プロローグ
今僕は人生で1番の危機に直面している。難攻不落の家…別名、魔王城が攻略されかけていた。
うわぁ。どうしよう。僕も殺されるのかなぁ。あぁ、いやだなぁ…。
僕は柄にも無く部屋の周りをグルグルと歩き回ったり、オーバーに頭を抱えたりしていた。しかしそんなことをしても現状は変わらず、僕の部屋の外からは怒涛や悲鳴が飛び交っていた。中には女性の声や子供の声が混じっていた。
どうしよう…助けに……行きたくないけど…。
僕はクローゼットから護身用のナイフと父さんから貰った杖を持ってドアの前にたち、ゆっくり呼吸を整えた。
「……何してるんですか? 魔王様」
「うわぁぁ!」
僕の後ろには唯一の部下であるボティスがいつの間にか立っていた。彼女はテレポートを使ってよく僕のことを脅かしてくるのだ。
「こんな時に脅かすなよな…」
するとボティスは軽いため息をついてガッカリしたように方を落とした。
「はぁ、なんで私の主はこんなにビビリなんすかねぇ。」
「うっ…今は仕方が無いだろ。死ぬかもしれないんだから…」
僕は落とした杖を拾ってボティスに言い返した。しかし、ボティスはイタズラの成功が嬉しいのかニヤニヤしている。
「まっ他の人たちを助けに行こうとしたのは褒めるっすけどね。」
僕が他の人達を見捨てると思っていたのか。さすがにそこまで腐ってないはずだよな…。
「……それで? こんな状況で脅かしに来たわけじゃないだろ?」
ボティスはニヤニヤした顔を止めて珍しく真剣な表情で僕を見ていた。
「そりゃあもちろんっすよ。……大魔王様からの命令で、魔王達をどこかの遠くに飛ばせと言われましてね。」
そう言ってボティスはテレポートの為の術式の展開を始める。
「えっ! まっまって、そしたらこの城の人達とか父さんはどうするんだ?」
ボティスは僕の言葉を無視して術式の展開を続ける。すると僕の体が青白く光ってきた。きっとテレポートが完成したのだろう。
「…まぁ私たちも適当なところでトンズラするんで大丈夫っすよ。」
そう言ってボティスは服のポケットから少し厚みのある白い封筒を渡してきた。
「寂しくなったら読んで欲しいっす。」
「…分かった。 ぜったいに逃げるんだよ。」
俺はボティスから封筒を受け取った。まるで遺書のような気配がしてとても怖かった。
「それじゃ、魔王様もお元気で。」
そう言ってボティスは僕をどこか遠い場所へ転送させた。