scene05
目を覚ますと、見慣れた天井がそこにはあった。
そのままボンヤリと眺め、目線に右手を重ねる。
何ら変わらない、いつも通りの右手だった。
軽い痛みに表情を曇らせつつも、傷口を擦りながらエリィは身体を起こす。
残り僅かな灯火だけで照らされる空間に、ゼイザルの姿はない。
どれほど眠りについていたのか、最後に鳴った鐘は何回か、現状がわからない。
一度外へ出て、ゼイザルが日々通っている狩り場を訪れようとも考えた。
だが、足がすくみ、一歩たりと扉の前へ進むことができなかった。
途方に暮れ、仕方なくゼイザルの帰りを身体を丸めて待つことにする。
薪に火をつけ、ただじっとその火を見つめる。
『アノ忌々しい、奴らニ、味方するノカ』
獣の言葉が、鮮烈に記憶に残っていた。
奴らというのは、本の中で会話をしていた二人のことなのだろうか。
その二人と、何か因縁があったのだろうか。
傷口を擦り、物思いにふける。
きっと本を巡り、あの獣は自分のところへ辿り着いた。
何かを探していたのは、本だろうとエリィは結論づける。
しかし、腑に落ちなかった。
『お前の血、黒色ダ』
気がかりな言葉が、印象に残っていた。
血の色に何か特別な意味があるのだろうか。
黒以外の色など、エリィに心当たりなどない。
そもそもなぜ本までたどり着けたのか、獣の行動を思い返してみる。
「におい、って」
何度も何度も、何かを嗅ぎ分けていたような仕草が、印象に残っていた。
『アア、お前カラ、まだ臭うゾ』
獣はどうやって、森の中を駆け巡ることができたのか。
『奴らノ、血の臭いガ』
何かが繋がったかのように、頭の中で言葉が蘇る。
「探してたのは、血のにおい……」
エリィは、本に描かれていた赤い文字を思い出す。
地下牢では物珍しさしか感じなかった文字だ。
その本を見た途端に獣がとった行動も覚えている。
獣が嗅ぎ分けていたのは、血だと分かった上で、察知する。
「あの赤い文字は、血?」