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パソコンを持って街を棄てろ!  作者: ケケロ脱走兵
25/58

(二十五)

 水墨画を描くといってもそう簡単では無かった。油絵は間違いを

直せたが、墨絵は間違いを直せなかった。さらに、筆先以外は紙と

接することが出来ないので、筆先の繊細な流れを指先の感覚で加減

して、その指先を手首で運び、その手首の動きを肘で助けて、その

肘を肩で支えなければならない。マンガはほとんどが手先の作業だ

ったが、肩の動きまでも筆先に影響することに驚かされた。そして

その全体の動きを統べる神経は片時もその筆先から目を逸らすこと

が出来ない。迷いは筆に伝わって迷いのある線となる。始めは一本

の横線も同じ太さで真っ直ぐに引けなかったので、新聞紙に線を引

く練習を何日も繰り返した。筆の先端の微妙な力の入れようで自在

に太さを変えることができるが、その自在さを会得することができ

出来なかった。息を止めて意識を筆先に集中し、ほとんど精神修行

に近い緊張感で没頭しなければならない。それはまさに、日本の伝

統文化の根幹を為す精神性に通じていた。一言で言えば、「精神の

潔癖性」だ。意識の集中は他者を排し、穢れを嫌う。墨絵は間違い

を犯せないのだ。

 「間違いは直せない」文化は、まさに日本文化の精神と符合する

。それは一度限りの人生に通じ、「真剣」勝負の武士道に通じる。

日本人はこの「間違いは直せない」文化の中で生きてきた。人は「

間違いは直せない」から隠そうとし、「間違いは直せない」から言

葉を慎み、さらに、「間違いは直せない」から改めることを躊躇う

。余所者を拒み、多情を好まず、純潔を尊ぶ。役人が頑なに前例を

踏襲するのも、そういった文化的な背景があるのだろう。しかし、

前例の地団駄ばかり踏んでいれば、我々はそれほどサルと違わない

のかもしれない。

 ところが、西洋絵画は「間違いは直せる」のだ。これは人を新し

い試みへ誘い、様々な思い付きが実践される、何故なら「間違いは

直せる」のだから。寧ろ、前例を踏襲することは新しいことを生ま

ない退屈なことだった。印象派の画家は独自性に拘った、新しいこ

ととは古いことを破壊することだ。「芸術とは破壊することだ」。

「間違いは直せる」文化はやり直しのきく社会だ。過去の失敗に拘

泥せず、「間違いは直せる」から謝罪し、「間違いは直せる」から

発言する。さらに「間違いは直せる」から間違いを正す。それは実

証主義を生み科学の発展を育んだ。真理とはそれ以上直すことので

きない「間違い」のことだった。

「あっ、しまった!また間違った」

水墨画は詰らぬことを考えていては間違いを繰り返す。

「よしっ、集中!集中!」

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