scene02
城下町はいつもながらランタンが必要でないほどに明るく、そして賑わっていた。
その明るさが視覚的な意味以外でもあってほしいと、エリィは常々、ここへ訪れるたびにふと思う。
エリィのような小柄な少女が、この場所には相応しくないほどに周りの人影は巨大で獰猛だ。
この場にエリィが人目に付かずにいられるのも、ゼイザルの「他の目につく身丈は避けろ」という助言あってもの。
いつものようにフードを深く被り、仕事を請け負う手配人の元へ足を速めた。
城下町の地下街に、お目当ての男はいつも同じ場所でたたずんでいる。
出会い始めこそ脅える一方だったが、いまではもうお手の物だ。ズカズカと紙束を眺める男の目の前まで歩く。
「おぉ、来たかフードのおチビちゃん」
「……どうも」
呼び名に多少の嫌悪を抱きつつも、お互い名を名乗り合ってない立場なため、グッとこらえる。
「いつも通りの、お願い」
「おうおう、わかってら。今回は……これだな」
紙束の中から一枚、男はエリィに差し出す。
目を通すと、大まかな作業内容と目的地が記されている。
「古い地下牢の清掃……」
「場所はわかるな? この先の門から城に入ってすぐ、報酬はいつも通り俺からだ。報告も俺でいい。さっさと済ませてきな」
「……いつも思うけど。掃除して報告先があなたって、ちゃんと清掃内容は確認されているの?」
「ああ? 野暮なこと聞くんじゃねぇよ。ここの連中が掃除なんてカスみてぇなことを好んでするわけねぇだろうが。『清掃は完了した』って形があればいいんだよ、ばかが。
だが本来清掃を任されてる兵士野郎がサボったのばれちまったら、そいつの面子にかかわるってだけだ。そのための雑用おチビちゃんの出番だろう? ゲハハ」
気にくわないが、それ以外にできることがないというのは事実だ。やり場のない屈辱にエリィは言葉を押し殺す。
依頼書を雑にポケットへ突っ込み、男にそっぽ向いて歩き始める。
背後から聞こえる「鐘がなるまでにちゃぁーんと終わらせるんだぜ、雑用小娘ー。ゲハハハ」という言葉に、さらなる憤りを抱く。
だが、エリィの背丈に合う仕事を請け負ってくれている唯一の人物だということを、重々に理解はしているため、機嫌を損なわせる行動を犯すわけにはいかない。
雑用と呼ばれる仕事だが、それがエリィにこなせる精一杯だ。
大きく深呼吸し、胸に手を当て気持ちを落ち着かせる。
「何て言われようが、私は私の出来ることにするだけ……」
後ろにいる男をチラリと見る。
あの男は他と同じで口が悪くただ煽ることが癖なだけだ。そんなことを気にする必要はないと胸に刻む。
小さく息をつき、城の門を目指した。