scene01
手に持つランタンの明かりだけを頼りに、エリィは森の中を歩いていた。
風で捲れそうになるフードを押さえながら、必死に足下を照らし道を逸らさず歩くこと数分、目的地である小屋へ辿りつく。
門前に立ち、扉を三回ノックすると、住人と思しき声が小屋の中から聞こえる。
「入れ」
低く響いた声を聞き、エリィはランタンの明かりを消し扉を開けた。
小屋の中は数本のロウソクだけが明かりを照らし、テーブルと見立てた丸い木と藁を敷き詰めた寝床、薪があるだけの部屋だった。
そして丸い木の側に腰掛ける、口周りに髭を生やした大男がいた。
「帰る途中、何もなかったか?」
大男はゆっくり立ち上がりながら、エリィにそう声をかけた。
エリィはフードを捲り、微笑みかける。
「うん。問題ないよ、ゼイザル」
「たいして食えるものはないが、食っとけ」
ゼイザルと呼ばれた男は、薪から焼かれた串魚を一匹摘み、エリィに差し出す。
軽く礼を添え、エリィは丸い木の側に腰を下ろし魚を頬張った。
再び腰を下ろしたゼイザルが、手を髭に添えながら顔色を伺っているのに気がつくと、エリィは再び微笑みかける。
「大丈夫だよ。お仕事、上手くいってる」
「そうか? それならいいんだが」
「ただお掃除するだけなんだから、何も危ないことはないよ」
「いいや、仕事中に何かに巻き込まれでもしたらだな……」
「ゼイザルは、いつも心配しすぎなんだよ。ごちそうさま」
串を薪へ戻し、エリィは寝床へ横になりまぶたを落とす。
「もう、休むね」
「……そうか。ゆっくりと休め」
パチパチと、背後でゼイザルが薪に火を起こしている音だけが聞こえる。
微かな暖かさが小屋に広がっていくのが伝わってゆく。
「エリィ、俺がお前を拾ってもう十年だ」
遠のく意識の中、ゼイザルが語り聞かせているのが耳に届く。
「お前は立派に成長した。確かに俺は、この世界じゃお前は生きていけないと思って、何年もこの小屋に閉じ込めてしまっていた。だが、いまとなっては一人で森を抜け、立派に自立するまでに至った」
「……うん」
微かな意識の中だが、エリィは小さくあいずちをうつ。
「だがな、これだけは忘れるな。やはりこの世界はお前では生きていくには厳しい。だから、無理してこの世界を生き抜こうと考えなくていい。俺を頼ってくれて、いいんだからな」
「……ありがとう、ゼイザル」
その言葉を最後にエリィは眠りについた。