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神様行為  作者: cmmm男
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#4 海だ!! 水着だ!! 海水浴場でボーイミーツガールの巻

#4 海だ!! 水着だ!! 海水浴場でボーイミーツガールの巻


 陽光のまぶしさに、思わず目を細めてしまう。

 そんな、夏真っ盛りである。

 大阪のとある海水浴場は、人で賑わっていた。

 砂浜の手前に、コンクリートで出来た階段がある。多くの人が通れるよう、横に長い。八段程の短い階段だった。皆ここを通って行く。

 その階段の前に、デイバッグを背負った二人の男がいた。

「いやー、皆見てみなよ。この人人人。嫌になるね」

「だったら、来なければ良かったじゃないか……」

 山田の言葉に、メガネを上げながら三角(みつかど)が答える。青色のハーフパンツに、アロハシャツ姿だった。アロハは、桜の花柄である。

「何言ってんだよ。嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ。せっかくの夏休み、皆で楽しい思い出作ろうって言ったじゃないか」

 山田は笑顔で返す。オレンジ色のハーフパンツに、チェックのシャツ姿だった。

「皆って……僕と山田君しかいないじゃないか」

「全くだよ。本当に、菱田(ひしだ)君と丸山(まるやま)君はどうしたのかなぁー。夏休み前に『絶対行こうね』って言ってたのに」

「山田が一方的に押し付けただけだろうが。嫌だから来なかったんだ」

「うるさいな! 僕だって気付いてるんだよ!」

 右に振り向いて、山田は声を荒げる。

「山田君、どうかしたの?」

「い、嫌。別に」

 そう言うと三角に向かって、わざとらしく笑った。

 息の続く限り笑うと、空に近い肺に、音を立てて空気を吸い込む。潮の匂いがした。

「とりあえず、砂浜に下りよう」

 山田は階段を下り始める。三角が後に続いた。

 二人とも、靴は学校に行く時と同じである。白靴下に、白いスニーカーを履いていた。


「さーて、この辺にしようか」

 山田は三角に声をかける。二人は随分(ずいぶん)歩いて、海水浴場の端あたりまで来ていた。

 海水浴場は、真ん中に行けば行く程、人でごった返している。

 二人がいる場所は、まばらに人がいる程度だった。

「何で、こんな所まで来るの?」

 額に光る汗を右手の甲で拭いながら、三角は訊く。

「だって、中央は元気な若人(わこうど)が一杯で怖いじゃないか。僕らの入り込む余地は無いよ」

「……やっぱり、市民プールにしとけば良かったんだよ」

「いや、ダメだよ。スイカ割りしたり、ブイまで泳げるか試して死にそうになったり、したいじゃないか」

「スイカ割りするの? ……二人なのに」

「本当は四人だったの! まぁ、少し落ちつこう」

 山田は砂浜に腰を下ろした。

 三角も座る。

 なぜか二人とも三角座りだった。

 デイバッグを横に置いて、ただ海を眺める。

 波が寄せては返す。

 単調な風景を、山田はどれほど見ていただろう。不意に三角の声が聞こえた。

「皆、何か見えてるんじゃないかって言ってるよ」

 二人の目は、海に向いたままだった。

「……何が?」

「さっきの山田君さ。誰もいないのに大声出したじゃないか」

「……ああ、あれ」

「最近、誰もいないのに喋るよねって言ってるんだよ。山田君に追いかけられた女子がいるらしいって、噂もあるし。何かあったの? 山田君」

「……何も無いよ。大丈夫、僕はまともだって。そんな事より何かしようよ」

 そこで、三角の視線が山田に向けられる。

「何かって、何?」

「何かって、そうだなぁ……」

「女子に声をかけるんじゃないのか」

「お前は黙っとけ!」

 口を手で隠し、山田は神様に小声で伝える。

「今回は、お前が海で出会うと言ったんだからな。『仲間がいれば何とかなる。今までは一人だから失敗したんだ』とも言っていたが、一人しか来ていないじゃないか。まぁ、三人来ていても、戦力にはなりそうにないがな」

「後で何とかするから、今は出てくるな。不審がられてる」

「山田君、どうしたの?」

 山田は、口から手をゆっくりと離すと、

「考えたんだけどさ……」

 喋り始める。

 本当のところ、何の考えも無かった。取りあえず話し始めただけだった。が、三角越しに岩場が見えた事によって、続きの言葉が浮かんだ。

「そこの岩場に、小さいカニとかいるんじゃないかな? 探してみようよ」

 三角は振り返り、岩場を見る。

「はぁ」

 首を(かし)げた。

「とにかく、ビーチサンダルに履き換えよう」

 山田はデイバッグを手に取る。


「うわぁ! 変な貝みたいなのが岩にへばりついてる!」

 山田の弾んだ声に、

「何だろう? トコブシかな?」

 少し離れた所で三角が答えてくれる。

「トコブシ? 何それ、聞いた事無い!」

「何しているんだ、山田。無理にテンション上げなくて良いぞ」

「思った以上に、素で上がってるんだよ。岩場で生き物見るの楽しい」

 神様に、活き活きとした口調で山田は答えた。

「ちっちゃい子供か、お前は。ドラマを起こせ」

「まぁまぁ、そう言わずに。考えてみれば、僕にはナンパする勇気は無いし、年齢的にもまだ早い。つまり、海での出会い方が無いんだよ。今日はこのまま、ほのぼのとした地味中学生の夏休みで終わる。それも良いんじゃないかな?」

「何? 出会わないのかよ」

「うわっ! カニだ、小さいカニがいる!」

「えっ! どこどこ!」

 三角の声に山田は反応した。神様そっちのけだ。

 ビーチサンダルを履いた二人の中学生は、カニの事しか頭に無い。

「うわっ、ほんとだ! 捕まえよう三角君!」

「あっ! 岩陰に隠れた。こっちから追っても、反対側に逃げるんじゃないかなぁ」

「よし。じゃあ僕が向こうに回るよ。挟み撃ちにしよう!」

 山田は岩場を歩く。足場が悪い為、足下に注意を払った。

 バランスを取りながら、進む。サンダルの薄い靴底に、岩の固さを感じた。

 やっとの思いで反対側に回りこむ。これで、浜辺側の三角と沖側の山田とで挟みこめた。

 山田の耳に、楽しそうな声が入ってくる。近くで男女が騒いでいる様だ。今は小さいカニを捕る事に夢中で、ほとんどその声を意識していなかった。

「よーし、これでもうカニの逃げ道は無くなったぞ。三角君、そっちから追いこんで!」

 三角に視線を移し、伝える。

 そのまま目を見開く。

「うん。そっちに逃げたら捕まえてね」

 山田は反応しなかった。

 隠れたカニを追い出すのに、三角は必死だ。その為、返事が無くても気にならなかったらしい。

岩陰を手で探った。

 カニは必死の横歩きで逃げる。山田がいる方に。

「行ったよ、山田君!」

 カニは山田の足下に来た。そして……通り抜けた。

 海の中へ消えていく。

「何してるんだよ、山田君! 捕まえられただろ!」

 三角の訴えにも、山田は反応しなかった。砂浜から目を逸らす事が出来ない。

 そこには、東雲(しののめ)と女子達がいた。彼らは楽しそうに、ビーチボールで遊んでいた。

(な、何だよあいつら。何でいるんだよ。……何か、隠れたい!)

「どうした……」

 山田の視線を追って、三角は振り返る。言葉が止まった。


「それー」

「うわっ、届かない」

 ビーチボールが砂浜に落ちた。女子達が笑い声を上げる。

 山田には何が面白いのか分からない。

 彼女達は、女子特有の箸が転がっても笑う世代なのだ。ビーチボールが落ちれば面白い。これは必然といえるだろう。

 山田の目の前で、笑顔が弾けていた。

 青春が繰り広げられている。そんな気がした。

 ボールを拾いに来るのは、小さい女子。

 みことだ。

 彼女の水着は、スカート付きの紺色ビキニだった。

 山田は運が悪い。みこととボールを線で結んだ延長線上に、突っ立っていたのだ。

 いたたまれない気持になった。

「ビーチボールは楽しいなっと……」

 みことがビーチボールを拾い上げる。彼女の目が前に向けられた。

 二人の視線が合ってしまう。

 反射的に山田は目をそらす。自分が何か悪い事をしたかの様な気になる。消えてしまいたいと思った。

先程のカニが、脳裏に蘇る。

 今度は、自分が追われる番になった気がした。

「あー! お前は……何か知ってる!」

「何だよそれ! ちゃんと覚えてろよな!」

 近くまで東雲が駆けて来る。

「山田君! それに三角君……だったよね?」

 一番会いたくない相手に、山田はあっさりと見つかってしまった。

「うん。東雲君は女子と来たの?」

 三角は笑顔で返す。

 それを見て、山田は止めてくれと思った。この状況で、対等に会話をするのは止めてくれと。

 対等では無いのだ。大差をつけられているのだ。だから会話をするのは、ましてやフレンドリーな空気を出すなんて事は、絶対に止めて欲しかった。

「うん。本当は来るつもりじゃなかったんだけど、皆に強引に連れて来られたって感じかな」

 そう言うと、東雲は眉尻を下げる。困った様な顔になった。そして右手で頭を掻く。

 その行動で、更に困った感は強まる。山田にはそう感じられた。

 東雲は、ワザとポーズをとっている訳では無いだろう。自然な行動がいちいち頼りなさげで、それが女子の気を引くらしい。


(何が、来るつもりじゃなかったやねん! 良いご身分やで、こいつはよ!)

「おい山田。女子がいるんだ、これは好機じゃないか」

「ごめん。今、神様の相手してるヒマ無い」

 山田は、小声で素早く告げた。

「何だと、山田!」

 山田は真剣だった。この後の事を考えると、今は余裕が無い。

 その様子を感じ取ったらしく、

「……少し、黙っていよう」

 神様は引き下がった。

「ねぇ、君達は――」

 東雲が話し始めた。

(ほら来た)

 山田は心の中でつぶやく。

 精神が敏感になっているのかもしれない。東雲が一言喋る間に、いくつもの言葉が頭の中を駆け巡った。

「――そこで――」

(何してるの? ってくるんだ。何て答える!? 何て答える!? 正直に答えるか? 何もやましい事はしてないんだ。正直に答えて何が悪い。

「僕達は、カニを捕まえようとしてたんだ」

 たったこれだけで良いんだ。サラッと言っちゃえば良いんだ。何ていう事の無い、簡単な事だ。向こうがビーチボールで遊んでいる間、僕達はカニを挟み撃ちにしていたんだ。向こうは男一人に、女子が一、二、三……五人か。って前より二人増えてる!? あれは……美人四天王が四人ともいる! くそぉ、こいつモテ度合いが増してるじゃないか! ……その事より、今は、人数に集中しないと。向こうは男一人に女子が五人だった。僕達は男二人のみだった。向こうはハーレム状態、こっちは女子無し。向こうはビーチボールでキャッキャッと騒いで、こっちはカニを挟み撃ち。…………何か恥ずかしい!?)

「――何してるの?」

「今、山田君と二人でカニを――」

「帽子が飛んだんだよ! 慌てて追いかけたんだけどね。どうやら、海に落ちてしまったようだ。まったく、ついてないよ」

「えっ? 何言って……」

 困惑した様子の三角に、山田は鋭い視線を向けた。その為だろう、言葉が止まる。

「それは大変だったね」

「東雲ー、向こうの人の多い所行こうよー」

 ビーチボールを抱えて、みことは東雲に言った。

「何で? ここの方が空いてるじゃないか」

 真っ当な考えだと言う様に、東雲は返す。

(そんな事言わずに――)

 と、山田は思う。

(――早くどっか行け)

 懇願混じりに命じた。

「海の家でカキ氷が食べたい。それに、ここは――」

 みことは喋りだしたが、すぐに途切れる。

 山田は誰とも目を合わせない様にしていた。

 それでも、視線を感じた。みことに見られている。

「――海水浴に来たって感じがしない。あっち行こうよー」

(ナイス、みこと。それで良い。ここはダメな奴のいる場所なんだ。じめっとして、カビ臭いんだ。そういう事で良いから、早く東雲を連れて行け)

 みことの発言に、美人四天王も同調する。

 やはり男だという事だろうか、山田は女子達が気になった。

 そらしていた視線を、彼女達に向ける。

 まず、三波ユリアと目があった。

 白いビキニ姿が眩しい。等と、思う余裕は無かった。

 彼女は悪臭を放つ生ゴミでも見るかの様に、嫌悪感丸出しだったのだ。

 大きいはずの瞳は、大半をまぶたで塞がれている。今は、細く冷たい目だった。

 本来整っている顔が、歪んでいる。下唇をひきつらせている為、口が半開きになっていた。そこから、白く綺麗な歯が見える。

 その歯は、強くかみ合わされていた。

 そんなユリアを見て、山田は通学路で追いかけた代償を感じた。

 それと同時に、「失うものが必要以上に大き過ぎないか?」と、誰かに訴えたい気持ちにもなる。

 他の女子に視線を向けた。

 こそこそと、彼女達は何事か喋っている。

 おそらく、自分に関する事だろう。山田はそう思った。決して褒められてはいないはずだ。それが内容の予想だった。

 女子達に向けた視線を外す。うつむき、岩場のくぼみに出来た小さな水溜まりを見た。更にその中に沈殿した細かな砂へピントを合わせる。

 気まずさの境地である。誰とも目を合わせられない。

 時が過ぎ、場の状態が正常に戻るのを、ただ待つ。

 浜辺のより良い場所へと、女子達は東雲を(いざな)う。

 彼は嫌がったが、引っ張り、押して、連れていく。

 山田は小さな小さな海の世界に沈む砂を見たままだった。声や、砂浜を蹴る音が耳に入ってくる。目を向けなくても、一連のやり取りが理解出来た。

「山田くーん! 一緒に遊ぼうよー!」

 みことに引っ張られ、ユリア達に押され、砂の上をスライドしながら東雲は叫ぶ。

 山田は顔を上げ、満面の笑みを囚われの男に向けた。

 手を振って見送る。

(誰がお前なんかと遊ぶか!)

 心の中で、ほくそ笑んだ。


 山田にとっての一難が去った後、また砂浜に座るだけの時間に戻った。三角も、やはり腰を下ろしている。

 二人はボーッと海を眺めたり、空を眺めたり。

「おい、山田。これからどうするんだ?」

 という神様の言葉にも、山田は反応しなかった。

「せっかく海に来たんだから泳ぐ?」

 三角が提案した。何の変化も起こらないこの時間を、終わらせたいのかもしれない。

「ううん。いい」

 海を見ながら山田は答えた。

「……じゃあ、帰る?」

「まだ、帰らない」

 言った後、立ち上がる。三角に向き直った。

「三角君に、言わないといけない事があるんだ」

「えっ?」

「神様、今から行動を起こすよ」

 三角には聞こえないと思われる声量で、神様に告げる。

 口が動いているのに、声が聞こえないからだろう。三角は小首を傾げた。

「大切な話なんだ」

 今度はしっかりした声で、山田は話し出した。

「……何だかわかる気がする。今の話で何を言おうとしているのか……」

「えっ? わかるの?」

「うん。海に来たのに泳がないし、かと言って帰る訳でもない。それには、重大な理由があるんだよね?」

「……わかってくれるの?」

 感動で、山田は心が温かくなった。まだ何も言っていないのに、玉砕覚悟でナンパする事を分かってくれている。

 二人には、強い繋がりがあるのかもしれない。

 東雲などでは無く、彼こそが親友になる存在なのではないか。山田はそう感じていた。

 自然と頬が緩み、笑顔になる。

「泳がないけど帰らないっていうのは、要するに、泳ぎたいけど泳げないって事だよね」

(……ん?)

「良いよ。僕の海パン貸してあげる」

 三角はデイバッグの中を探った。

 すぐに右手が上がる。男子用スクール水着が握られていた。

 紺色のそれは、山田に差し出される。白い生地がぬい付けられており、そこにマジックで「三角」と書いてあった。

「違うわ! 全然わかってへんやんけお前! だいたい学校のやつ持って来たんかよ!?」

 山田の口から唾が飛んだ。

「えっ? 水着忘れてないの?」

 三角は片眉を上げ、怪訝な表情を見せた。顔の動きに合わせて、メガネも傾く。

「じゃあ、何なの? それから、僕は学校のしか持ってないんだ」

「まず、余談を処理する。海パンは一つ買っといた方が良い。そして本題! 三角君! 僕が今からしようとしているのは、出会いだよ出会い!」

「であい?」

「そうだ。さぁ、同学年位の女子を探しに行くぞ」

 デイバッグを背負い、山田は歩き出す。

 三角は座ったままだ。

 動こうとしない。


 山田は立ち止まり、振り返った。

 それを合図にしたかの様に、三角が口を開く。

「無理だよ、山田君。僕はそんなの出来ないよ」

「何で?」

「そんなの……恥ずかしいし。やりたくないんだよ」

「だからそこに座っているのかよ。ずっと」

「どうしたんだよ?」

「海とか空を眺めてるだけで良いんか! もっと良い景色を見たいとは思わへんのかよ!」

「何を言ってるんだよ! 何でそんな声荒げるんだよ!」

「……三角君は悔しくないのか!」

「……悔しいって、何に?」

「…………」

 東雲に対してだった。

 山田は真っ青な空を見上げる。目を閉じ、一つ息を吐く。

 三角は自分とは違うのだ。と、冷静に考えた。

 彼には、東雲に対するわだかまりが無い。だから、普通に話す事も出来る。

 女子と良い感じになりたいとか、そんな事も頭には無いだろう。

 悪い事をしたなと、山田は思った。

「ごめん。僕が悪かった。もう帰ろうか」

 三角に言った後、小声で、

「今日は無理だ」

 神様に伝えた。


 山田と三角は、最寄り駅に向かっていた。海水浴場沿いの歩道を歩く。二人ともスニーカーに履き換えていた。

 歩道は車道と接している。ガードレールは無い。片側一車線の車道よりも、一段高くなっているだけだった。

 まだ陽は高く、行き交う車のボディに光りが反射している。

 砂浜からは、たくさんの楽しげな声が上がっていた。それらは混ざり合って、山田の耳に届く。

 周囲の騒がしさとは対照的に、二人は無言だった。

 山田は、三角よりも少し遅れて歩いている。

 あまり人のいない歩道で、三人組の男女とすれ違った。

 高校生位だろうと、一瞥して山田は思う。

「夜になったら肝試ししようよ」

 すれ違いざま、女子の声が聞こえた。

 足を止める。

「どうしたんだ、山田」

「今の女子達、肝試しするみたいだ」

「それで?」

「出会いのチャンスだよ。肝試ししてる時に、前みたいに木か何か割ってよ」

「それでどうなる?」

「驚いて、彼女はきっと腰を抜かす。その期に乗じて、隠れていた僕が体を触る。完璧な出会いじゃないか」

「どこがだ! そんなのは出会いではない!」

 神様はもっともな指摘をする。山田が本気で言っている訳ではないと、分かっているらしく、怒った声ではなかった。

 それでも、山田の頭には響く。

「…………ジョーダン、だよ」

「その間はちょっと本気だっただろ! 頼むぞ、山田」

「大丈夫だって、冗談だよ」

 立ち止まった為、三角との距離が開いていた。

 小走りで詰める。

 唇をキュッと締めた。

 神様の言う通り、少しだけ本気だったのではないか。その事に、自分は気付かされたのではないかという思いが、生まれていた。

 失敗を、楽しく笑って終わらせるのが辛い。だから、捨て鉢な自分が顔を覗かせた。

 一人の同級生の事が、思い出される。

 彼との詰められない距離に、追い込まれていた。


 今回のターゲット。

 無し。

 出会いを作る事すら出来ず。

 神様の評価は百点満点中、零点。

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