね」

「いつも感謝してるよキーン。これからもよろしく」

「ウィルに足りない腹黒さが私の持ち味ですから。どこへでもついていきますよ」



殿下は本当に強い方だ。辛いこと悲しいこと悔しいこと全部受け止めて苦しんでそれでも前に進むんだ。


「アメリア嬢も聞いてくれてありがとう。君にとって誇れる『殿下』でありたかった。本末転倒かもしれないが」

「いいえいいえそんなこと…話してくださってありがとうございます。私も殿下から話していただいたという誇りを忘れずに殿下の決意を聞いた人間として相応しい人間。話を伺ってますます殿下の事を尊敬致しました。…申し訳ございません。失礼な事を言ってしまって」

「失礼なものか。ここでの時間は私にとって必要なものだ。アメリア嬢が熱心に勉強する姿も私たちに投げかける非常に鋭い質問も私の負けず嫌いに火をつけるんだ。負けていられないと」

「恐れ多い事です。ですがそう思っていただけたことが嬉しくてたまらないです。本当にありがとうございます!」

「お礼を言うのはこちらだと言っているのに…」

そう言って笑う殿下をみて私まで笑顔になる。幸せだった。これから私の進むべき道が輝いていくそんな気持ちだった。


「公務でまた学園にはしばらく来ないんだ。会えてよかったよ。ではまた」そう言って殿下達が立ち去り1人になって殿下の笑顔を思い出す。

それと同時に殿下からいただいた言葉を思い出して少し胸が痛くなる。

私は勉強していてもそれはただ好きだったからだ。オルセード兄様への感謝の気持ちと周りの人たちの悪意に負けたくないと意地になってる部分も大きかった。学んだことを何かに役に立てること、誰かの力になれることなんて、恥ずかしいことに一瞬も考えたことはなかった。殿下に褒めていただけることなんてちっともないんだ。

そこまで考えて、私にもできるかな、誰かの為になること。平和を願って努力すること。殿下の真似事かもしれないけどそれはとても素晴らしいことに思えた。

ぼんやりとした考えだったものが殿下のお話で明確な形が見えた。それを感じた私は決意を固めオルセード兄様に一通の手紙を書いた。



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