表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き果てへ  作者: Kato Yoshihiko
プロローグ
1/5

scene01

手に持つランタンの明かりだけを頼りに、エリィは森の中を歩いていた。

風で捲れそうになるフードを押さえながら、必死に足下を照らし道を逸らさず歩くこと数分、目的地である小屋へ辿りつく。

門前に立ち、扉を三回ノックすると、住人と思しき声が小屋の中から聞こえる。


「入れ」


低く響いた声を聞き、エリィはランタンの明かりを消し扉を開けた。

小屋の中は数本のロウソクだけが明かりを照らし、テーブルと見立てた丸い木と藁を敷き詰めた寝床、薪があるだけの部屋だった。

そして丸い木の側に腰掛ける、口周りに髭を生やした大男がいた。


「帰る途中、何もなかったか?」


大男はゆっくり立ち上がりながら、エリィにそう声をかけた。

エリィはフードを捲り、微笑みかける。


「うん。問題ないよ、ゼイザル」

「たいして食えるものはないが、食っとけ」


ゼイザルと呼ばれた男は、薪から焼かれた串魚を一匹摘み、エリィに差し出す。

軽く礼を添え、エリィは丸い木の側に腰を下ろし魚を頬張った。

再び腰を下ろしたゼイザルが、手を髭に添えながら顔色を伺っているのに気がつくと、エリィは再び微笑みかける。


「大丈夫だよ。お仕事、上手くいってる」

「そうか? それならいいんだが」

「ただお掃除するだけなんだから、何も危ないことはないよ」

「いいや、仕事中に何かに巻き込まれでもしたらだな……」

「ゼイザルは、いつも心配しすぎなんだよ。ごちそうさま」


串を薪へ戻し、エリィは寝床へ横になりまぶたを落とす。


「もう、休むね」

「……そうか。ゆっくりと休め」


パチパチと、背後でゼイザルが薪に火を起こしている音だけが聞こえる。

微かな暖かさが小屋に広がっていくのが伝わってゆく。


「エリィ、俺がお前を拾ってもう十年だ」


遠のく意識の中、ゼイザルが語り聞かせているのが耳に届く。


「お前は立派に成長した。確かに俺は、この世界じゃお前は生きていけないと思って、何年もこの小屋に閉じ込めてしまっていた。だが、いまとなっては一人で森を抜け、立派に自立するまでに至った」

「……うん」


微かな意識の中だが、エリィは小さくあいずちをうつ。


「だがな、これだけは忘れるな。やはりこの世界はお前では生きていくには厳しい。だから、無理してこの世界を生き抜こうと考えなくていい。俺を頼ってくれて、いいんだからな」

「……ありがとう、ゼイザル」


その言葉を最後にエリィは眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ